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兄 アレクセイ
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カチャ
「飲んでみてくれ」
淹れたてのお茶の香りを嗅ぎ、口に含みゆっくり飲み込んだ。
「美味しいです」
「良かった」
「メイドに教わって練習したんだぞ」
「お兄様は何をしても器用にこなしますね」
「これは努力したんだよ。少しな」
今日は魔術研究所に勤めるアレクセイ兄様のお部屋に報告に来ている。
鞄から写物を出してお兄様に渡した。
「…一度か?」
「はい。一度です」
「力を入れて殴ったようだな」
「咄嗟に机を掴みました。倒れずに済んで良かったです。頬も首も耳も痛かったですが治しました」
「可哀想に。だがこれで離縁ができるな。馬鹿で良かったよ。日時と署名まで書いてくれるなんて」
「もう少し実験をしたいのですが」
「お、やったのか、聞かせてくれ」
「ハミエルが愛人のパーティに行くというので、鼻毛の毛根を少しだけ活性化をさせてみました」
「毛根を元気にしたのだな?」
「徐々に伸びて会場では…ふふっ…こんな感じで鼻から筆が生えたかのような鼻毛が出ていたらしくて、混乱したハミエルは自身の火魔法で燃やしてしまいました。火力の調整をしなかったためか、火傷を負って、根本から はみ出していた鼻毛の分の範囲まで火傷がっ」
絵に書いて説明しているのだけど、手まで笑ってしまい、深呼吸して鼻の下を黒く塗った。
「馬鹿だな」
「しかも神殿と揉めて、年内は光魔法での治癒は受け付けないと言われたらしいのです。ですから、何が起きても医者を呼ぶしかありません。
この間は顎の内部にジワジワと少し広がる程度の弱い氷魔法をかけたのですが、ワインを口から溢して帰ってきて、医者に何とかしろと騒いでいました。
もちろん翌朝には効果は消えて、ハミエルは不思議がっていました」
「魔法の掛け方が器用だな」
「お兄様のご指導のおかげです」
「神殿と揉めたのか。医者が可哀想だな」
「迷惑料を別途払いましたので大丈夫ですわ」
「次は何をやるんだ?」
「いろいろと考えてはいるのですが土魔法の活躍が見込めなさそうです」
「土で嫌がらせか」
「ハミエルは散歩なんかしませんし、出かけるのは馬車なので、仕掛けられません」
「新たな愛人はできたのか?」
「実験をしていますので、阻止するかたちになってしまっています」
「なら、続きは愛人ができてからにしよう。早めに作ってもらわないとな」
「早めですか」
コンコンコンコン
ノックにお兄様が応対した。
「どうぞ」
ガチャッ
「お、邪魔したな」
「これはリオネル殿下、どうなさいましたか」
「いや、約束もしていないし出直そう。逢瀬の邪魔はできないからな」
「リオネル殿下、この子は妹のセシルです」
「セシルと申します。お目にかかれましたこと光栄に存じます」
「これはこれは、可愛らしい。アレクセイに似ていないからそこがいい」
「殿下? セシルは私に似ています」
「似ていないよ。
…人妻なのだな……証が2つか。ならば誘ってもいいのだな?」
「止めてください。セシルを汚そうとしないでください」
「だって自由恋愛の証が、」
「それはセシルの夫が刻ませたのです」
「自分が遊ぶためか。
セシルはいくつなんだ?」
「妹は私達の9つ下です」
「21歳か…おっ、写撮機で写したのだな」
殿下は手に取ると真顔になった。
「何だこれは」
「証拠です」
「誰がやった
…ハミエル・セヴリッジ?何の署名だ」
「夫に殴られたセシルが家令に写させて、その場で夫に日時と署名をさせたのです」
「セヴリッジ伯爵…じゃあ、彼女はセヴリッジ伯爵夫人なのか」
「はい」
「何で女を殴れるんだ。何があった」
仕方なく事情を話した。
「クソだな。さっさと別れろ。口添えするぞ」
「いや、セシルはもう少し頑張るらしい。義父が病気だし、今セシルが抜けると大変なことになる。
領地以外の細々とした事業はセシルが受け持っているからな」
王子殿下がじっと私をみた。
「やっていて勉強になりますし、コレでいつでも別れられますから」
王子殿下の目線が私の後ろへ向いた。
「何を隠してる?」
私の側に寄り、隠していた紙を取り上げた。
「あ、」
「……下手な似顔絵だな。鼻の下が二箇所黒いぞ?こんなところに こんなでかい黒子があるなら地獄だな」
「ふふっ」
「ハハハッ」
「どうしたんだよ 2人とも」
「それはセヴリッジ伯爵が鼻毛を燃やそうとして負った火傷ですよ」
「は?」
「ハサミで切るのではなく、火魔法を使ったらしいのです」
「2ヶ月近く部屋から出てきませんでしたわ」
「……爵位を取り上げた方がいいな。父上に言って、」
「だ、駄目です。観察して楽しんでいますから」
「まさか、本当は好きなのか?」
スン
真顔になり心から否定した。
「嫌な冗談ですわ、王子殿下」
「そうですよ。セシルに失礼です」
「分かった分かった」
「殿下のご用件は?」
「あの、私は失礼します。お兄様、また報告に上がります」
「待っていてくれ、送るから」
「大丈夫です。ちゃんと帰れます」
「悪いな」
「気をつけるんだぞ」
お兄様達と別れて屋敷に帰った。
【 リオネルの視点 】
夜、メイドが服を脱がせているときに、伝達事項を読み上げていた侍従があることに気が付いた。
「殿下…その痣…」
「!! 」
急いで鏡の前に立つと 胸の痣が薄くなっていた。
そういえば胸の苦しさも和らいでいる。気が付かなかった。
医者にも魔法使いにも 神殿に問い合わせても原因不明で、翌日の昼頃には胸の苦しさが戻り痣の濃さも戻った。
この呪いが解けるのかと期待した私が馬鹿だった。
「飲んでみてくれ」
淹れたてのお茶の香りを嗅ぎ、口に含みゆっくり飲み込んだ。
「美味しいです」
「良かった」
「メイドに教わって練習したんだぞ」
「お兄様は何をしても器用にこなしますね」
「これは努力したんだよ。少しな」
今日は魔術研究所に勤めるアレクセイ兄様のお部屋に報告に来ている。
鞄から写物を出してお兄様に渡した。
「…一度か?」
「はい。一度です」
「力を入れて殴ったようだな」
「咄嗟に机を掴みました。倒れずに済んで良かったです。頬も首も耳も痛かったですが治しました」
「可哀想に。だがこれで離縁ができるな。馬鹿で良かったよ。日時と署名まで書いてくれるなんて」
「もう少し実験をしたいのですが」
「お、やったのか、聞かせてくれ」
「ハミエルが愛人のパーティに行くというので、鼻毛の毛根を少しだけ活性化をさせてみました」
「毛根を元気にしたのだな?」
「徐々に伸びて会場では…ふふっ…こんな感じで鼻から筆が生えたかのような鼻毛が出ていたらしくて、混乱したハミエルは自身の火魔法で燃やしてしまいました。火力の調整をしなかったためか、火傷を負って、根本から はみ出していた鼻毛の分の範囲まで火傷がっ」
絵に書いて説明しているのだけど、手まで笑ってしまい、深呼吸して鼻の下を黒く塗った。
「馬鹿だな」
「しかも神殿と揉めて、年内は光魔法での治癒は受け付けないと言われたらしいのです。ですから、何が起きても医者を呼ぶしかありません。
この間は顎の内部にジワジワと少し広がる程度の弱い氷魔法をかけたのですが、ワインを口から溢して帰ってきて、医者に何とかしろと騒いでいました。
もちろん翌朝には効果は消えて、ハミエルは不思議がっていました」
「魔法の掛け方が器用だな」
「お兄様のご指導のおかげです」
「神殿と揉めたのか。医者が可哀想だな」
「迷惑料を別途払いましたので大丈夫ですわ」
「次は何をやるんだ?」
「いろいろと考えてはいるのですが土魔法の活躍が見込めなさそうです」
「土で嫌がらせか」
「ハミエルは散歩なんかしませんし、出かけるのは馬車なので、仕掛けられません」
「新たな愛人はできたのか?」
「実験をしていますので、阻止するかたちになってしまっています」
「なら、続きは愛人ができてからにしよう。早めに作ってもらわないとな」
「早めですか」
コンコンコンコン
ノックにお兄様が応対した。
「どうぞ」
ガチャッ
「お、邪魔したな」
「これはリオネル殿下、どうなさいましたか」
「いや、約束もしていないし出直そう。逢瀬の邪魔はできないからな」
「リオネル殿下、この子は妹のセシルです」
「セシルと申します。お目にかかれましたこと光栄に存じます」
「これはこれは、可愛らしい。アレクセイに似ていないからそこがいい」
「殿下? セシルは私に似ています」
「似ていないよ。
…人妻なのだな……証が2つか。ならば誘ってもいいのだな?」
「止めてください。セシルを汚そうとしないでください」
「だって自由恋愛の証が、」
「それはセシルの夫が刻ませたのです」
「自分が遊ぶためか。
セシルはいくつなんだ?」
「妹は私達の9つ下です」
「21歳か…おっ、写撮機で写したのだな」
殿下は手に取ると真顔になった。
「何だこれは」
「証拠です」
「誰がやった
…ハミエル・セヴリッジ?何の署名だ」
「夫に殴られたセシルが家令に写させて、その場で夫に日時と署名をさせたのです」
「セヴリッジ伯爵…じゃあ、彼女はセヴリッジ伯爵夫人なのか」
「はい」
「何で女を殴れるんだ。何があった」
仕方なく事情を話した。
「クソだな。さっさと別れろ。口添えするぞ」
「いや、セシルはもう少し頑張るらしい。義父が病気だし、今セシルが抜けると大変なことになる。
領地以外の細々とした事業はセシルが受け持っているからな」
王子殿下がじっと私をみた。
「やっていて勉強になりますし、コレでいつでも別れられますから」
王子殿下の目線が私の後ろへ向いた。
「何を隠してる?」
私の側に寄り、隠していた紙を取り上げた。
「あ、」
「……下手な似顔絵だな。鼻の下が二箇所黒いぞ?こんなところに こんなでかい黒子があるなら地獄だな」
「ふふっ」
「ハハハッ」
「どうしたんだよ 2人とも」
「それはセヴリッジ伯爵が鼻毛を燃やそうとして負った火傷ですよ」
「は?」
「ハサミで切るのではなく、火魔法を使ったらしいのです」
「2ヶ月近く部屋から出てきませんでしたわ」
「……爵位を取り上げた方がいいな。父上に言って、」
「だ、駄目です。観察して楽しんでいますから」
「まさか、本当は好きなのか?」
スン
真顔になり心から否定した。
「嫌な冗談ですわ、王子殿下」
「そうですよ。セシルに失礼です」
「分かった分かった」
「殿下のご用件は?」
「あの、私は失礼します。お兄様、また報告に上がります」
「待っていてくれ、送るから」
「大丈夫です。ちゃんと帰れます」
「悪いな」
「気をつけるんだぞ」
お兄様達と別れて屋敷に帰った。
【 リオネルの視点 】
夜、メイドが服を脱がせているときに、伝達事項を読み上げていた侍従があることに気が付いた。
「殿下…その痣…」
「!! 」
急いで鏡の前に立つと 胸の痣が薄くなっていた。
そういえば胸の苦しさも和らいでいる。気が付かなかった。
医者にも魔法使いにも 神殿に問い合わせても原因不明で、翌日の昼頃には胸の苦しさが戻り痣の濃さも戻った。
この呪いが解けるのかと期待した私が馬鹿だった。
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