【完結】些細な呪いを夫にかけ続けている妻です

ユユ

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滑る靴

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【 ハミエルの視点 】


今夜は第一王子リオネル殿下の30歳の誕生日の祝いに多くの貴族が集まった。

仕方なく 地味な妻セシルを伴って出席した…と言いたいところだが、この地味さは俺が半分になったセシルの予算を更に奪っているからだと知って、少し反省している。

今度のセシルの誕生日には俺の服を我慢してセシルに流行りのドレスを贈ろうと思っている。


リオネル殿下に挨拶する順番が回ってくると、セシルを見た後にリオネル殿下は俺を見て笑った。笑いを堪えきれないといった感じで横を向いて口を押さえている。

何なんだ?

「すまないな。ちょっと……無理そうだから行っていいぞ」

「あの、まだ挨拶も…」

「ハ、ハミエルだろう?…セヴリッジ伯爵…くっ…分かった。ありがとう。頼むっ 次っ」

何なんだ?

でも俺のことを覚えているんだな。
まあ、この美貌なら忘れられないか。

「では、失礼いたします」

「セシル、君は後で戻って来い」

「…嫌です」

「いいから来い」

「…気が向いたら、」

「来い。迎えをやる」

「失礼いたします」

何なんだ?


移動してセシルに尋ねた。

「お前、殿下と知り合いか?」

「兄の知り合いです」

「何で呼ばれたんだ」

「分かりません」

殿下に呼ばれて嫌がるなんて…そんなに俺と離れたくないのか?まあ、俺の方が顔がいいからな。

「気持ちは分かるが、流石に殿下が呼んでいるのに行かないわけにはいかないだろう。少しくらい行って来い。適当に相槌を打っておけばいい」

「? 分かりました」


出席者の挨拶が終わる頃、リオネル殿下の侍従が呼びに来た。

「セヴリッジ伯爵夫人、リオネル殿下がお呼びです」

「あれ? 目眩が」

「それはいけませんね。控え室がございますのでご安心ください」

「お花、」

「お花も摘めますからどうぞこちらへ」

渋々セシルは侍従について行った。

あいつ、仮病を使うほど俺と離れたくなかったんだな。


グラスと手に取り酒を口に含むと女が話しかけてきた。

「セヴリッジ伯爵、初めまして」

振り返ると まあまあ綺麗な夫人…じゃなくて令嬢がいた。

「初めまして、レディ」

「伯爵が素敵過ぎて先程から目が離せませんでしたの。私、エルローズ・ビズモンドと申します。
よろしければこの後のダンスにお誘いしてもよろしいでしょうか」

ビズモンドといえば資産家だったはず。男爵家だが まあいいだろう。

彼女と踊っている間に後日会う約束をした。

その後は若い男が好きだと有名なニーデル公爵夫人が、更にその後はロドス伯爵令嬢が、最後にはガロップ子爵令嬢が誘いをかけてきた。
いずれも一属性持ちの良家だ。

……参ったな。
魅力的過ぎて女を引き寄せ過ぎてしまう。
どうやって選ぼう。

金、家柄、顔、魔力…どれも大事だが、あっちの相性も大事だな。
よし、全員試してから選ぼう。

しかしセシルは戻ってこないな。


「珍しいわ。リオネル殿下が踊っていらっしゃる」

「お相手はどちらのご令嬢かしら」

「ああ、確かセヴリッジ伯爵夫人だよ」

はあ!?

近くにいた人達の話が耳に入り、タンスホールを見ると本当にセシルと殿下が踊っていた。

「セヴリッジ伯爵、夫人は殿下と親しかったのですか?」

「親しそうですな」

「え、いや…」

「いつも体調の優れない殿下がダンスを申し込むなんて…あら、自由恋愛を承諾なさっているのね」

「では夫人は殿下の愛人になるのですね」

「そんなことは…」

「ほら、殿下の楽しそうな表情をご覧になって」

「令嬢達が縁談を断るものだから心配しておりましたが、夫人は大丈夫そうですわね」

「もしかしたら、夫人は王子妃になるかもしれませんな」

は? あいつが王子妃!?
ないない。あれは王族からのダンスの誘いを断われなかっただけ。

セシルは俺を愛しているのだから。



2日後、ロドス伯爵令嬢と歌劇を見に行くことになった。あいにくの雨…いや寧ろ宿に誘いやすいかもしれない。

馬車で迎えに行き、劇場の前で停車した。彼女の手を取って歩き出すが…

ツルッ

「うわっ!」

「キャアッ!!」

彼女の手を握ったまま滑ってしまい、彼女を巻き込んで転んでしまった。
立ち上がって彼女を起こしたくてもツルツルと滑って前に横に後ろに転んでしまう。

「お嬢さん、お手をどうぞ」

見知らぬ男が彼女に手を差し伸べた。

「ありがとうございます」

「ロ、ロドス嬢っ」

「送りましょうか?」

男は俺がいないかのようにロドス嬢を誘った。

「よろしくお願いします」

俺を置き去りにして彼女は男と馬車に乗り消えてしまった。

あれ?滑らない…何だったんだ!?

自分の馬車に乗り屋敷に戻って泥や雨を洗い流した。靴の裏は何ともなかった。何であんなに滑ったのか…。

翌日、ロドス家に手紙を送ったが、“恋人ができました”と返事が返ってきた。
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