【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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力量を知らぬ弟

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【 リアムの視点 】


コンドラー領から発つ前、ベロノワ伯爵から話があった。

「ジュエルはアイリーンの護衛の役割を果たします。二人を離すようなことは避けるようお願いいたします。
そしてジュエルはアイリーンの安全を優先します。
その代償は一切考えません。
アイリーンを傷つける者が王族でも剣を抜きます。
刺激をしないようお願いいたします」

「分かりました」

「そして、私はベロノワに戻り 長男オベールとアイリーンの離縁手続きを行います。
手続きが済めば、今回の婚姻のために受け入れてくださったカトリス侯爵家の籍となりますが、ペルラン王国に滞在中はベロノワを名乗るように伝えました」

「離縁ですか」

幼い頃の求婚と事故、記憶が蘇ったことでオベールが怖気付き アイリーンを避けたことで溝ができたことを知った。

婚姻の夜から二ヶ月以上もアイリーンを避けるだなんて。私ならそんなことはしない。
恵まれた環境に判断を鈍らせたのだな。

「アイリーンは産まれたときから様々なことがありました。オベールのことで燃料が切れたのでしょう。心を癒す時間が必要です」

「アイリーンがペルソナで心の休息がとれる方法を考えてみます」

「どうかよろしくお願いします」


モルガン・ベロノワ伯爵は血が繋がっていないにも関わらず、アイリーンの良き父として愛してくれている。
いろいろあったみたいだが、ベロノワ伯爵の養女になって大事に育ててもらえたのだろう。アイリーンが信頼しきっている理由がよくわかる。

長男オベールでさえも優先せず、アイリーンの気持ちを大事にしようとしている。それはアイリーンがペルソナの王子とカスカードの王女との子だからではない。完全に愛する娘に対する父親の眼差しだ。

そしてジュエル。
誰に教育されたらあんな風になるのか。伯爵からはジュエルが結びつかない。伯爵には別の面があって、それをジュエルが引き継いでいるのか。

とにかくアイリーンをペルソナに連れて行けることになって良かった。



妹弟との関わりがこんなに楽しいとは思わなかった。ペルソナへの道中では冗談を言いながら会話をしていた。長旅に苦痛を感じない。

私には異母弟が三人もいるが、やはり距離がある。
ブノアとシリルは“兄上”と慕うがロベールは自分が未来の国王になりたいと言い出した。
どう考えても器ではない。
だが、現王太子妃の第一子だから無視はできないでいるようだ。

父上がまだ継いでいないのに早いとは思うが、父の後に国王になるかならないかで婚姻相手が変わってくる。だから今のうちに決めなくてはならない。

私には婚約者がいる。ジャロイ公爵家の次女アニエスだ。ジャロイ家には子息がいて 既に跡継ぎ指名を受け、それに相応しい令嬢を妻にしている。だからジャロイ家に婿入りは望めない。

妃教育もかなり進んでいることから、もしロベールが未来の国王に指名されるなら アニエスはロベールの婚約者となるだろう。

その気のないブノアとシリルは既に婿入り先が決まっている。ロベールは婚約者を決めていない。
これにはイリス王太子妃の思惑が大きく影響しているはずだ。

ロベールがアイリーン達を侮辱して私の心を逆撫でした。

アイリーンはロベールの上をいっているし、ジュエルは王族のロベールでも止める者がいなければ制裁すると意思を示した。
本当にアイリーンとジュエルにずっと居て欲しくなる。二人が側に居て支えてくれたらどんなに幸せだろうか。


夜、ロベールの部屋を訪ねると未だ不貞腐れていた。

「あの二人に二度と無礼な態度をとるな」

「父上や兄上が気にかけるからじゃないですか」

「つまり、私達への嫌がらせということか」

「そもそも胡散臭いんですよ。10年以上前から港を改革していたとか。10年前なんて子供じゃないですか!女のくせに手柄を与えてもらっていないで、大人しく夫の閨の相手を務めて子を産んでいればいいんですよ」

「ロベール」

「グアッ!」

ロベールの腹を蹴った。

踞るロベールの髪を掴み上を向かせた。

「私は微塵もお前が大事ではない。

王になりたい?その器でか?
どんなに優秀な人材で周りを固めてもお前の愚かな頭と口が国を滅ぼす。
お前こそ王冠を与えてもらおうとしないで、大人しく婿に行って妻の機嫌を取りながら腰を振って子を作れ」

「こ、こんなこと…母上が黙ってはいないぞ」

「今度はママを引っ張ってきて盾にするのか?情け無い。それでも男か? お前ほどプライドも無く己を過大評価して生きていられる恥晒しとは会ったことがない。ブノアやシリルが馬鹿じゃなくて良かったよ」

「リアム!」

「よし。婚約者を決める前に2年ほど北の討伐隊に加えてやろう。北を担当する隊は身分なんか気にする者達じゃないし、足手纏いはさっさと見殺しにするからな」

「そんなこと できるはずは、」

「“可哀想だから一度だけチャンスを”と言ってお祖父様に進言してやる。ありがたいだろう?
2年乗り切ったら またレースに参加させてやろう。卒業が楽しみだな」

ロベールの髪を離して部屋を出た。
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