【完結】ずっと好きだった

ユユ

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潜入準備

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現在、甲冑を磨いております。

「ネイト、そんなに丁寧に磨かなくていい」

「は、はい」

じっと見られてる…

「すみません」

「謝らなくていい」

「はい」



磨き終わると装着することになった。

この格好、ちょっと恥ずかしいな。でも厚着すると暑くて倒れちゃうしな。

「……よし、バーンズと同じ様に甲冑を着けろ」

「はい」



結局手伝ってもらいながらなんとか着たが

「重いっ」

「軽い方だ」

「ひえっ」

「情けない声を出すな」

「はいっ」

「練習場まで行くぞ」

「はいっ」




時間をかけて演習場に着いた。
バーンズ卿は私の動きがお気に召したらしくずっと笑ってる。

「剣を抜いてみてくれ」

「はいっ」

抜ききれない!

「隊長…長すぎて抜けません」

「プッ」

「バーンズ、笑ってないで短めの剣を選んでこい」

「ハッ!」

「すみません」



バーンズ卿が剣を持ってきて腰に装着し直してくれた。

「ありがとうございます」

「抜いてみろ」

「はいっ」

スーッ

「しまえ」

「はいっ……あれっ、あれっ」

「プッ」

「バーンズ!」

「だって隊長、こんなに可愛い騎士、ヤバイですよ」

「ふうっ。入りました」

「ネイトは一周歩いてみろ」

「はいっ」




15分後。

「痛いか」

「大丈夫です」

「すまない。付き添うべきだった」

「私が悪いのです。無茶なお願いをしているからこうなったのです」

5分も経たずに転んで1人で起き上がれず、隊長が急いで起こしてくれたけど、ヘルメットを外したら鼻血が出ていた。

隊長は大慌てで私を抱き上げ医務室に連れてきてくれた。

「先生」

「ヒューゼル隊長、彼女は大丈夫ですよ。
鼻血は少量です。他に傷はありません。
ただ、あちこち痣が出てくるでしょうね。
あと筋肉痛が心配なくらいですよ」

「ありがとうございます」

バン!

「アネット!!」

「ステファニー」

「怪我をしたって聞いたわ!」

「転んだだけよ」

「私が余計なことを考えたから」

「私のためにしてくれたことじゃない」

「王女殿下、申し訳ございません」

「ステファニー、隊長は悪く無いの。私が鈍臭かっただけなの。何も無いところで転んだだけなの。お忙しいのに良くしてくださったわ」

「王女殿下、アネット嬢を家まで送ることを命じていただけませんか。心配です」

「ヒューゼル隊長、アネットを屋敷まで送ってちょうだい」

「かしこまりました」

「そんな、大丈夫です」

「屋敷で休みながら配置図を説明します。大事な合図も教えておかないと」

「お願い致します」






ゲラン邸の私室で。

「この合図は?」

「来い」

「この合図は?」

「とどまれ」

「この合図は?」

「襲撃」

「この合図は?」

「侵入者あり」

「助けて欲しい時は?」

「胸に手を当てます」

「明日も装備を着けて歩くが大丈夫か」

「頑張ります」

「よくマッサージしてもらえ」

「はい」

「今日は長風呂はするな」

「はい」


「……彼との婚約は絶対なのか」

「そうじゃないんです。オードリック様が申し込まれて、滞在期間が有限なので父が交流の許可を出したのです。

父は私に気持ちがないのに嫁がせるつもりはないので強制ではないのですが、他に許可の出た人はいませんでし、働くのは無理だと言われていますし、他に選択肢がないのも確かです」

「そうか」

「明日は何時にお伺いすればよろしいでしょうか」

「午後一番でどうか」

「はい。午後一番に」

「迎えに行くから馬車の中で待っていてくれ」

「はい」

「では、失礼する」

「ありがとうございました」

「そのまま大人しく座っていなさい」

「でも」

「ネイト」

「かしこまりました」

隊長は頭をひと撫ですると帰っていった。



すぐに母が来て興奮気味だ。

「ヒューゼル侯爵家の次男ね!男前だわ!」

「お母様」

「明日も会うの?」

「練習するだけです」

「夜会に甲冑で潜入なんてなかなかできない経験よ」

「そうですが、すごく重いのです」

「甲冑のまま抱き上げて運んでくださったのでしょう?見たかったわ~」

「鼻血顔ですけどね」

「それはロマンチックじゃないわね」

「恥ずかしかったです」

「ふふっ」

 



翌日は会場で動いたり合図の練習をした。

「私は基本的にネイトの近くにいるが、何かあれば離れる場合もある。その時は合図が無ければ会場から出るなよ」

「はいっ」

「あと明日1人でも会場入りしたら声を出すな」

「はいっ」

「本当に体は大丈夫か」

「筋肉痛も慣れました」

「ところで、反対されなければ何の職を考えていたんだ?」

「メイドです」

「成程……」

「あの、明日、お花摘みしたくなったらどうしたらいいのでしょう」

「行くしかないから私に声をかけてくれ」

「すみません」

「謝り過ぎだ」

「す…、はい」

「じゃあ、着替えよう」

1人じゃ甲冑を脱ぎ着できないので手伝ってもらっている。

軽くて頑丈な素材って無いのかしら。

「痣、できたんだな」

「まあ、所々にできましたがすぐ消えます」

「………」

「ヒューゼル隊長は優しい方ですね」

「そうか?」

「こんなことに付き合わされて迷惑だって思われても仕方ないのに最初から親切でした。
嬉しかったです」

「一生懸命に取り組む者には相応しい対応をするさ」

「感謝します」

「……どうしても嫌なら助けるぞ」

「えっ」

「彼との縁談だ」

「ご迷惑になりますし、誰かと結婚しなくてはならなそうなのは変わりませんから」

「その誰かは不安のある相手ではなくて、良い面がある者がいいだろうし、条件という場合もある。財力だとか、人脈だとか、環境だとか、白い結婚だとか。

白い結婚なら職業と同じだろう」

「ヒューゼル隊長?」

「外に出るから着替えてくれ」

「はい」

その後、隊長に見送ってもらい屋敷に帰った。



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