夫の愛が偽りだったと知った妻は離婚という名の復讐を決意する

ユユ

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ローズヴェルからシトロスへ

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私、エリン・シトロスはセラン王国のローズヴェル伯爵家の次女として生まれた。

父アントスは無口で厳しかった。抱きしめられた覚えも愛してると言ってもらえた記憶もない。褒められたことも遊んでもらった記憶もない。
兄カリスは後継者なので父から指導を受けていたけど、姉ローラと私には話しかけない。叱る時だけ声をかける。二度とやるなと短い言葉だけだ。
真面目な人で家にいるときは家族で食事をする。だけど私にはその時間は嬉しいものではなかった。粗相をしないよう最新の注意を払って食べる食事は楽しくなかった。

父達は政略結婚と聞いた。母イリーゼはふわふわした人で子爵家出身の美女。一方的に父に話しかけて時々短い返事をもらうだけ。母はそれだけで嬉しそうに微笑む。

忙しい兄とはかかわることがなかった。

姉ローラは母に似て美しかった。早々に公爵家から求婚され次男と婚約した。彼は姉に執着した。交友関係に口を出し、外出は事前申告、異性と親しげに話すと機嫌が悪くなった。
束縛は増していき、ついにはパーティで姉の髪を掴んで引き摺った。理由は異性と2人きりでいたから。本当は姉と姉の友人とその弟と3人で2階のバルコニーに出ていたのだけど、友人が花摘みに行ってしまったのだ。そこに婚約者が来て騒動になった。

姉は婚約を破棄したがったが、大した怪我もなく破棄は認められなかった。
公爵家は謝罪をしたが、その後姉は婚約者の誘いを全て断った。
すると姉の噂が流れ始め“男好き”の烙印をおされてしまった。具体的にどんな噂か私は教えてもらえなかったけど、1つや2つではなかったようだ。
その結果、あの騒動は姉に非があるという貴族の見解になり社交界から爪弾きにされた。そんなことになったら婚約を止めるかと思ったのに、婚約者は姉の全てに口を出すようになった。

結局、姉はローズヴェル家の私兵と駆け落ちをした。公爵家に多額の慰謝料を支払い婚約は破棄になった。こんなことになっても父は無言。
その時、私は14歳だった。

その後慎ましくなったローズヴェル家の暮らしに母も兄も不満を表さなかった。当時は知らされなかったけど、没落寸前だったとか。

私は家族の中でいつも取り残された存在だった。姉のような美しさはない上に、欠陥品になってしまったから。
本は元々好きだったけど益々夢中になった。特に歴史が好きだった。

ある日、お茶会で夫人方の話を耳に挟んだ。知り合いが投資に失敗した話だった。
その日から新聞を読み始め、母のお茶会の会話を盗み聞きするようになった。

15歳の時、母方の祖母が亡くなり財産分与があった。祖母は跡継ぎになれない孫3人に遺産を分配した。姉はその数には入っていなかった。

それを元手に買い物をした。母の友人のお屋敷に訪れた際、来ていた骨董商が持ってきた品の内の1つを個人で買った。宝石の付いていないブレスレットだった。

母は困った顔をしていたけど私には買った方がいいものに感じた。根拠はない、ただ感じるだけ。

結果的にそのブレスレットは王妃様の出身国の物で、今は亡き彫金師の作品。購入額の10倍で引き取ってもらえた。
それ以来、アレックス・マークス叔父様に王都に連れてきてもらって骨董品店をのぞいたりオークションに連れて行ってもらったりした。どれもで、祖母からもらった遺産は40倍になっていた。

アレックス叔父様は母の弟。マークス子爵家は母の兄のディオン伯父様が継いでいて、アレックス叔父様は手伝いをしている立場だ。

普通ならマークス子爵が引き留めるだろうし、父が私にオークション会場などに行くなと言いそうだけど、ある程度自由にさせてもらえる理由は私が事故に遭ったから。

9歳の頃、母と一緒に里帰りをした時、アレックス叔父様と一緒に馬に乗っていた。飛び出してきた動物に驚いた馬が暴れて私は落馬してしまった。その時に脚を怪我してしまい、リハビリに時間がかかった。普通の生活は出来ても走ることもダンスを踊ることも難しくなってしまった。

そのことがあるから私の望みだというとディオン伯父様(マークス子爵)はアレックス叔父様を止めないし、父も母の弟の罪滅ぼしだと思っているのか何も言わない。叔父様は領地にいる私を迎えに来て王都に連れてきてくれるのだ。

王都で銀行と契約して財産の9割を預けた。アレックス叔父様は私の手足となって、買い付けを手伝ってくれた。儲けの利益を叔父に2割支払い、4割をローズヴェル家に、4割を貯金した。


19歳の時、王都の骨董品店で24歳のヘンリー・シトロス様と出会った。彼は人当たりがよくとても優しかった。伯爵家の跡継ぎだった彼に何故婚約者がいなかったかなんてそのときは気にならなかった。ヘンリー様からの求婚に父は少し難色を示したけど、“最後のチャンスかもしれないんです”と言うと了承してくれた。

私は脚が不自由だし、兄や姉とは違って母に似なかった。父もそれなりの良い顔立ちをしていたけど、私はどちらのいいところを受け継がず、容姿は貴族令嬢の中では中の中だった。

姉の駆け落ちによる醜聞と慰謝料の支払いでうちは財産が大きく減り、さらに私の脚とパッとしない容姿のために良い縁談に恵まれなかった。

今では私が財産を増やしているけど、そんなことは誰も知らない。お父様と叔父様とヘンリー様を除いては。
ヘンリー様は良い人だし、ダンスなんかできなくてもいいと言ってくれた。彼しかいないと思った。だから翌年結婚した。


結婚して4年。

午後2時、シトロス伯爵家の執事達とエントランスで夫ヘンリー様を見送っていた。

「エリン、遅くなるから先に寝ていてくれ。夜更かしは健康に悪いからな」

そう言いながら額にキスをする夫は優しく微笑み出かけて行った。今日は知人と会うらしい。

「奥様、新聞をご用意しました」

「マークス家から手紙は届いているかしら」

「まだのようです。届き次第お伝えします」

私室に戻り、取り寄せた新聞を隅々まで読んでいく。何故私にお金になる話を判別する才能があるのかわからないけど、今でもそれは変わらない。
結婚してみてわかったけど、シトロス伯爵家の財政状況は裕福とはいえなかった。だから買って転売した方がいい品を見つけたとき、ヘンリー様に教えてあげることもあった。

シトロス伯爵家の領地に住み、年に二度か三度アレックス叔父様と王都へ行く。
ヘンリー様は3週間から1ヶ月ほど領地にいたら3ヶ月王都で仕事をするという生活をしている。
シトロス家は王都に屋敷を持っていないので、シトロス家と共同事業をしているリッヂモンド子爵家のタウンハウスに滞在していると教えてくれた。事業はお義父様の代から続いているのだとか。

お義父様は私が嫁入りしてすぐに病に倒れ、領地内の別荘にお義母様と暮らしている。伯爵位はヘンリー様が引き継いだ。
共同事業の話を聞こうとすると、そんなことは気にしなくていいと言われてしまう。共同事業だけでそんなに王都にいなくてはならないのかと疑問だったけど、社交も必要だから仕方ないと言われた。

私は社交はしなくていいと言われているから、せいぜいシトロス邸にお客様が来たときの持てなしくらいしか妻の義務はない。子供は残念ながら授かっていない。それでもヘンリー様は愛してくれる。

そう思っていた。



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