【完結】些細な呪いを夫にかけ続けている妻です

ユユ

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4度目の“無し”

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すっごく逃げたいわ。

「お好みはございますか」

「渋めが好きです」

「かしこまりました」

リオネル殿下付きのメイドがお茶を淹れてくれた。

パーティの翌日、何故か近衞騎士が私を迎えに来て、リオネル殿下専用の応接間に連れてこられてしまった。

ダンスで恐ろしい失態でもしたのかしら。
ハミエルがバラ園デートに出掛けた後で良かった。

「あの、何かの間違いでは、」

「もうすぐいらっしゃると思います」

「…はい」



少し待つと 護衛騎士と侍従を連れたリオネル殿下とアレクセイ兄様が入室した。
侍従は大きめの箱をテーブルに置くと騎士やメイドを連れて退室したので、私と殿下とお兄様の3人だけになった。

箱を開けるリオネル殿下の横で、お兄様の口が音もなくこう言った。“ごめん バレた”

殿下が箱から出したのは魔力判定の道具だった。実は3回触れたことがある。
10歳のときと、12歳のときと、婚姻前。
3回とも魔力無し、属性無しだった。

「記録によると“無し”と出ているけど、私はそうは思わない。これに触れて」

「……」

「セシル」

「嫌です」

「何故?」

「私は3回“出来損ない”と言われ、周りからもそう扱われ、婚約者は私を嫌い 婚姻後もです。神殿の記録を確認したのですよね?
殿下は何のために このような酷いことを私に強いるのですか?」

「っ!!」

「貴方が王族だからと従わねばなりませんか?」

「手を乗せてくれ」

仕方なく手を乗せるが何の反応もない。

「そんな馬鹿な」

「4回目の“出来損ない”認定をありがとうございました。神殿の記録に加えてください。
そしてもう2度と私に関わらないでください。殿下の評判に関わりますから」

「セシル、言い過ぎだ」

「私がどんな思いで生きてきたか!学園でもいつも独りぼっちで!何度隠れて泣いたことか!学園で出来損ないはたった一人だったのよ!
物を壊されたり 隠されたり 無視されたり 足を掛けられたり 押されたり 酷いことを言われたり、髪を切られたことも 制服を切られたことも 物を投げつけられたことも 飲み物をかけられたことも何度もあった!」

「駄目だ!落ち着け!感情を抑えろ!!」

「ああ、そうだわ。今度は“出来損ない”ではなく“バケモノ”と呼ばれますね」

まるで鳥肌が立つかのような感覚が全身を包んだ。

「セシル!私も殿下も死んでしまう!!」

慌てるお兄様の横でリオネル殿下が上着を脱ぎシャツを脱いだ。

!!

一気に感情の昂りが落ち着いていく…

「先に私のことを話すべきだった。すまない。
セシル。私の方が出来損ないだ」

殿下の胸には広範囲にいばらの蔦のような黒い模様が刻まれていた。だけど徐々に少し薄くなっていく。

「私は呪われた忌わしい存在だ」



【 リオネルの視点 】

パーティは憂鬱だ。私と踊ろうとするまともな者はいない。

12年間 私のためのパーティは開かなかったが、30歳の節目ということで妃探しをしろと勝手にパーティを準備されてしまった。

私の胸は黒いイバラの蔦が覆っている。呪いだ。
火魔法で魔力量が多いと魔力判定を受けた数日後、締め付けられる圧迫感と痛みとともにこの模様が現れた。
当然医師はお手上げ。神殿側は“呪いではないか”と言った。光魔法で症状を和らげることができなかったのは 痛みなどはあれど傷は無いからだ。つまり痛覚のある精神攻撃なのだ。

当然、妃に相応しい令嬢からは縁談を全て断られ、レベルを落としても断られ、回避リストに載った令嬢の一部が近寄ってくるだけだった。
本来なら資格外である下位貴族の令嬢と交流をはかろうとしたが、エスコートしようと手を差し出すと、拒否しているのが分かって、それ以来女には近付かないようになった。
両親は、その状態で王命婚姻をさせるのは悪手だと悟り、恋愛婚を狙いなさいと言い出した。

“きっとリオネルを愛してくれる人が現れるはず”

そんなこと ありはしないのに。

そして12年前に母は亡くなった。
それが益々人を疎遠にしていく。母が亡くなったのは私が受けた呪いの影響だと人々が陰で口にしたからだ。


そして今夜。
祝いを告げていく列が減っていき、途中であの子が目の前に現れた。この間 魔術研究所で会ったアレクセイの妹セシルだ。

彼女は私に普通に接してくれたな…

ふと彼女の隣を見るとかなりの美男子が立っていた。見たことがあるな。セヴリッジ伯爵…夫か。

『っ!!』

セシルの書いた、鼻毛を火魔法で燃やして火傷を負った絵を思い出し、笑いを堪えようとするが無理そうだ。挨拶はいいから早くあっちに行ってくれと口を押さえて手で合図した。

『殿下、失礼ですよ』

『後で説明してやる…プハッ!』

侍従の耳打ちに返しながら笑ってしまった。


楽しい。
こんなに楽しいのはいつぶりか。

セシルを呼んで来させて伯爵の話をした後、ダンスに誘った。彼女は驚きもじもじとしていた。
やっぱり駄目かと思ったが、そっと私の手の上に自分の手を乗せた。

『夫とも2度しか踊ったことがありませんし、兄以外誘われたことがありませんので、下手ですよ?』

『いいよ。足を踏み抜いても罪には問わない』


彼女の背中に手を回し、ステップを踏んだ。確かに上手くはないが、恥ずかしそうな表情が愛らしい。
特別美人でもなく、特別可愛いわけでもない。
平均よりは可愛い程度だが、なんとも心地よい雰囲気がある。この子のような令嬢なら一緒に生きて行けるかもと思った。

研究所で聞いた話では、タウンハウスで伯爵家の執務を任せられるくらい賢いようだ。
それに兄はアレクセイだ。妃にするには子爵令嬢は対象外だが、呪いを受けた私なら例外的に認められるだろう。
ただ彼女は人妻だ。小指に証があったから自由恋愛はできる。

そんなことを考えているとダンスが終わってしまった。

『また踊って欲しい』

『私などより 釣り合うご令嬢の方がいいですわ』

そう言って夫の元へ行ってしまった。


暫くしてまた 息苦しさが少し楽になったのを感じた。
慌てて王族控え室へ行き、胸を確認すると少し薄くなっていた。

もしかしてセシルか!?
3属性魔法使いアレクセイの妹だ。もしかしたら!

アレクセイに聞いても“判定はでした”というだけだし、神殿に問い合わせたら、3回とも“無し”と回答をもらった。

納得ができない。唯一の希望を見てしまったのだから。

判定の道具を借りてセシルを呼び出した。

セシルは怒りながら手を乗せた。

反応は無かった。

そんな……

セシルは怒り 涙を浮かべながら 辛かった過去を口にした。

『駄目だ!落ち着け!感情を抑えろ!!』

アレクセイが必死な声でセシルを宥めようとした。


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