【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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愛しい娘

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【 アイリーンの実父 レナードの視点 】


ペルランの隣国カスカード王のを訪れたのは、娶った妃を出産で失い独身に戻った21歳の時だった。

カスカードには美しい王女がいた。
話してみるととても賢くて、まるで王子教育を施されているかのような実りある会話ができた。

心を奪われるのは1日とかからなかった。

妃にと願ったが、侍従が仕入れてきた情報は婚約済みだった。しかも他国の王子との縁談で横取りできない。

いけないとは分かっていたつもりだったのに、彼女を抱いてしまった。

帰国して4ヶ月後にカスカードから使者が来た。

国王陛下父上に呼ばれて向かうと、使者は驚くことを言葉にした。

使『我がカスカード王国のイレーネ王女が懐妊いたしました。胎の子の父親はレナード王子殿下です』

王『レナード!!』

え!?…どうして…避妊は…?

私『確かに婚約者がいると知りながらイレーネ王女と結ばれましたが、避妊はなさらなかったのですか』

使『王女はまだ14歳。閨教育はなされていません。輿入れまで何年もあるため、成人してからという話になっておりました。
王女は行為自体も知りませんでしたし、避妊薬の存在も知りません。
事後にまずいことだとはなんとなく察したようで、誰にも告げずに今日に至りました』

王『婚約は』

使『他国の次期国王との大事な政略結婚であるが故 反故にできません』

私『産まれた子を引き取りたい』

使『王女はギリギリまで手元で育てることを望んでおります。

今回こうして参りましたのは、レナード王子殿下の血を分けた子がいることを知らせる義務があったからです。

そして婚約済みの未成年の王女に手を付けることは今後お控えいただきたいと主人であるカスカード王からの遺憾の意をお伝えするためです』

王『全面的にレナードに非がある。大変申し訳ないことをした。謝罪の文を準備させてもらおう』



使者を客間に通すと父上に殴られた。

『お前は21歳にもなって分別が付かないのか!!』

『…若いとは思いましたが未成年だとは思わなくて』

『14歳だぞ!』

『申し訳ございません。婚約者がいるのは分かっていても愛してしまったのです。
娶ることはできないのでしょうか』

『国王からの文だと 王女が婚約者の元に嫁ぐのは決定事項だと書いてある。大事な政略で且つ王子が見初めての婚約のようだ』

『……』


このことは公にはされず、3ヶ月の謹慎処分となった。更に、王太子内定の予定を白紙に戻った、

ペルランはカスカードに対し多額の慰謝料兼養育費を支払った。

そして産まれたのは女児だと知らされた。
出産祝いと毎年誕生祝いを送った。
返事は年に一度の小さめの肖像画。
髪と顔はイレーネに似ていて、瞳の色は私の色だった。それに耳の形が私と同じだった。

毎日肖像画を見て抱きしめた。
いつか会いに行こうと。
だがその機会は巡って来ない。
再婚した妃との間に3人目が孕んだところで手紙が届いた。

イレーネの婚約者の国から迎えに来た者達にアイリーンを目撃されて、彼女は誰なのかと聞かれてしまった。
仕方なく“国王の友人の孫だ” と答えた。
後で調査が入るかもしれないと、本当に友人の国王に預けることにしたと書いてあった。

私は腕輪を贈った。
内側にはペルランの紋章を彫った。
イレーネの国の紋章を隣に入れてからアイリーンに渡して欲しいと頼んだ。
これがアイリーンを守る腕輪になってくれることを祈った。

5歳でアイリーンは他国に渡り、その頃にはアイリーンを監視する密偵を放った。
数ヶ月後にはベロノワ伯爵家の養女になっていた。

偶然にも伯爵一家の顔とアイリーンの顔は似ているらしい。色は違うがベロノワ家に混じっても違和感がないという。

伯爵に会わせて欲しいと手紙を送ったが、返事はノーだった。

アイリーンは記憶が無く、人物もどこで育ったかなども思い出せないでいる。だからこのまま家族として育てたい。
アイリーンが自然に思い出したとき、もしくは何かのきっかけで自分が養女だと知ったときでないと会わせられないし、もしそのときがきても アイリーンが会いたくないと言えば会わせる気はないと書いてあった。

つまり永遠に会えないかも知れない。
僅かな希望に縋り付いてきたのに、それさえも叶えてもらえないのかと思うと絶望感でいっぱいだった。


アイリーンの婚約者の死
アイリーンの成人
アイリーンの卒業
アイリーンの婚姻
アイリーンの離縁

報告が上がる度に側にいられないことを悔やんできた。

そしてついにアイリーンは養女だということを悪意により知らされて、ベロノワ家の長男と再婚という話になっていると知った。

つまりベロノワ伯爵家の籍から出て受け入れ先を探すということだ。名乗り出たが断りの手紙が届いた。しかもアイリーンが会いたくないと言っていると書いてあった。

“会いたくない”



数ヶ月後、最初の妃との息子リアムが二人きりで話したと言い出した。

「父上は何を抱えておられるのですか。
何かを隠していて何かが父上の憂いになっていることは分かっております。
私は大人です。受け止めます」

「……」

「父上」

いつか何十年後かに父上が天に召され、私も天に召されたとき、アイリーンのことを見守る者が必要だと考えた。

「秘密にできるか」

「はい」

「私が動けなくなったり死んだら これから教える人物を守ってくれるか」

「はい」



リアムにイレーネとの出会いから今日までのことを話した。

「私に異母妹が」

「これが5歳までの肖像画だ」

「…妹」

「愛しいアイリーンに会いたい。…最初から一緒に暮らしたかったんだ」

「今は再婚してベロノワ伯爵家にいるのですか?」

「それが単身サルフェトのコンドラー港の改革を指揮している」

「会いに行きましょう」

「だが会いたくないと言われてしまったから」

「会いに行くべきです」

リアムの説得でサルフェトの王族を通して会いに行くことにした。



リアムを連れて行ってみると、王弟殿下が事情を察してくれていた。
腕輪の内側を見たらしい。

「コンドラー公爵家はすっかりアイリーン・ベロノワ夫人に魅せられて、番犬のように守ろうとしています。
まあ、無償でベロノワ港のようにコンドラー港を掌握して改革してくれているのだから当然ですが、夫人が夫人らしくない愛らしさで、私でも彼女が独身なら求婚しましたよ」

「会いたくないと以前返事を受け取りましたが、娘に会いたいのです」

「罵られても殴られてもひたすら謝ることです。
私にも娘がいますが息子とはまるで違います。
娘は姫様で私は思いを寄せる下僕。そんな気分になることもありますが、それはそれで満たされます。

先ずはコンドラー領に行きましょう。
子息のユーリの誕生祝いがありますから、夫人も出席すると思います。
前日入りして会いましょう」

「よろしくお願いします」



王弟殿下と一緒にコンドラー邸に到着するとコンドラー公爵からベロノワ伯爵と次男が来ていて、アイリーンと会わせるための条件は立会いと次男ジュエルの帯剣だと聞かされた。

そこまで私を警戒するのか。
ショックだが、のまねば始まらない。

「帯剣はかまわない。アイリーンを大事にしてくれている証だ」

「では夕刻に迎えに行きます」

やっと、

やっと会える。

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