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傀儡
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【 ロベールの視点 】
『ロベール。あなたは将来王様になるのよ』
『お祖父様のように?』
『そうよ』
そう言われて育った。
13歳から剣術の基礎を教えてもらい始めた。
手にマメを作った私を見て母上はこう言った。
『ロベール。頑張る必要なんてないの。
将来は王様だと言ったでしょう?
周りの者にやらせればいいのよ』
学園に入ると成績は良くなかった。
家庭教師の授業をあまり真剣に受けていなかった。
だって母上が必要無いと言ったから。
最初は厳しかった先生も、教えるだけ教えて、私が理解しているかなんて気にも止めなくなった。
そのツケだろう。
私は成績の悪い者が集まる最下層のクラスにいた。
要人の子は一人としていない。
ブノアは財務部のトップである伯爵家へ婿入りが決まった。ブノアと令嬢は相思相愛らしい。
シリルはまだ幼い。私は未来の国王に指名されたら兄上の婚約者と婚姻することになるから今はいない。
『私とあなたのお父様は表向きは政略結婚だけど、レナード様が見初めてくださったのよ。
リアムの産みの母とは違うのよ』
母上はいつもそう言っていた。
『国王になるには、実母とその実家の支えが必要なの。つまり相応しいのはロベールなのよ』
そういつも言うのに、
『このことは他の人には話しては駄目よ。
暗殺されかねないわ』
母上は私に口止めをしていた。
ある日、全員集められた。
父上の口から異母姉の存在を知らされた。
ある国の王女に恋をして産まれた女の子。
今は別の国の伯爵家の籍に入っているようだ。
その子に会いに行く。
万が一、連れて帰れたら手厚く持て成して欲しいとお願いされた。
父上と兄上が旅立つと、母上は部屋で暴れた。
『不義の子だなんて!
しかも嫁に行ったのに今更連れてきてどうするのよ!』
『母上、落ち着いてください』
『私はあの人に侮辱されたようなものなのよ!』
母上は何日も喚いていた。
だから連れて帰らないで欲しいと願っていたが先触れが届いた。“招待したから手厚く持て成すように”と書いてあった。
そして連れて帰って来た異母姉は美しく、良く似た令息まで連れていた。彼との血の繋がりはないと言う。アイリーンはベロノワの実子じゃないのかと疑ったが、確かに瞳の色がお祖父様や父上と同じで耳の形も同じだった。
母上が可哀想で嫌味を言ったつもりだった。
だけど思った以上に叱られた。
もう学業は卒業している!?
不義ではなくて、母上との話が上がる前の恋愛!?
母上とは政略結婚で、恋愛はアイリーンの母親とだけ!?
母上の言っていたこととは違うし、お祖父様も父上も兄上も怒っていた。
特に父上と兄上の怒りは今までに見たことのない強さだった。
退がれと言われて母上達と退がったが、母上は未だ腹を立てていた。
『何がベロノワ港の改革者よ!10年以上前からって言ったら子供じゃない!
女なんだから手柄なんて与えてもらわないで 大人しく夫に媚を売って子を産めばいいのよ!』
夜に訪ねて来た兄上に母上が言っていたことを言ったら腹を蹴られた。
兄とは思えないような事や、更に北の討伐隊に入れると言われた。
北は隣国からよく賊が現れる厄介な場所だ。
衣食に関する物から金目の物まで狙われる。
それに便乗するかのように国内の賊も現れる場所だ。
そこを担当する隊は普通の騎士とは違うと聞いていた。
翌朝、練習場へ行くと既にジュエルが戦い終えていたところだった。
模造刀を渡されて戦ってみたが、いつもの剣術の先生とはまるで違う。
手合わせに呼ぶ兵士達とも違う。
打ち合うというよりは直ぐに隙をついてくる。
剣の動きが全く読めず、直ぐに負けた。
地面に踞ると兄上が近寄ってきた。
アイリーン達の方が価値があり大事だという。
「何故そんなに驚いた顔をするんだ?
お前の望む王位は玩具じゃない。大勢の命や暮らしがかかっているんだ。なりたいと言えばなれるものじゃない。
お前は今まで一つでも文句を言わず、陛下の孫という立場を利用して相手に手を抜いてもらわずに全力で打ち込んだものがあるか?
お前の学園での試験の成績は下から数えた方が早い。王族なら首位争いをして当たり前なんだ。
剣術も新米兵に教えるくらいに強くて当たり前だ。
外国語は一つでも話せるようになったか?
お前はどの貴族よりも一流の教師を付けてもらい最短の道を歩ませてもらっていた。その恵まれた環境に感謝するどころか錆びついた道に変えてしまった。
これ以上お前に金をかけるより、何人かの未来ある平民を支援して未来の幹部に育てた方が有益だよ。
お前の母親は、お前のことを本気で思って王になれと言っているんじゃない。いずれ王妃となり、その後は国王の実母として永遠の権力を手にしたいだけだ。もしイリス王太子妃が本気でロベールに王の器があると思っているなら、今の態度を嗜めて血の滲むような努力をしろと命じるだろう。
それをしないのは傀儡に都合がいいからだ。実の母から既に見限られているんだよ。
厳しい課題や 耳の痛い忠告も、チャンスをもらっていると思えなければ お前は這いつくばったまま朽ち果てる。もっと自分を大事にして自分の可能性を信じてみたらどうだ。
傀儡の王より尊敬される男になる方がいいとは思わないか?」
「……」
「やり直しは子供のうちが一番いいぞ」
部屋に戻りシャワーを浴びた。
“傀儡に都合がいいから”
その言葉が消えない。
だから母上を訪ねて試してみた。
「母上。私は田舎の平凡な貴族の婿になるか兵士になろうと思います。
私には国王など荷が重過ぎます。リアム兄上が相応しいかと、」
バチン!
「何のために育てたと思ってるの!」
「母親だからではありませんか」
「あなたは国王になるの!
田舎貴族!?兵士!? そんなものになっても何の足しにもならないわ!」
「足し?」
「何の権力も得られないじゃない!」
「母上は王太子妃です。私が国王にならなくても安泰ではありませんか」
「何を言っているの!
リアムが指名されて妻を娶ったら、私はどこかの離宮に追いやられるわ!
ロベールが国王になる事で私達は力を得るのよ!」
「私には務まりません」
「ロベールは座っていればいいの。一切のことは私に任せなさい」
「私の意思は?」
「あなたは私の言う通りに生きればいいのよ!」
「母上、私が大事なら私の意思を尊重してください」
「はぁ。こんなことならブノアを立てれば良かったわ。ロベールの方が単純だからと残したのに。
今更ブノアの婚約を解消だなんて必死で抵抗するでしょうし、シリルは幼過ぎるし 最悪だわ」
兄上の指摘は本当だった。
もう、城に勤める者達を見ても建物や庭園を見ても家族を見ても孤独しか感じない。
昼食後、一人になりたくて城の裏の奥へ来ていた。
なのに、そこに現れたのは馬に乗ったアイリーンとジュエルとシリルだった。
「ロベール兄様だ。学園は?」
「……休んだ」
「具合が悪いのですか?」
「私に構うな…うわっ」
シリルと話していたのに急に覗き込んだのはアイリーンだった。
「何してるの?」
「別に」
「何かあるのか?」
ジュエルまで!
「煩いな!私に構うな!
今朝の打ち合いで呆れただろう?」
「呆れたのは剣術じゃないけどね」
「確かに剣は向いてないな」
この姉弟は!!
「違うことを探せばいいじゃない。他にもたくさんあるじゃない」
「まだ大して試してないんだろう?
いろいろ試してから腐れよ」
「お前達なあ!」
「仕方ない。お姉様が一緒に探してあげよう」
「いいよ。また父上と兄上に叱られるからあっちに行けよ」
「あっちってどこ?」
「城だよ」
「散歩したいんだけど」
「すればいいだろう」
「それでここに来た」
「なんだよ!お前達も私が嫌いなんだろう!」
「懲らしめたいと思ったくらいね」
「殴りたくなったくらいだな」
「だから嫌いなんだろう!」
「やさぐれた怠け猫ね」
「確かに」
このしつこい二人は私を連れ回し、様々な事をさせた。
「今日のところは弓と編み物ね」
「棒が好きなのか?」
「疲れた」
散々あれこれさせられた。
夕食後はぐっすり眠った。
翌朝、身体も心も軽かった。
分かってる。
これは最後の転機かもしれない。
朝食でみんなの前で二人に謝罪をした。
「アイリーン姉様、ジュエル殿。私が全面的に悪かった事を認めて謝罪します。申し訳ありませんでした!」
「よし、許してあげよう。
帰って来たら遊んであげるから、ちゃんと学園に行くのよ」
「そうだぞ。僕と姉上にお揃いのショールを編んでくれな」
「なんでだよ」
「僕と姉様より才能があるからだよ」
「そうよ。ロベールは私の編んだショールが欲しい?」
「……姉上は見学だけの方がいいと思います」
「そうでしょう?任せたわよ」
「弓も続ければ相当な腕前になると言われたじゃないか。そのうち二本同時に放って射抜く技を見せてくれよ」
二人とそんな会話をしていると父上達が食い付いた。
祖父「弓か。それはいい」
父「何で早く言わないんだ」
兄「編み物!?」
ブ「遠くまで飛ばせますか?」
シ「僕、ぬいぐるみを編んで欲しいです」
私「どちらも試した程度で何とも」
ア「今、ロベールの才能探しを始めたばかりなのです」
ジュ「刺繍は向かないのでやめておいた方がいいかもしれません」
祖父「楽しそうだな」
父「いつの間に仲良くなったんだ?」
兄「見つからないと思ったら三人で遊んでいたのか」
シ「僕も一緒です」
兄「そうか四人か」
こんなに和やかな食卓は過去に記憶がない。
その夜、兄上の部屋を訪ねた。
「兄上の指摘は間違っていませんでした」
「確かめたのか」
「はい」
「辛いだろうが避けては通れない。ロベールが王太子妃の欲の犠牲になる必要はない」
「兄上。申し訳ありませんでした。
母上には、はっきりと王位は望まないと伝えました」
「そうか」
「では、失礼します」
「ロベール」
「はい」
「頑張ったな」
「っ!」
「偉いぞ」
「褒められるようなことでは、」
「自分を省みて、実母の本当の顔に対峙して、未来を修正しているんだ。辛くて決意のいることだ。
十分褒められるべき事だ。よくやった」
「あ…りがとうございます」
「しばらくロベールに付き纏うかもしれないが、アイリーンに危険なことはさせないでくれよ。
あの子は自分もやってみると言いかねないからな」
「既にジュエルに止められていましたよ」
「だろうな」
自室に戻りベッドに入った。
今日もぐっすり眠れそうだ。
『ロベール。あなたは将来王様になるのよ』
『お祖父様のように?』
『そうよ』
そう言われて育った。
13歳から剣術の基礎を教えてもらい始めた。
手にマメを作った私を見て母上はこう言った。
『ロベール。頑張る必要なんてないの。
将来は王様だと言ったでしょう?
周りの者にやらせればいいのよ』
学園に入ると成績は良くなかった。
家庭教師の授業をあまり真剣に受けていなかった。
だって母上が必要無いと言ったから。
最初は厳しかった先生も、教えるだけ教えて、私が理解しているかなんて気にも止めなくなった。
そのツケだろう。
私は成績の悪い者が集まる最下層のクラスにいた。
要人の子は一人としていない。
ブノアは財務部のトップである伯爵家へ婿入りが決まった。ブノアと令嬢は相思相愛らしい。
シリルはまだ幼い。私は未来の国王に指名されたら兄上の婚約者と婚姻することになるから今はいない。
『私とあなたのお父様は表向きは政略結婚だけど、レナード様が見初めてくださったのよ。
リアムの産みの母とは違うのよ』
母上はいつもそう言っていた。
『国王になるには、実母とその実家の支えが必要なの。つまり相応しいのはロベールなのよ』
そういつも言うのに、
『このことは他の人には話しては駄目よ。
暗殺されかねないわ』
母上は私に口止めをしていた。
ある日、全員集められた。
父上の口から異母姉の存在を知らされた。
ある国の王女に恋をして産まれた女の子。
今は別の国の伯爵家の籍に入っているようだ。
その子に会いに行く。
万が一、連れて帰れたら手厚く持て成して欲しいとお願いされた。
父上と兄上が旅立つと、母上は部屋で暴れた。
『不義の子だなんて!
しかも嫁に行ったのに今更連れてきてどうするのよ!』
『母上、落ち着いてください』
『私はあの人に侮辱されたようなものなのよ!』
母上は何日も喚いていた。
だから連れて帰らないで欲しいと願っていたが先触れが届いた。“招待したから手厚く持て成すように”と書いてあった。
そして連れて帰って来た異母姉は美しく、良く似た令息まで連れていた。彼との血の繋がりはないと言う。アイリーンはベロノワの実子じゃないのかと疑ったが、確かに瞳の色がお祖父様や父上と同じで耳の形も同じだった。
母上が可哀想で嫌味を言ったつもりだった。
だけど思った以上に叱られた。
もう学業は卒業している!?
不義ではなくて、母上との話が上がる前の恋愛!?
母上とは政略結婚で、恋愛はアイリーンの母親とだけ!?
母上の言っていたこととは違うし、お祖父様も父上も兄上も怒っていた。
特に父上と兄上の怒りは今までに見たことのない強さだった。
退がれと言われて母上達と退がったが、母上は未だ腹を立てていた。
『何がベロノワ港の改革者よ!10年以上前からって言ったら子供じゃない!
女なんだから手柄なんて与えてもらわないで 大人しく夫に媚を売って子を産めばいいのよ!』
夜に訪ねて来た兄上に母上が言っていたことを言ったら腹を蹴られた。
兄とは思えないような事や、更に北の討伐隊に入れると言われた。
北は隣国からよく賊が現れる厄介な場所だ。
衣食に関する物から金目の物まで狙われる。
それに便乗するかのように国内の賊も現れる場所だ。
そこを担当する隊は普通の騎士とは違うと聞いていた。
翌朝、練習場へ行くと既にジュエルが戦い終えていたところだった。
模造刀を渡されて戦ってみたが、いつもの剣術の先生とはまるで違う。
手合わせに呼ぶ兵士達とも違う。
打ち合うというよりは直ぐに隙をついてくる。
剣の動きが全く読めず、直ぐに負けた。
地面に踞ると兄上が近寄ってきた。
アイリーン達の方が価値があり大事だという。
「何故そんなに驚いた顔をするんだ?
お前の望む王位は玩具じゃない。大勢の命や暮らしがかかっているんだ。なりたいと言えばなれるものじゃない。
お前は今まで一つでも文句を言わず、陛下の孫という立場を利用して相手に手を抜いてもらわずに全力で打ち込んだものがあるか?
お前の学園での試験の成績は下から数えた方が早い。王族なら首位争いをして当たり前なんだ。
剣術も新米兵に教えるくらいに強くて当たり前だ。
外国語は一つでも話せるようになったか?
お前はどの貴族よりも一流の教師を付けてもらい最短の道を歩ませてもらっていた。その恵まれた環境に感謝するどころか錆びついた道に変えてしまった。
これ以上お前に金をかけるより、何人かの未来ある平民を支援して未来の幹部に育てた方が有益だよ。
お前の母親は、お前のことを本気で思って王になれと言っているんじゃない。いずれ王妃となり、その後は国王の実母として永遠の権力を手にしたいだけだ。もしイリス王太子妃が本気でロベールに王の器があると思っているなら、今の態度を嗜めて血の滲むような努力をしろと命じるだろう。
それをしないのは傀儡に都合がいいからだ。実の母から既に見限られているんだよ。
厳しい課題や 耳の痛い忠告も、チャンスをもらっていると思えなければ お前は這いつくばったまま朽ち果てる。もっと自分を大事にして自分の可能性を信じてみたらどうだ。
傀儡の王より尊敬される男になる方がいいとは思わないか?」
「……」
「やり直しは子供のうちが一番いいぞ」
部屋に戻りシャワーを浴びた。
“傀儡に都合がいいから”
その言葉が消えない。
だから母上を訪ねて試してみた。
「母上。私は田舎の平凡な貴族の婿になるか兵士になろうと思います。
私には国王など荷が重過ぎます。リアム兄上が相応しいかと、」
バチン!
「何のために育てたと思ってるの!」
「母親だからではありませんか」
「あなたは国王になるの!
田舎貴族!?兵士!? そんなものになっても何の足しにもならないわ!」
「足し?」
「何の権力も得られないじゃない!」
「母上は王太子妃です。私が国王にならなくても安泰ではありませんか」
「何を言っているの!
リアムが指名されて妻を娶ったら、私はどこかの離宮に追いやられるわ!
ロベールが国王になる事で私達は力を得るのよ!」
「私には務まりません」
「ロベールは座っていればいいの。一切のことは私に任せなさい」
「私の意思は?」
「あなたは私の言う通りに生きればいいのよ!」
「母上、私が大事なら私の意思を尊重してください」
「はぁ。こんなことならブノアを立てれば良かったわ。ロベールの方が単純だからと残したのに。
今更ブノアの婚約を解消だなんて必死で抵抗するでしょうし、シリルは幼過ぎるし 最悪だわ」
兄上の指摘は本当だった。
もう、城に勤める者達を見ても建物や庭園を見ても家族を見ても孤独しか感じない。
昼食後、一人になりたくて城の裏の奥へ来ていた。
なのに、そこに現れたのは馬に乗ったアイリーンとジュエルとシリルだった。
「ロベール兄様だ。学園は?」
「……休んだ」
「具合が悪いのですか?」
「私に構うな…うわっ」
シリルと話していたのに急に覗き込んだのはアイリーンだった。
「何してるの?」
「別に」
「何かあるのか?」
ジュエルまで!
「煩いな!私に構うな!
今朝の打ち合いで呆れただろう?」
「呆れたのは剣術じゃないけどね」
「確かに剣は向いてないな」
この姉弟は!!
「違うことを探せばいいじゃない。他にもたくさんあるじゃない」
「まだ大して試してないんだろう?
いろいろ試してから腐れよ」
「お前達なあ!」
「仕方ない。お姉様が一緒に探してあげよう」
「いいよ。また父上と兄上に叱られるからあっちに行けよ」
「あっちってどこ?」
「城だよ」
「散歩したいんだけど」
「すればいいだろう」
「それでここに来た」
「なんだよ!お前達も私が嫌いなんだろう!」
「懲らしめたいと思ったくらいね」
「殴りたくなったくらいだな」
「だから嫌いなんだろう!」
「やさぐれた怠け猫ね」
「確かに」
このしつこい二人は私を連れ回し、様々な事をさせた。
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「棒が好きなのか?」
「疲れた」
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翌朝、身体も心も軽かった。
分かってる。
これは最後の転機かもしれない。
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「よし、許してあげよう。
帰って来たら遊んであげるから、ちゃんと学園に行くのよ」
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「なんでだよ」
「僕と姉様より才能があるからだよ」
「そうよ。ロベールは私の編んだショールが欲しい?」
「……姉上は見学だけの方がいいと思います」
「そうでしょう?任せたわよ」
「弓も続ければ相当な腕前になると言われたじゃないか。そのうち二本同時に放って射抜く技を見せてくれよ」
二人とそんな会話をしていると父上達が食い付いた。
祖父「弓か。それはいい」
父「何で早く言わないんだ」
兄「編み物!?」
ブ「遠くまで飛ばせますか?」
シ「僕、ぬいぐるみを編んで欲しいです」
私「どちらも試した程度で何とも」
ア「今、ロベールの才能探しを始めたばかりなのです」
ジュ「刺繍は向かないのでやめておいた方がいいかもしれません」
祖父「楽しそうだな」
父「いつの間に仲良くなったんだ?」
兄「見つからないと思ったら三人で遊んでいたのか」
シ「僕も一緒です」
兄「そうか四人か」
こんなに和やかな食卓は過去に記憶がない。
その夜、兄上の部屋を訪ねた。
「兄上の指摘は間違っていませんでした」
「確かめたのか」
「はい」
「辛いだろうが避けては通れない。ロベールが王太子妃の欲の犠牲になる必要はない」
「兄上。申し訳ありませんでした。
母上には、はっきりと王位は望まないと伝えました」
「そうか」
「では、失礼します」
「ロベール」
「はい」
「頑張ったな」
「っ!」
「偉いぞ」
「褒められるようなことでは、」
「自分を省みて、実母の本当の顔に対峙して、未来を修正しているんだ。辛くて決意のいることだ。
十分褒められるべき事だ。よくやった」
「あ…りがとうございます」
「しばらくロベールに付き纏うかもしれないが、アイリーンに危険なことはさせないでくれよ。
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