【完結】愛する女がいるから、妻になってもお前は何もするなと言われました

ユユ

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友人

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連れて来てもらったのは副団長の執務室だった。

「ガブリエル・ワイアーが王女殿下にご挨拶を申し上げます」

「ガブリエルの父でワイアー家当主のモーリス・ワイアーと申します。騎士団の副団長を務めております」

「アイリーンと申します。この先も王女として生きることはないと思います。アイリーンとお呼びください」

「かしこまりました。
ガブリエルと顔見知りとか。
聞かれたくない話があると言うのですが、私が席を外しても大丈夫でしょうか」

「はい」

「では、席を外します。ドアは開いていますので」

ワイアー副団長が退室すると彼はポケットから飴を取り出した。

「蜂蜜レモンのウサギだよ」

「ふふっ。ありがとうございます、ワイアー伯爵令息」

「俺もアイリーンと呼ぶからガブリエルと呼んで欲しいな。馴々しい?」

「ちっとも。
あの時はお世話になりました。
溺れて失くした記憶を取り戻したことがあったので、湖に入れば記憶が失くなるかと思ったのです。愚かでした。ワイアー領の大事な湖を曰く付きにするところでした」

「綺麗だったから妖精か女神か、とにかく神秘的な何かかと思ったが、靴が並んで置いてあったから人間だと分かって声をかけたんだ。落ち着いた?」

「はい」

「国に帰るとか」

「長くお世話になった一家にお礼を言う為と、婚姻の為に養子にしてくださった一家にお礼と除籍の話をしに行きます」

「…その後は?」

「ペルランにお世話になりそうです」

「戻って来るのだな?」

「はい」

「じゃあ、先ずは友達になろう」

「先ず?」

「その後 親友に昇格するかもしれないだろう」

「そうですね」

「あまり二人で狭い部屋にいても良くないから散歩に出よう。騎士団の区域だから色気はないがどうかな」

「お願いします」


スッと腕を出してエスコートをしてくれた。
これが紳士というものだろうか。
それとも…

「ガブリエル様はモテますか?」

「う~ん、その質問には答え辛いな。
そうですと答えれば自惚れた男か遊び人のように思われて、違いますと答えれば嫌味な男か嘘吐きだと思われる」

「つまりイエスですね?」

「だけど好きな子とは結ばれることはなかった。
学園で知り合って、ずっと片思いをしていたけど、彼女は婚約者を愛していた。
今では立派な男爵夫人だよ」

「思いを告げたことはあるのですか?」

「告げたけど、俺の言葉が信用できないと言われたよ。それに婚約者を慕ってるから、二度と話しかけないでくれって言われて、あの日は泣いたよ」

「私は好きだった婚約者と死に別れて、そのときに申し込んできた家門へ嫁ぎました。
ですが愛人がいて何もするなと言われたんです。
式の前日にですよ?
別に愛していませんし、初対面でしたし、何もせず予算付きの白い結婚なんて私からすれば天の恵みだったのに、日に日に公爵と愛人の仲が悪くなって こっちを向いてしまったのです。
私を好きなのか、側にいる女を使わないのはもったいないと思ったのか分かりませんが、閨事の強要をしてきたので逃げ帰ってそのまま離縁しました。

名ばかり公爵夫人のときに知り合った侯爵家が、次の婚姻のために養女にしてくださったのです」

「ん?公爵夫人になれる身分なのに養女?」

ベロノワ家の養女になり、離縁後にベロノワ家の長男と婚姻したことを説明した。

「で、その長男とは復縁できなかったの?」

「信頼していたからこそショックで。やり直そうという気持ちにはなれなかったのです」

「で、記憶が失くなればと?……まだあるのか」

「話の前も後も まだあります。
前は言えませんが、後もまだ今は口に出来ません」

「波瀾万丈といった感じだな。

俺は見合い婚をしたよ。害がなければ誰でもよかった。利害関係のある令嬢とは婚姻したくなかったから直ぐに決めたよ。

ずっと子に恵まれなくて、やっと授かったんだけど死産だった。
妻は全てを拒否して衰弱死してしまった。
湖のアイリーンは希望を失くした妻の表情と似ていたよ。
こんなに綺麗な子でも そんな顔するんだなって気になった。曰く付き云々は冗談だからね」

「……」

「元気になる兆しがあって良かったよ」

「お世話になりました」

「これからもよろしく」

「はい。よろしくお願いします」

「王都の屋敷に遊びに来ないか」

「怪我をした弟を置いて私だけ外出はできません」

「暗殺団と対峙した令息?」

「はい。血の繋がりはありませんけど」

そこで聞きなれた声が私の名を呼んだ。

「アイリーン」

「ジュエル……で歩いていいの?」

「いきなり長距離移動は辛いからリハビリがてらに装備の確認に行って来た。
そちらの方は?」

「紹介するわね。
ガブリエル様、彼はジュエル・ベロノワ。伯爵家の次男で弟です。
ジュエル。こちらはワイアー伯爵家の嫡男ガブリエル様よ」

「副団長の?」

「副団長は父です。

アイリーン…血の繋がりがないんだよね?」

「はい。似てるから養女にしてもらえたのです」

「どういう関係ですか」

「……アイリーンとは友人なんだ」

「友人?」

「ジュエル。私のお友達なの。外してもらえる?」

「っ!…失礼します」



ジュエルが立ち去ると、ガブリエル様が苦笑いをした。

「彼は歳が近いんだよね」

「はい。私の1歳下です」

「怖いな」

「怖い?」

「…君の前では大人しいようだね」

「ジュエルは優しい子です」

「彼に婚約者は?」

「いません。私の面倒をみているので忙しかったのかもしれません。もうすぐ解放しますので、すぐに婚約するはずです」

「まあ、彼ならそうだろうけど、多分しないんじゃないかな」

「どうしてですか?」

「あ、弟だ。紹介しよう」

通りかかった兵士を呼び止めると私に紹介してくれた。

「弟のヤニックだ。俺の5つ下で騎士団に所属している。

ヤニック。彼女はアイリーンだ。国賓だから失礼のないように」

「弟のヤニックです。
すっごく可愛いですね。兄上の毒牙にかかりましたか?」

「ヤニック?」

「兄上。こんなに若いご令嬢は駄目ですよ。
……顔小さい」

「ジロジロ見るな」

「ガブリエル様はやっぱりおモテになるのですね」

「王子でもないし派手な色じゃないのに次々と落ちていくんですよ。秘訣を教えてって頼んでも“そんなものは無い”って言い張るんですよ」

「ガブリエル様、秘訣は何ですか?」

「アイリーンまで 酷いな」

彼の腕から手を外すと、掴まれて腕に戻された。

「で、もう恋人ですか?」

「友人だ」

「ふ~ん。兄上が?」

また彼の腕から手を外したが、掴まれて腕に戻された。

「ヤニック」

「怖っ。 それではアイリーン嬢、失礼します」

ヤニック様は走って行った。

「急いでいらしたのですね」

「向こうからヤニックの上官が来るからな」

「ふふっ」

「アイリーン。明日も会ってくれる?」

「はい」

「明日はティータイム辺りに来るからメイドに用意させてもらえるかな」

「はい。お願いしておきます」

副団長の執務室に戻るとセイビアンが迎えに来ていた。

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