【完結】ずっと好きだった

ユユ

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その気になれない

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ほぼ毎日のように会っている。
買い物、お茶、食事、観劇、音楽や美術品の鑑賞……だけど一向に好きになる気がしない。

今日はステファニーに会いに王宮に来ている。

「どうなの?バルギル公爵令息は」

「見慣れたってだけかしら」

「ドキっとしたりは」

「まったく無いの」

「人としてはどう」

「分からない。猫被ってる可能性あるから。
やっぱり第一印象って大事だとよく分かったわ。なんだか無駄に一緒に過ごしてる感じしかしないの」

「他にいないし、まあいいかで結婚しそうとかは?」

「シオン殿下の学友で側近なのだから有能なんだろうし悪い人ではないんだろうけど、見た目に惚れるってことは、またそうなる可能性があるのかもしれないでしょう」

「アネット程の人は現れる可能性はすごく低いわね」

「美貌なんて衰えるものでしょう。
20年後には別の若い女の子を追いかけてそう」

「でも、浮気したら処刑よ」

「本気なの!?」

「本気に決まってるじゃない!浮気男が近くにいたら目障りでしょう」

「まぁ、そうだけど。
上手くやるかもしれないし、邪魔になってこっちが暗殺されちゃったり」

「まさか」

「恋に狂うって言うじゃない」

「よっぽど信用が無いのは分かったわ」

「変な男じゃなくて誠実で中身で好きになってくれる人はいないのかしら」

「テオドールのように?」

「テオは幼い時に私が片思いをしていただけよ。

でもそうね。法律で禁じられていなかったらテオがいいな。だけどテオに浮気されたら立ち直れないわ」

「……」

「テオも何年もしないうちに婚姻するのよね。寂しくなるな。従兄離れしないといけないんだけどね」

「バルギル公爵令息の方が歳上なんだから兄みたいな近さにはなれないの?」

「兄は口説いてこないでしょう」

「確かに。

ねえ、今度夜会があるんだけど、変装して動向を見張ってみない?」

「どういうこと?」

「メイドか騎士の変装をしてバルギル公爵令息の動きを見るのよ。

他の令嬢達に靡かなければ印象が変わるかもしれないわ」

「何だかステファニーは私とオードリック様をくっつけたいの?」

「選択肢としては悪く無いと思うのよ」

「何時やるの」

「明後日よ」

「すぐバレそう」

「甲冑を着ければ大丈夫よ!女性騎士のものがあると思うわ」

「分かったわ」

「明後日の夜会の警備は近衛の第三のはずだから、隊長を呼びましょう」

「やっぱり迷惑な気がしてきたわ」

「聞くだけ聞いてみましょう」







「近衛騎士団 第三の隊長、ヒューゼルと申します。ご令嬢のことは存じ上げております」

「な、何かしてしまいましたか」

「王女殿下の親友で美しいご令嬢ですから近衛で知らぬものはおりません」

「すみません」

「何故謝るのでしょう」

「ヒューゼル隊長、実は頼みがあるの。
迷惑だったら別の手を考えるからはっきり言って欲しいわ。隊長達は真剣に仕事をなさっているところにお邪魔をするのですから」

「すみません」

「まずは聞きましょう」

ステファニーはオードリック様との出会いから今婚約者候補として様子をみたいと考えていることを説明した。

「甲冑を着けて会場に立つのですね?」

「そうなの。顔も隠れるでしょう」

「すみません」

「今日明日、時間が取れますか」

「はい」

「着慣れぬ者がいきなり着ても不自然な動きになりますし、バレたくないなら警備の伝授が必要です」

「そうよね……やっぱりメイドにする?」

「王女殿下、ご令嬢がメイドになったら即バレます」

「カツラとメイクで…」

「バ・レ・ま・す!」

「すみません」

「じゃあ、預けていいかしら」

「お任せください」

「私の最愛の子なの。よろしくね」

「かしこまりました。
ゲラン伯爵令嬢、どうぞこちらへ」

「すみません」




隊長さんの後をついて行くと騎士団の区域に着いた。

「うちは女性騎士がいないが大丈夫かな」

「はい。アネットとお呼びください。
あ、でもコードネームが必要かしら」

「……」

「いざ何か指示を出す時に“アネット!”とか“ゲラン!”とか呼んだらバレますよね」

「ネイトにする」

「ありがとうございます」




「バーンズ!明後日の夜会の警備担当を集めてくれ!」

「ハッ!」

「すみません」

「そんなに謝らなくていい」

「皆様は大事なお仕事ですのに。なるべく迷惑をかけないようにします」

「……怪我はしないでくれよ」

「頑張ります」




10分しないうちに集まった。

「皆知っていると思うが、彼女はゲラン伯爵令嬢だ。今回、王女の婚姻前にシオン殿下の側近の動向を調査している。

そこで王女殿下よりゲラン伯爵令嬢に潜入調査の命が下った。

当日、甲冑を着けてバルギル公爵令息を監視する。

違和感がないよう今日明日でできるところまで教えるつもりだ。皆協力してもらいたい。

今から彼女をネイトと呼ぶように」

隊長、素敵!

「隊長、今日は何やるんですか」

「装備をつけてもらう。ちょっとでも慣れて貰わないとな。このまま動いてもらう。
ネイト、一言」

「皆様よろしくお願い致します」

「空いている者は訓練場へ来てくれて。
私達はネイトの甲冑を探しに行く。バーンズ行くぞ」

「ハッ!」




備品庫に連れてきてもらった。

薄暗くて冷んやりとしている。

「これはどうか」

「まだ大きいと思いますよ」

「これが一番小さそうなんだがな」

「隊長、この箱、未使用だと思います」

バーンズ卿が箱を開けると

「当たりですね。小さくて誰も使っていないようです」

「手入れが必要だな」

「教えていただければ私がやります」

「分かった。
アネット、足のサイズに合うものを探してくれ」

「はい」

「あとはこれだな」

「帯剣させるんですか」

「手ぶらの警備騎士など不自然だろう」

「確かに」

「隊長!ありました!」

「じゃあ待機室に行こう」







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