【完結】ずっと好きだった

ユユ

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仕事道具

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お昼前になるとバーンズ卿が迎えにきた。

「おっ、頑張ってるね」

「お疲れ様です」

「エプロン姿も可愛いな」

「へへっ」

バーンズ卿が優しく頭を撫でる。

「じゃあ食堂に行こうか」


別棟にある食堂は騎士団専用の食堂で、1階は王宮騎士、2階は近衛騎士用になっていた。1階で注文すると番号を渡されて2階で待つ。配膳係が2階に持ってきて番号を呼ぶ。手を上げると席まで持ってきてくれる。

私はチラッと王宮騎士達が食べている物を見て、注文した。

「Dランチで少なめにしてください」

「ははっ、お嬢さんには多いからね」

「お願いします」


2階に移動して待つ。すぐに持ってきてくれた。

「アネットは魚好き?」

「はい。お肉の献立が多いので魚を見ると注文しちゃいます」

「そうか。ゆっくり食べていいからな」

「ありがとうございます」

食べてる間に私を見つけた第三の人が次々と私達の近くに座った。

「エプロン姿、可愛い」

「鎧も可愛かったけどな」

「ちっちゃい鎧騎士な、時々見たいな」

「転んだ時も可愛かったな~」

「ジタバタしてたからな。あんな姿で胸がキュンとなるとは思わなかったな」

「隊長の慌てようがまた面白かったな」

「恥ずかしいです」

「量、少ないな。足りるのか?」

「女の子はこんなもんだろう」

「カトラリーがアネットには大きいな。うちの子と同じのを買ってきてあげようか」

「お前んところの子は4、5歳だろう」

「だってこんなにちっちゃい口だぞ?」

「確かに」

「お前達、あまり見るな。アネットが食べ辛いだろう」

「は~、アネットと食事ができて幸せだ。
癒されるし、午後も頑張れるよ」

「週2だっけ。毎日来ないの?」

「今度ナイフの使い方を教えてあげるよ」

「お兄ちゃん、お兄様、兄上、兄貴…どれかで呼んでみてくれない?」

「お兄ちゃん…」

「っ! 後で小遣いあげるからな」

「ニコラス!余計なことをするな!」

「え~、副隊長~」

「駄目だ!」

「ふふっ」

「笑った……天使!」

「お前達、早く食べてどっか行け」

「嫌ですよ。なんですか自分だけ」


午後も執務室の掃除をする。
午前と午後に2時間半ずつ働いた。

「おっ、綺麗になったな。時間だから帰っていいぞ」

「お先に失礼します」

「待て、送って行く」

「送られる下っ端なんていませんよ」

「まだ慣れないだろう。それに騎士だらけだからな」

「騎士だらけなら安全じゃないですか」

「騎士は職業で中身は男だ。安全とは言い切れない。忘れ物はないか」

「はい」

結局馬車に乗るまでついてきてくれた。

屋敷に着くとちょうどお茶の時間だった。

「どうだった?」

「楽しかったです。今日は執務室の掃除をしていました」

「そう。手にクリームを塗っておきなさい」

「ヒューゼル隊長が仕事後につけろとハンドクリームをくださいました」

「流石だわ」

「皆優しくしてくださるので嬉しいです」

「そう。怪我だけはしないようにね」

「はい」





翌日は歩きやすい靴を求めて買い物に行った。

「こちらなら疲れにくいと思います」

「汚れを防ぐものはあるかしら」

「このクリームを塗って磨けば大体の汚れは防ぎます」

「皮以外のものに使えますか。鎧とか」

「はい。最後にしっかりと乾拭きなさってください」

「あのブラシは何ですか」

「靴裏の掃除に使います」

「靴を2足とブラシ3つ、防汚クリームを10個ください。

領収書とは別に品名と単価も書いてくださいますか」

「かしこまりました」





お菓子屋さんに行ってみた。

「綺麗」

綺麗な瓶に赤、ピンク、黄、緑、紫、青?

「これ飴ですよね、青っぽいのは何ですか」

「ミントです。疲労回復の薬草入りです。2つを混ぜると何故か青くなるんです」

「味はどうなるのですか」

「レモンとミントを合わせた味です。試食なさいますか」

「お願いします」

「どうぞ」

「!! おいひいわ」

「それは良かったです」

ミックス瓶ひとつと、青玉のみの瓶をひとつ購入した。





出勤日、大きな手提げ袋を抱えて歩いていると手提げを取り上げられた。

「あっ」

「おはよう」

「!! おはようございます!」

「何これ」

「仕事道具です」

「ふ~ん。まだ時間があるからきてくれる?」

「はい」


荷物を持ってくれたのは第一の副隊長だった。

彼の名はレヴィン・バトラーズ、公爵家の次期当主だ。

「座って。お茶を入れよう」

「私がやります」

「いい子だね。お願いしようか」

ううっ…緊張するな。

「どうぞ」

「いただくよ」

大丈夫かな。

「美味しいよ。そんなに緊張しないでくれ」

「は、はい」

「仕事道具の説明をしてくれるかな」

「はい。

これは靴の底を綺麗にするためのブラシで、
これは防汚クリームで靴や鎧に使えます。
飴は気分転換と疲労回復です」

「疲労回復?」

「この、青っぽい飴はミントと疲労回復効果のある薬草が入っているんです。あと少し塩も入っています。味はミントレモンです」

「何故これを?」

「騎士は練習中に沢山汗をかきます。
失った塩分も補給できていいかなと思いました。任務でも夏場は特に大変ですから。

クタクタで動きたくなくてもパッと飴を手にして口に入れるだけです。口の中もさっぱりします」

「成程。2つ貰えないか」

「こちらの10個入りをお渡しします」

「用意がいいね。君が関係する店なのか?」

「いえ、一昨日靴を買いに街に行った時に通りかかったお店で買いました。伯爵家で使ったことがあるかもしれませんが、個人的には知らないお店です」

「じゃあどうして?」

「バトラーズ副隊長のように別の隊で興味を示すかもと思い、念のために第一と第二の試食も用意したのです。興味を示さなければ第三か屋敷で消費すればいいだけですから」

「ブラシは試した?」

「少し硬いブラシで溝の汚れが落ちやすいです。挟まった小石はブラシでは取れません」

「防汚クリームは?」

「うちの騎士の鎧で試しました。最後に丁寧な乾拭きが必要です。効果はまだ実験中です」

「実験?」

「古い鎧をバラして環境別に置いています。
庭、浴室、厨房、馬車の側面です。
それぞれ環境下でどの程度効果があるのか実験しています。

まだ一昨日の夜に設置したので分かりませんか1週間から10日はそのままにしてみようと思っています」

「9日後までいじらないでくれ。この目で見たい」

「9日後にお持ちします」

「私が行く」

「うちにですか!?」

「嫌か」

「い、いえ、滅相もありません」

「本当に可愛いな」

「はい?」

「価格は覚えているのか」

「お店の名前、住所、商品名、単価は書き控えてあります」

「完璧だ」

そう言いながらグリグリと頭を撫でられた。

「戻っていいぞ」

「片付けを」

「いい。行かないと遅刻する」

「すみません。失礼します」







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