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シオン殿下(雷に打たれる)
しおりを挟む視察の旅の中で、王女しか子がいない国に来た。
やっと産まれた子で国王夫妻が溺愛していると言う。
きっと我儘王女なのだろうと思い、見初められないよう少し感じ悪くすることもあった。
彼女はずっと同じ笑顔で接した。
3日目の晩餐で国王が婚約の打診をしてきた。
言葉を濁していると王女は国王に告げた。
「陛下。婿入りを希望なさるなら殿下は適しませんわ」
「そうか。
シオン殿、ステファニーを国外に出すつもりはないからこの話は無かったことにしてくれ」
「お気になさらずに」
5歳も下の14歳に適さないと言われたことに腹が立っていた。
最終日の出発前に王女に挨拶に行った。
次期女王だろうから。
最初から最後まで同じ笑みを向ける彼女の本性を見てみたくなった。
「王女殿下。婿に適さないとは何故でしょう」
「聞かずに帰国なさった方がよろしいのでは?」
「是非理由を知りたい」
「正直に話してもよろしいかしら」
「勿論」
「お座りになって」
「ありがとう」
彼女はお茶を頼むとメイドは茶葉を3種用意した。香りを嗅ぐと、何故この3つにしたのか聞いた。
「ステファニー様は気分転換が必要かと思いました。ひとつはオレンジの香りがする茶葉、ひとつはお好みの茶葉、ひとつは二度と口にしなくても構わない茶葉でございます」
どういうことだ?
「気分転換の茶葉にするわ」
「かしこまりました」
「王子殿下は何が目的で周辺諸国を巡っておられるのですか」
「視察です」
「具体的にお伺いしています」
「王太子が交代しましたので、これを機に新王太子が国王になった時のために周辺諸国との関係をより良好にしたく願い出ました」
「なのに事前調査はなさらなかったのですね」
「しました」
「あれで?」
「は?」
カップからお茶のいい香りが漂う。
「セヴリーヌ、ありがとう。
皆、下がってちょうだい」
彼女は人払いをして話を続けた。
「王太子殿下のために関係を良好にしたいというのは建前ですね。
良好にしたい国の王女相手にあの態度はあり得ませんわ。
もし、私と婚姻して国の代表としてあの態度で他国と接した日にはご先祖様達に申し訳が立ちませんわ」
「普段はそんな…」
「つまり私だからですわね。
きっと待望のひとり娘と聞いて我儘王女だと思ったのでしょう?
外交をなさるなら訪問先のことをきちんと調べるはず。
調べなかったとしたら視察とは名ばかりで税金を使ったお遊び旅行になりますし、さっきお答えいただいたように本当に事前調査をした結果の態度なら、隣国との関係を悪化させる報告を上げる無能以下の調査員を雇い、関係を壊して巡る王子殿下となります。
さて、どちらかしら。国の代表でいらした第三王子殿下」
この時、鈍器で殴られたような…という表現はこのことかと思った。
「次の国の訪問が最後になります。
一度帰国した後、再びここに戻ってゆっくり答えをお話させてください」
「長いのですか?」
「はい。何故愚かになったのか説明と謝罪をしたく王女殿下の慈悲に縋りたくお願い申し上げます」
「では、美味しいお菓子のお土産を待っていますわ」
馬車の中で頭を抱えた。
外交先で未成年の王女に叱責されたのだ。
最初から彼女に非の打ち所など無かったのに。しかも指摘されなければヒビをいれたまま気が付かなかった。
最後の国を周り国に帰って真っ先にステファニー王女の事を調べ直してくれと言った。
「何故調べ直すのですか」
「我儘王女ではなかった」
「誰が我儘王女などと説明申し上げましたか?私は待望の王女で唯一の子だと申し上げただけです」
「えっ」
「その先を説明しようとしましたら、もういいと制されたのは王子殿下です」
あの時……確かにそうだった。
「大変申し訳なかった。私がちょっとしか聞かずに先入観でとんでもない思い違いをしてしまった。其方に非は無い。
どうか続きを教えてくれないか」
「……かしこまりました」
王女は、女王となるのではなく王妃を目指しているらしいが条件があってまだ決まっていないらしい。その条件を見たが理由が掴めなかった。
成績は優秀で取り巻きなど作らず、1人の伯爵令嬢を懇意にしているという。
側に置く者は高位貴族から平民までおり、自分の意見を持ち進言できる者を選んでいた。
単なる寄付で済ませず、何かを手伝わせて報酬として孤児院に金を渡しているらしい。
散財もせず王宮内の評判がいい。
だが、学園内では伯爵令嬢と一緒に孤立気味だという。
私は次に義姉上に時間をとって欲しいと手紙を出した。直ぐに呼ばれた。
「久しぶりですわ。シオン殿下」
「お久しぶりです。義姉上」
「視察はどうでしたか」
「実はその事でお話が…」
ステファニー王女への無礼と調査結果を話した。
「あの後だとしても駄目ですわね」
「すみません」
「お金を持っている者は出すだけなら簡単でしてあげたと満足してしまう者が多いですわね。寄付を渋るよりはマシですけど。
王女殿下は稼ぐ喜びと厳しさを与えたかったのかもしれませんわ。
子供達の未来の為ですわね。
寄付だけで生きると中には物乞いや犯罪で稼ごうとする者もいますから。
学園生活と婚姻の条件は、その伯爵令嬢が大きく関わっているのではないでしょうか」
「伯爵令嬢が?」
「王女殿下は伯爵令嬢を側妃にしたいのかもしれませんわね。お気に入りなのかも」
「令嬢をですか?」
「会えばハッキリしますわ。
お茶の件は…ふふっ。
こういう意味よ。この無礼者との茶の味を思い出したくなければ出しませんのでこちらの茶葉を選んでくださいと言っていたのよ」
「なっ!」
「私が王太子妃だったら会って友人になりたかったですわ」
「義姉上…」
その後、直ぐにステファニー王女の元へ戻った。
「両方近いです。後者は私のせいです」
「つまり?」
元王太子と婚約者の不貞から始まり、逃げるように視察に出てしまったこと。
調査結果を冒頭しか聞かずに王女について誤解と先入観があったことを包み隠さず話して謝罪した。
「お土産は?」
「王妃殿下にお渡ししました。ステファニー王女殿下にはこれを」
「クッキー?」
「初めて作りました。料理人の指導で作っているので不味くはないと思います」
王女は包みを開けて食べようとした。
「王女殿下!毒味を…」
「貴方が作ったのならかまわないわ」
そう言って1枚食べると
「美味しいわ。素敵なお土産ありがとう」
と言って微笑んだ。14歳らしい笑顔だった。そしてまた私は雷に打たれたような衝撃というものを経験した。
未成年の王女に惚れてしまったのだ。
その場で跪き求婚した。
「ステファニー王女殿下!私と結婚してください!」
「はい?」
「私は貴女に惚れました!貴女のような素晴らしい女性に今後会える気がしません!
たった今、貴女は私に雷を落としたのです!
恋という雷です!責任を取って結婚してください!」
「ばっ、馬鹿言わないで!何言い出すの!」
「はぁ。真っ赤になって照れる貴女も可愛い。もう後戻りはできません。貴女が結婚すると言ってくださるまで滞在します!」
「早く帰ってください!」
立ち上がり、王女の両手を包み込んだ。
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