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アイリーンとジュエル
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城門を通過すると甲冑を身に付けた兵士達が道の両側に立ち並び出迎えてくれていた。
「リアム殿下。これ、歓迎でいいですか?」
「そうだよ。アイリーンとジュエルを歓迎しているんだ」
「ちょっと申し訳なく思えてきました」
「大したことはさせてないよ」
馬車が止まると先に実父のレナード王太子殿下が下車し、リアム殿下 ジュエルと続き、ジュエルの手を取って私も降りた。
使用人の他にも出迎えてくれる人がいた。
「ようこそペルラン城へ」
「アイリーン、ジュエル。彼は城の管理をしているサミ・ルーセルだ。彼女は侍女長のローレン、メイド長のメリスンだ。
皆、彼女がアイリーン・ベロノワ。彼がジュエル・ベロノワで私の大切な客だ。丁重にもてなして欲しい。
長旅で疲れただろう。客間に案内させよう」
王太子殿下がさっと紹介して休めるようにしてくれた。
通された部屋はすごく豪華で落ち着かない。
ジュエルと隣同士で良かった。
荷解きを終えてジュエルが部屋にやってきた。一緒にお茶を飲みながら話を始めた。
「姉様は兄上と別れるんだよね」
「その方がいいと思うの。
やっぱり避けられていたことが どうしても無かったことにできなかったから。
信頼していた人だからこそ悲しかったの」
「分かった。僕はいつでも姉様の味方だし 心から愛してる。それを疑わないで」
「うん…だけどもしジュエルと何かあったら、私は二度とベロノワの地を踏まなくて済むよう ベロノワ領の物件を全て売却して何も告げずに去るわ。
手紙も出さない。」
「何かって、」
「私がジュエルを信用できなくなる何かよ」
夕食は王太子殿下とリアム殿下が部屋まで来て、4人で食べた。
明日の予定を教えてもらい、早めに寝支度をして寝ようとしたが眠れない。
迷ったけどジュエルの部屋に行ってみた。
小さなノックでドアを開けてくれてので起きていたのだろう。
誰だか告げずにすんなり開けてくれるのは、私達が声を出さずとも分かるようにノックの仕方に特徴を持たせたからだ。
「どうしたの?」
「眠れなくて」
ジュエルは私の手を引きベッドに寝かせようとした。
「いいの。顔を見たかっただけだから。
もう私達は成人してるし、姉弟でこうしているだけで駄目なのよ。
部屋に戻るわね。ありがとう」
「姉様」
ジュエルが引き留めるように抱き付いた。
「ジュエル?」
「僕も寂しくて眠れないんだ。
また僕を寝かし付けて」
「…いいわ」
椅子を運ぼうとしたけど、
「一緒に入って。夜は少し冷えるから。
体調崩したら僕が父上に怒られちゃうよ」
「そうなっても怒られないから大丈夫よ」
「お願い」
くぅっ! もうとっくに私より大きくなったジュエルなのに上目遣いでお願いされると断れない!
「寝付くまでね」
【 ジュエルの視点 】
初めて会ったときのアイリーンは内気で、僕たちには無い雰囲気を持っていた。
礼儀正しく我儘を言わず甘えもしない。
好き嫌いも無いと言って何を食べたいか聞かれても“手間のかからないもので”と答える。
商人を呼んでも店に連れて行っても、全く興味を示さない。
求められたら会話も外出もするし 当たり障りのない微笑みを浮かべるけど、一歩も二歩も引き半透明の分厚い壁を作っている。
アイリーンは家族と言っても違和感がないほど似ていた。だから使用人の中には“不義の子”と囁く者もいた。
そんなとき、母上がその使用人達を解雇した。
『あなた達の発言は、ベロノワ伯爵の品位を貶め 伯爵夫人である私を蔑み アイリーンの心に重荷を背負わせようとする愚行です。
彼女の出生は確かなもので、他国の高貴なお方の大切なご息女です。
下賎な憶測を子供達の耳に入れるなど言語道断。
今すぐベロノワから退きなさい』
これは兄上が父上に確認をとったことで発覚したことだった。それは僕も耳にしていた。
兄上は一目惚れだったことと、“不義の子”の意味が分かったことで激しく動揺したのだ。
血縁関係は一切無いと知って兄上は求婚した。
だけどアイリーンは逃げ出した。
そして階段から落ちて記憶を失くした。
娘が欲しかった両親は養女にすることにした。
そして僕と兄上にアイリーンを実の姉妹と思えと言った。求婚することも駄目だと。
兄上は悲観に暮れたけど、だからといって諦めることなどできず可愛がった。記憶が戻ることもあるし養女だと知ってしまうことだってあると僅かな望みにかけていた。
記憶を失くしてからは歳が近いこともあって、アイリーンが弟として面倒を見てくれようとしだした。
日に日に元気になり、あっという間にベロノワ家の一員となった。
遠慮を止めた彼女は、次々と領内で疑問に思ったことやアイディアを口にする。面白いと父上はそれをもとに検証をしたり見直しをしたりしているうちに、アイリーンを連れて常に外出するようになった。その内 港町の大改革が始まり、大型船も作らせた。その間に時々船にも乗って何かの実験をしていた。
気がつけばベロノワ港は活気に溢れ、清潔さを維持し、揉め事が起き難い港になっていった。
海難事故も減り、漁船や商船や客船がひっきりなしに駐停泊する港になった。
輸出入の要の港、観光に行きたい港、就職したい港として、ベロノワ港はどの港も真似たくなる憧れの港に生まれ変わった。
自分の港もと希望を胸にベロノワ港を視察して帰っていくが結局失敗に終わり、中には無駄に大金を失う領主もいた。
助けて欲しいとお願いされても父上は首を縦には振らなかった。
その内、父上はアイリーンを連れて他の領地をまわり、王城にも寄って帰るということを繰り返した。
「港の改革はアイリーンがいないと出来ないんだ。
アイリーンのような人がいれば可能だろう。
だが稀だ。となるとアイリーンが狙われるし妬みもある。そこで国王陛下に事情を説明して問題が起きたときの盾になってもらえるようお願いした。
アイリーンが大きくなるまでは能力を隠すことにする」
兄上はアイリーンに近寄る令息達を牽制し、僕は数ヶ月しか違わないアイリーンを見張る役目を言い渡された。
「リアム殿下。これ、歓迎でいいですか?」
「そうだよ。アイリーンとジュエルを歓迎しているんだ」
「ちょっと申し訳なく思えてきました」
「大したことはさせてないよ」
馬車が止まると先に実父のレナード王太子殿下が下車し、リアム殿下 ジュエルと続き、ジュエルの手を取って私も降りた。
使用人の他にも出迎えてくれる人がいた。
「ようこそペルラン城へ」
「アイリーン、ジュエル。彼は城の管理をしているサミ・ルーセルだ。彼女は侍女長のローレン、メイド長のメリスンだ。
皆、彼女がアイリーン・ベロノワ。彼がジュエル・ベロノワで私の大切な客だ。丁重にもてなして欲しい。
長旅で疲れただろう。客間に案内させよう」
王太子殿下がさっと紹介して休めるようにしてくれた。
通された部屋はすごく豪華で落ち着かない。
ジュエルと隣同士で良かった。
荷解きを終えてジュエルが部屋にやってきた。一緒にお茶を飲みながら話を始めた。
「姉様は兄上と別れるんだよね」
「その方がいいと思うの。
やっぱり避けられていたことが どうしても無かったことにできなかったから。
信頼していた人だからこそ悲しかったの」
「分かった。僕はいつでも姉様の味方だし 心から愛してる。それを疑わないで」
「うん…だけどもしジュエルと何かあったら、私は二度とベロノワの地を踏まなくて済むよう ベロノワ領の物件を全て売却して何も告げずに去るわ。
手紙も出さない。」
「何かって、」
「私がジュエルを信用できなくなる何かよ」
夕食は王太子殿下とリアム殿下が部屋まで来て、4人で食べた。
明日の予定を教えてもらい、早めに寝支度をして寝ようとしたが眠れない。
迷ったけどジュエルの部屋に行ってみた。
小さなノックでドアを開けてくれてので起きていたのだろう。
誰だか告げずにすんなり開けてくれるのは、私達が声を出さずとも分かるようにノックの仕方に特徴を持たせたからだ。
「どうしたの?」
「眠れなくて」
ジュエルは私の手を引きベッドに寝かせようとした。
「いいの。顔を見たかっただけだから。
もう私達は成人してるし、姉弟でこうしているだけで駄目なのよ。
部屋に戻るわね。ありがとう」
「姉様」
ジュエルが引き留めるように抱き付いた。
「ジュエル?」
「僕も寂しくて眠れないんだ。
また僕を寝かし付けて」
「…いいわ」
椅子を運ぼうとしたけど、
「一緒に入って。夜は少し冷えるから。
体調崩したら僕が父上に怒られちゃうよ」
「そうなっても怒られないから大丈夫よ」
「お願い」
くぅっ! もうとっくに私より大きくなったジュエルなのに上目遣いでお願いされると断れない!
「寝付くまでね」
【 ジュエルの視点 】
初めて会ったときのアイリーンは内気で、僕たちには無い雰囲気を持っていた。
礼儀正しく我儘を言わず甘えもしない。
好き嫌いも無いと言って何を食べたいか聞かれても“手間のかからないもので”と答える。
商人を呼んでも店に連れて行っても、全く興味を示さない。
求められたら会話も外出もするし 当たり障りのない微笑みを浮かべるけど、一歩も二歩も引き半透明の分厚い壁を作っている。
アイリーンは家族と言っても違和感がないほど似ていた。だから使用人の中には“不義の子”と囁く者もいた。
そんなとき、母上がその使用人達を解雇した。
『あなた達の発言は、ベロノワ伯爵の品位を貶め 伯爵夫人である私を蔑み アイリーンの心に重荷を背負わせようとする愚行です。
彼女の出生は確かなもので、他国の高貴なお方の大切なご息女です。
下賎な憶測を子供達の耳に入れるなど言語道断。
今すぐベロノワから退きなさい』
これは兄上が父上に確認をとったことで発覚したことだった。それは僕も耳にしていた。
兄上は一目惚れだったことと、“不義の子”の意味が分かったことで激しく動揺したのだ。
血縁関係は一切無いと知って兄上は求婚した。
だけどアイリーンは逃げ出した。
そして階段から落ちて記憶を失くした。
娘が欲しかった両親は養女にすることにした。
そして僕と兄上にアイリーンを実の姉妹と思えと言った。求婚することも駄目だと。
兄上は悲観に暮れたけど、だからといって諦めることなどできず可愛がった。記憶が戻ることもあるし養女だと知ってしまうことだってあると僅かな望みにかけていた。
記憶を失くしてからは歳が近いこともあって、アイリーンが弟として面倒を見てくれようとしだした。
日に日に元気になり、あっという間にベロノワ家の一員となった。
遠慮を止めた彼女は、次々と領内で疑問に思ったことやアイディアを口にする。面白いと父上はそれをもとに検証をしたり見直しをしたりしているうちに、アイリーンを連れて常に外出するようになった。その内 港町の大改革が始まり、大型船も作らせた。その間に時々船にも乗って何かの実験をしていた。
気がつけばベロノワ港は活気に溢れ、清潔さを維持し、揉め事が起き難い港になっていった。
海難事故も減り、漁船や商船や客船がひっきりなしに駐停泊する港になった。
輸出入の要の港、観光に行きたい港、就職したい港として、ベロノワ港はどの港も真似たくなる憧れの港に生まれ変わった。
自分の港もと希望を胸にベロノワ港を視察して帰っていくが結局失敗に終わり、中には無駄に大金を失う領主もいた。
助けて欲しいとお願いされても父上は首を縦には振らなかった。
その内、父上はアイリーンを連れて他の領地をまわり、王城にも寄って帰るということを繰り返した。
「港の改革はアイリーンがいないと出来ないんだ。
アイリーンのような人がいれば可能だろう。
だが稀だ。となるとアイリーンが狙われるし妬みもある。そこで国王陛下に事情を説明して問題が起きたときの盾になってもらえるようお願いした。
アイリーンが大きくなるまでは能力を隠すことにする」
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