【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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家族

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ペルランに来て最初の週末

「姉上。動かないで」

「何も肖像画に挑戦しなくても」

「姉上が“いろいろな事を試せ”と言ったんじゃないか」

「そうだけど、動きたいの」

「シリル。姉上の口にお菓子を入れてあげて」

「クッキー割ってあげるね」

シリルが小さく割ったクッキーを食べさせてくれた。

「シリルが食べさせてくれたから美味しいわ」

「えへへっ」

か、可愛い!

「姉様、あーん」

ジュエル。シリルと対抗しないで。

「上手い気がする」

ブノアがロベールの描いている絵を覗いて硬い笑顔を作った。

「ブノア、本当?」

「う、うん」

怪しいわね。

「姉様。肩を揉んであげるよ」

「ジュエル、ありがとう」

ロベールの絵描き時間は一時間半で終了してもらった。後は記憶を頼りにして また今度。


昼食を食べながら嘆いているのは私だ。

「私が一番才能少ないかも」

リアム殿下は乗馬と剣術とダンスが得意。
ジュエルは乗馬と剣術と弓術。
ロベールは今のところ乗馬と弓術と編み物。
ブノアは吹き矢と植物。
シリルは人の名前だった。

ブノアは植物図鑑をかなり覚えていて、庭園に出て聞くと答えてくれる。
シリルはメイドから貴族まで、会って名前を聞いた人は忘れない。

私はテーブルに突っ伏してウジウジしていた。

ジュ「姉様は港改革という特技があるじゃないですか」

リ「そうだよ」

ロ「微妙だな」

ブ「そんなことを言っては可哀想ですよ。きっと他にもありますよ」

シ「可愛い」

私「シリルちゃん!」

シリルを呼んで膝に乗せた。

シ「は、恥ずかしいです」

私「今のうちにしかできないからね」

ロ「じゃあ、私も」

私「ロベールは私より大きいじゃない」

リ「何だか私だけ仲間外れみたいだな。
みんなのことは名前だけで呼ぶのに、私は“殿下”呼びは酷くないか?」

私「……」

だって。リアムとは呼べないし、残るは“お兄様”になっちゃうんだもの。

ロ「あ~あ。兄上が可哀想。
アイリーン、アイリーンって付き纏ってるのに」

リ「ロベールっ」

私「……お兄様?」

リ「アイリーン!!」

ロ「うわっ。涙浮かべてる」

ブ「本当ですね…涙腺緩過ぎでは?」

シ「リアム兄様大丈夫ですか?」

ジュ「良かったですね、殿下」

リ「ジュエルも兄上って呼ばないと」

ジュ「え?」

私「そうなるわね」

ジュ「……兄上」

リアム殿下はすごく嬉しそうだった。



王都の街は既に巡ったので、どこの領地へ観光に行くか地図を広げて悩んでいた。

ロ「王都を出たことはないんだ」

リ「私はそれなりに」

シ「僕も行きたいです」

リ「王族がゾロゾロと一緒に旅をするのは難しいな。ロベールとブノアは学園があるし」

ロ「姉上とジュエルと行きたい」

ブ「この湖なんていいですね」

シ「滝をこの目で見てみたいです」

ジュ「兄上。ベロノワのために参考になりそうな場所はありませんか」

リ「ベロノワに行ったことがないから難しい質問だな」

ジュ「いつか来て欲しいです」

リ「ジュエルはいい子だな。船も乗りたいから父上達に頼んでみるよ」




陛「儂も行きたいな」

レ「私も譲りませんよ」

陛下と実父も行きたがったが陛下は絶対無理。
実父とリアム殿下がクジを引いた。

リ「やった!」

リアム殿下が同行してくれることになった。
行き先は湖畔に宿と店が建ち並ぶ人気の観光地と、彫金で有名な観光地に向かうことになった。

一週間以上の旅になる。


出発の日、実父はじっと私を見た。

「……」

「……」

リアム殿下がそっと近付き耳打ちをした。

「(アイリーン。父上は愛娘の旅に付き添えないから心配で仕方ないんだ。足を踏んでいいから抱き付いてやってくれないか)」

「……」

「(頼む)」

深呼吸をして ゆっくり歩み寄り、抱き付いた。

「アイリーン!!」

実父に強く抱きしめられた。

「パパと呼んでくれないか」

「お、お父様じゃなくて?」

「夢だった。アイリーンの覚える最初の言葉は“パパ”で、そう呼んでもらうのも甘えてもらうのも夢だった。
ずっと抱っこして公務をするつもりだった。
一人で寝たいと言い出すまでは私の部屋で寝かせたかった。
傾国の愛娘と呼ばれるほど可愛がりたかった」

「……パパ」

「アイリーン!! パパも行く!!」

「父上、そろそろ出発しますから。帰ったら愛でてください」

リアム殿下が引き剥がして私を馬車に乗せた。
そして兵士に“走って追いかけて来そうで危ないから止めてやってくれ”と言って出発した。

本当に走って追いかけて来ようとしていた。

「お兄様、さすがです」

「ずっと見て来たからね。ベロノワ伯爵とタイプが違うけど、優しい目で見てあげて欲しいな」

「王太子殿下の方がダメみたいな口振りですね」

「だってそうだろう?ジュエル。
伯爵は、アイリーンを我が子同然に愛して、アイリーンの気持ちを優先して、アイリーンを守ろうとなさる方だ。コンドラー公爵家や我らペルランの王族に全く物怖じなさらない。アイリーンの為なら我が子も制する選択をなさる素晴らしい方だと思うよ」

「「なるほど」」



二日かけて彫金の町に到着した。ここで依頼をして湖へ移動し、帰りにまた寄って商品を受け取るという予定だ。

既にある完成手前の商品に、好きな石を選んで指定した文字や絵を刻んでもらう。

ジュ「姉様。僕たちは指輪を交換しない?」

私「いいわよ」

リ「いいな」

ジュ「……兄上も?」

リ「ジュエルは優しいな。よし。一番細身のものにして二重に付けるのはどうだ」

私「そうしましょうか。
後はお父様とパパとお母様に。
陛下と王太子妃殿下とロベール達には置物を私達からと渡せばいいですよね」

リ「そうだな」

ジュ「何見てるの?」

私「セイビアンとロザリーナとエリスの分もね」

今回、セイビアンとロザリーナは休暇を取ってもらった。ずっと休み無しだったから。

ジュ「僕は仕方ないからオベール兄上の分を何か選んでおきます」

リ「アイリーンが選ばないのか?」

私「今頃は離縁が成立していますから」

リ「え!?」

私「なかったことにできない事があって。
彼は次期ベロノワ伯爵ですし歳上ですから、早く別の妻を迎えないと」

リ「そうか」

ジュ「姉様には僕がいますから大丈夫です」

リ「そうだな」

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