【完結】ずっと好きだった

ユユ

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ヒューゼル隊長

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【 近衛騎士団 第三 隊長ヒューゼルの視点 】



王女殿下に呼ばれていくと、そこには噂の令嬢がいた。



誰もが知るアネット•ゲラン伯爵令嬢は幼少期から可愛いと噂立っていた。
だがあまり他家の茶会に連れてこられることはなく、親戚の交流だけだった。

学園に入学すると社交界では彼女の噂をよく聞くようになった。学園で一緒になった令息達が帰ってから家族に話すのだろう。

それに加えて王女殿下が彼女を気に入り懐に入れたようだ。
時々遊びに来させているようだった。

しっかりと姿を見たのはデビュータントの時だった。
王女も大人びて見えたが彼女の美の曲線と可愛過ぎる顔立ちは遠目からも分かった。

デビューの子を持つ父兄達の多くは惹きつけられ、夫人方が肘打ちをして正気に戻し、歳頃の青年の中にはトイレに駆け込む者もいた。

吸い寄せられた男は、王女と彼女のパートナーが盾となり追い払っている。
王女の溺愛ぶりが分かる。もしやと思う程に。


次に見かけたのは卒業パーティーで、第ニが担当していたので私は補助として会場にいた。

バルコニーから彼女が抱き上げられて去って行った。あの男はデビュータントの時のパートナーだ。婚約者か?

翌日、第二の隊長と打ち合わせをしているとその時の話になった。

「シオン殿下の連れてきた側近が、ゲラン伯爵令嬢を初心な16歳だと思わずに口説こうとしたらしい。

令嬢の行動が、あちらの国のだったらしく、男が勘違いしたようだ。泣く令嬢を従兄が連れ出したよ。王女殿下はご立腹でシオン殿下が焦っていたな」

「従兄ですか」

「子供の頃からずっと側で守っているそうだ」

婚約者ではないのか。

「婚約者は?」

「伯爵がお気に召す令息が現れていない。このままなら伯爵が妥協して候補に入れるのではと狙う令息もいるが、あの側近が名乗りを上げたようだ」




数日後にこうやって目の前に現れるとは思ってもいなかった。

事情を聞くと、王女は取り持ちたがっているようだが彼女は嫌がっているように感じる。

こんな華奢な彼女に鎧を着せて潜入なんて…
どうやら本気らしい。

こちらの様子を伺うように私を見上げる彼女は天使の羽の生えた魔性の女だ。
関わるのが不安だが、私の不安如きで王女の頼み事に否とは言えない。

早速彼女を預かると、腰の低い礼儀正しい令嬢だった。


美術品を磨くように丁寧に一生懸命磨く姿にバーンズも受け入れたようだ。

鎧が重すぎて1人では装着できないと薄着で立つ彼女に理性を飛ばす男がほとんどだろう。

他のことを考えながら着けていく。

彼女が剣に四苦八苦しているとバーンズが可愛すぎると笑い出す。
私だって笑いたいのを耐えているんだ!

動きもものすごくぎこちないが、歩くくらいはできないと会場に連れて行けない。
整備された練習場を一周させようとしたがすぐに転んでしまった。

寝返りをうてない赤子のようにもがいている。可愛いネイトを抱き上げ、ヘルメットを取ると鼻から血を出していた。慌てて医務室へ運んだ。

失敗した。付き添うべきだった。

彼女の屋敷まで送り部屋のソファに座らせて座学をしたが私の部屋とはまるで違う空間に緊張した。


翌日は鎧を着けさせて会場で体感させた。
その時に結婚以外の選択肢はメイドだと彼女は言った。

…普通の屋敷のメイドは難しいな。

鎧を脱着させていると痣が見えた時、彼女を助けたいと思った。

頼れと言ったが彼女は仕方ないのは分かっているといった感じの顔をした。
諦めて縁談を受けるつもりなのか?

白い結婚も職業だというと驚いた顔をした。



夜会当時は順調に時が流れていた。

彼女の盾の1人は婚約者と参加をしていた。
彼女の声が寂しそうに聞こえた。


王女に呼ばれて通路に出て話をしていると部下が駆け寄り耳打ちをした。

「(西側のトイレ付近で問題が発生しました!ネイトです!)」

慌てて西側へ回ると蹲った甲冑姿が目に映った。バーンズも焦っている。

剣先の血を見て血の気が引いた。
抱えて医務室に連れて行き鎧を脱がす。

「先生!首を絞められ気絶したようです!
刺し傷があるようなので診てください!」

「隊長は外へ」

「今は部下です!傷の確認だけはしないとなりません!」

医師は赤く染まった脇を捲り覗き込む。
助手にガーゼと消毒液と止血剤を持って来させた。

「傷は浅く、内臓にも達していません。
脂肪と筋肉の辺りで止まっています。
これから縫合しますので控え室でお待ちください。

恐らく王女殿下が駆け込んで来られますので、引き止めてください」

「分かりました」


数分後、王女殿下が息を切らして入ってきた。後ろにはバーンズと王女の専属護衛もいた。

「アネットは!? 通して!!」

「治療中です。王女殿下、今はお静かに」

「アネットは…」

「命に別状はありません。
刺し傷がありますが軽傷です。今縫合中です」

「何で刺し傷なんか!」

「バーンズ」

「ハッ!

王女殿下、私も途中からなのでネイトに聞かなければ分かりませんが、バルギル公爵令息を尾行なさってバレたようです。

バルギル公爵令息は間者だと思ったようで捕えて雇い主を吐かせようとしたようです」

「私は既に倒れたところに駆けつけました。
令息は鎧の中の者がネイト…ゲラン伯爵令嬢だとは知りません。

彼女を運ぶ邪魔を防ぐために間者ではなく王女殿下の命を受けた者だと言いました」

「分かったわ。何処を刺されたの」

「左の脇腹です。後、首を絞められて気絶しています」

「私のせいね。影を使うべきだったわ。
アネットの目で確認させようなんて思ってしまったから……。側近で公爵令息としか頭になくて武力の国の男だと失念していたわ」

「目を離したばかりに…申し訳ございません」

「ヒューゼル隊長達が警備の仕事中なのに頼んだのだから私が悪いのよ」

「手当が済みました」

医師の助手が呼びに来た。
中に入ると回復室のベッドに移されていた。

「稀に傷口から悪いものが入って悪化する場合がありますが、普通は大丈夫です。明日の朝までには目を覚ますでしょう。
喉と精神的なものは目覚めないとわかりません。

ひとまずこちらで預かって様子をみます」

「…美しい顔が……アネット…ごめんなさい」

王女が泣き崩れた。

アネットの首には締め付けた跡が残り、顔には鬱血と点状出血があった。
悔しくて奥歯を噛み締める。

王女の専属護衛がシオン殿下とバルギル公爵令息が来たことを知らせた。

「王女殿下、彼等を部屋に戻らせてください。
陛下に説明をして、彼女が完治するまで接近禁止の王命をいただいてください。
綺麗に治るまで誰にも会いたくないでしょう。

私は付き添います。バーンズ、隊は頼む」

王女達が去った後、彼女の手を握った。

「すまない…アネット」




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