【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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最後の忠告

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【 リアムの視点 】


次に、ジュエルの部屋に行った。

「北の討伐隊ですか」

「今 帰ってきているから、鍛錬の相手をさせるぞ」

「外の任務を担った兵士にはご迷惑でしょう」

本当に良い子だな。

「いや。あいつらは喜ぶよ」

「ご迷惑でなければ」

「早朝に迎えにくるよ。早く休んでくれ」

「ありがとうございます」


最後にアイリーンの部屋を訪ねたが、

「アイリーン様はご就寝なさいました」

「早いな」

「ベッドを温めておきましたので」

「寒いのは苦手か」

「はい」

ペルソナうちは夜は少し冷えるからな。
必要な物があれば遠慮なく言ってくれ。コンドラーの方がいいと言われたら悲しいからな。
ロザリーナだったな。もう一人はセイビアンだったか」

「はい 殿下」

「アイリーンに就けたのは精鋭だ。もう少し楽に過ごしてくれ。君達に 疲れたから帰りたいと思われては困るからな」

「ベロノワの宝から目を離せば我らは光を失います」

「その気持ちは分かるよ。
だが、その宝が気に病むから。
分かるな?」

「ご忠告に感謝いたします」

「ベロノワで育てば あのロベールの毒気も浄化されたのかもな」

「……高貴過ぎてベロノワの手には負えません」

「ハハッ 押し付けないから心配しないでくれ。おやすみ」


最後に父上の部屋を訪ねた。

「討伐隊と鍛錬か。荒い剣術だが大丈夫か?」

「私の予想ですが、ジュエルの剣は正道というよりは北の討伐隊に近いと思っています」

「怪我をさせたらアイリーンが激怒するからな」

「はい」

そしてロベールの報告をした。

「イリスが反発するだろうな」

「ロベールを普通に婿にやっても、婿入り先でやらかします。没落させたり犯罪を犯すことになっては困ります。
今後 王族を迎えてくれる貴族が減るでしょう。
ブノアやシリル、その先の子孫のことを思えば一人の犠牲くらい覚悟してください。

犠牲という言葉は不適切ですね。
ロベールや王太子妃の犠牲になっているのは我らなのですから。

ロベールは全く反省していません。
禍根を残せばアイリーン達にまた矛先が向かないとは限りません。ベロノワ伯爵に顔向けができなくなります」

「明日の早朝鍛錬はロベールも参加させよう」

父上の腹は決まったな。



翌早朝、ジュエルの部屋に迎えに行くとアイリーンがいた。

「ジュエルってば。またボタンをかけ違えてるわ」

「姉様がやってよ」

「私より大きくなったのに まだまだ世話をやかないといけないのね」

「そうだよ 姉様」

かけ違えたシャツのボタンをアイリーンに外させて、かけ直す姿をジュエルは嬉しそうに眺めていた。

……羨ましい。こいつはずっとベロノワでこんな生活を送ってきたのか?

「ジュエル。メイドをつけただろう」

「リアム殿下、おはようございます。
ジュエルは他人に触れられるのが少し苦手で。
異性は特に受け付けません」

「へぇ」

ジュエルはいかにもという作った微笑みを浮かべた。

「ジュエル、屈んで」

ジュエルが屈むと アイリーンはジュエルの髪に指を入れ、手櫛で髪型を整えた。

「姉様の手 気持ちいい」

「可愛いジュエルに仕上がったわ」

「姉様、いつもの」

「チュッ」

「チュッ」

アイリーンはジュエルの頬に、ジュエルはアイリーンの額に唇をつけた。

「何してるんだ」

「今日も一日いいことがありますようにって おまじないです」

「もういいことあったよ。姉様が側にいるし僕のお世話をしてくれるっていう いいこと」

「私の可愛いジュエル」

クッソ。ずるいぞジュエル!

「アイリーン? 兄様にもおまじないを、」

「え?無理です」

「あはっ!」

ジュエル!笑ったな!


練習場へ行くと北の討伐隊が待っていた。
自己紹介をさせると、“本気ですか?” と目で訴えてきた。

「模造刀で相手をしてあげてくれ。身体が鈍っては可哀想だからな」

「かしこまりました。トマ」

隊長が指名したのは隊の中で一番下のトマだった。
だが、二人が構えた途端に隊長は待ったをかけた。

「トマ 退がれ。 バジル」

「はい」

隊長が指名し直した男は隊のナンバー2だ。

「始め!」

打ち合いが始まるとバジルの目の輝きが変わった。

やはりジュエルはこっちのタイプだ。
私達のように決まった型や打ち方などしない。変則的で荒々しい。  

体格差でもっと早く勝負がつくと思ったら、模造刀の軌道をずらして受ける衝撃を散らしていた。
長い打ち合いの末、

カランカラン……

「そこまで!」

模造刀を弾かれたジュエルは直ぐに取りに向かったが隊長がストップをかけた。
ジュエルに近寄り肩に腕を乗せた。

「そんなに悔しがるな。
俺達はこれで食ってるんだ。簡単に勝ってもらっては堪らない」

「僕だって大事なひとを守らなくてはならないのです」

殺気を隠さないジュエルの頭を撫でた。

「お姫様を守りたいのか。ならば滞在中に底上げしてやろう。だから落ち着け。気を鎮めてお姫様の側に行け。心配しているぞ」

「はい」

ジュエルは子犬の顔に戻してアイリーンの側に行った。

「手は痛くない?」

「ちょっと痛い。姉様が撫でてくれたら治る」

アイリーンはジュエルの手のひらに頬擦りをしだした。ジュエルは満面の笑みで見つめている。

てっきり手で摩る程度かと思っていた。
ジュエル!ずるいぞ!

「これはこれは。甘えるのが上手な小狼ですね」

隊長が私の側に来て小声で話しかけた。

「なかなかだろう?」

「うちに欲しいですけど、ツガイと離れそうにありませんね」

そこに遅れてロベールが姿を現した。

「ロベール殿下は我々との手合わせはきついのではありませんか?」

「あいつはアイリーンとジュエルを侮辱して、己が国王になれると思っている。
卒業後に2年間、北の討伐に連れて行って欲しい」

「死にますよ!?」

「足手纏いなら見捨てろ。助けに入らなくていい。
隊はロベールの護衛ではないからな。
先ずは今から打ち合いをしてやってくれ。何故か勝手に伸びる鼻をへし折りたい」

「かしこまりました」

今度こそトマが相手をしたが、瞬殺だった。

「トマ。手加減してやってくれ。打ち合いにならない」

「これ以上っすか?」

「っ!」

「目でも瞑ってくれ」

「さすがにそれは無理っすよ。
じゃあ、利き腕じゃない腕一本にしますね」

一応ロベールも剣術は習っている。見せかけの剣術だ。身を守れるように親身に教えていた兵士達も、負けると直ぐに機嫌を損ねるロベールに嫌気がさして態と負けてやるようになった。
だから今は想定外過ぎて動揺しているし、煽られたとムキになるだろう。


数分と保たずに剣がまともに握れなくなった。

「そこまで」

隊長がストップをかけた。

「ロベール。賊と対峙したその日がお前の命日になるぞ。馬鹿みたいに煽てられてないで真面目に鍛錬するんだな」

「あ、兄上…本気で?」

這いつくばるロベールのもとへ行き、しゃがんで囁いた。

「昨日お前に教えてもらったが、私はアイリーンを傷付けられるのが許せないようだ。それにお前よりジュエルが可愛い。足元にも及ばないくらいにな。
父上も腹を決めてくださった。
出兵前夜は最高の料理を食わせてやろう」

「私は弟ですよ!」

「アイリーンも私の妹だ。だが価値も愛しさも違う。お前の命を100個集めてもアイリーンの命1つに勝てやしない。そう思っているのは私だけではない。父上も同じだ…というか私以上だ。陛下も同じ判断をなさるだろう。
ブノアとシリルは大事にしてやる。イリス王太子妃は逆らわなければ据え置いてやる。有り難く思え」

「兄上…」







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