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バトラーズ副隊長(受け入れ難い婚約者)
しおりを挟むそしてアシュラル隊長と待ち合わせてゲラン邸に行った。
出迎えたアネットはドレスを着ていなかった。
鎧が並べられたダイニングに通された私は待っている間に馬鹿なことを口走った。
「ドレスが買えないのか?」
「お前は馬鹿か。どう見ても裕福な家門だろう!実験なんだから汚れてもいい服でいるのは当たり前だ!滅多なことを口にするな!」
「!! すみません。そうでした」
「……らしくないな。具合でも悪いのか」
「大丈夫です」
エプロンをつけたアネットが戻り拭いたり洗い流したりした。
廃棄の鎧を使ったとは思えないほど綺麗だった。
日帰りで済まない場合、軽く布で拭くだけで元の綺麗な鎧に戻るなら騎士の負担が減る。
日頃も立ちっぱなしで疲れた後の手入れが楽だと助かる。
喜んでいた私達にアネットは商品の情報のメモを渡し非情な言葉を放った。
「私は第三の雑用係です。使うのは第三の鎧になりますから」
お詫びの品を帰り際に渡した。
お詫びの品とは?と聞かれ事情を話したら馬車の中で叱られた。
そしてゲラン邸での話になる
「何故だか自分たちのものだと思っていた」
「私もです」
「第三の鎧以外はご自由にという感じだったな」
「突き放されるとか、捨てられるとはこのことだと思いました」
「団長、第一、第二、第三の順で応募書類を見ながら指名したんだ。
団長は書類仕事と他部署へのコミュニケーションがあるから店を営む子爵家のエリザベスを選んだ。アネットでも良かったらしいが、あの容姿ではうろうろさせられないと判断したらしい。
私は箱入りの伯爵令嬢で王女殿下のお気に入りに何かあった時に困ると思いピーターよりザックの方が点が良かったからザックにした。
第二も危険回避でピーターにしたのだろう。
第三は取扱注意の余りを押し付けられたのに大喜びだった。
第三は知っていたんだ。アネット嬢の内面や能力を」
「何とかならないのですか」
「可能性としては試用期間が明けるときか、本人の希望があった時だろうな」
屋敷に戻るとテレサが待ち構えていた。
「何と言って渡したのですか」
「帰り際に“先日のお詫びだから身につけて欲しい”と言った」
「それではちゃんとした謝罪じゃないではありませんか。帰り際!?一番始めではなく帰り際!?」
「テレサ、落ち着け」
「帰り際とはまさか」
「馬車に乗る寸前だ」
「何という失態を……。旦那様!旦那様!」
「止めろ!テレサ!父上を呼ぶな!」
話を聞いた父上は数年前に亡くなった母上の肖像画の前に行き、謝っていた。
「ユリア、すまない。私が育て方を誤ったようだ。天国で泣いている君の姿が目に浮かぶよ」
「ああ、奥様!申し訳ございません!
力が及びませんでした~!」
テレサまで。
ある日の午後。
「レヴィン様、次の夜会のドレスなのですが、最近の流行りは………」
「レヴィン様、友人の侯爵令嬢が婚約者と南の別荘地に………」
「レヴィン様、先日辺境伯のご令嬢が夜会で………」
月に一度の婚約者との交流はつまらないものだとは感じていた。令嬢とはこんなものだと父が言っていた。
貴族同士の縁を結ぶため、事業を成功させるため、後ろ盾を得るため、様々な理由で政略結婚をするがバトラーズ家はそんなことは望んでいない。
家門や近い親戚に問題がなく年齢や家格が釣り合う相手に子を産ませるため。それだけだ。
まだ1年経っていない婚約者との交流が今日は苛立つ。媚びる表情、無駄に豪華な装い、いつも中身のない話題。着飾ること、遊ぶこと。醜聞がご馳走なのかと問いたいほど醜く微笑む。
「それで?」
「えっ?」
「辺境伯の娘が婚約者の浮気相手からワインをかけられて泣いていた。それがどうした」
「レヴィン様?」
「手でも差し伸べたのか?
何か情報を得たのだろう」
「……いえ」
「その話を私にする理由はなんだ」
「………」
「前回会ってから1ヶ月あった。
月に一度の2時間しかない時間に態々話題に上げたのだから何かあるのだろう?」
「………」
「まさか高位貴族の令嬢がゴシップ記者の真似事をしているわけでもあるまい。
辺境伯か婚約相手の男の家か浮気相手の家で重要なことがあったのだろう?
勿体ぶらずに教えてくれないか」
「っ!」
「カリナ嬢」
「……ございません」
「次期バトラーズ公爵夫人が下品なゴシップ記者では困る。品位を持ち、教養を身に付け、まともな社交をしてくれ。失礼する」
「レヴィン様!」
屋敷に帰ると父がいた。
「早いな」
「ただいま戻りました」
「顔が険しい。カリナ嬢と喧嘩でもしたか」
「喧嘩ではありません。魅力がない上に下品な話をするので注意して帰って来ました」
「どうした。大抵の令嬢とはそんなものだと言っただろう」
「何故こんなに苛立つのかわかりません」
「どうしても駄目なら早めに言ってくれ。式の日が決まってからでは遅い」
「はい、父上」
翌日。
騎士団の整備室から歌声がかすかに聞こえる。
開いていた扉から覗くと楽しそうに鎧を磨くアネットがいた。
髪留め、使ってくれているんだな。
不思議な感覚をそのままにしてそっとアネットの側まで近寄り後ろから耳元で話しかけた。
驚いたアネットは鎧から手を離し耳を抑えて私を見上げた。
顔も耳も真っ赤になり動揺した瞳は潤んでいた。
そんなアネットを見た私の体はカーッと熱くなった。自分の鼓動がよく聞こえる気がする。
第一に来ないかと誘ったが間髪入れずに断られた。
しかも第三ではなくヒューゼル隊長とバーンズ副隊長に拘っていると言われた。
昼食の誘いもヒューゼル隊長が先約だと断られた。
第一に戻り隊長に“アネットをうちに欲しい”と改めて告げたが、
「会議の感じだと無理だな。第三から離せたとしても団長が狙ってる」
結果、アネットは第一には来てもらえなかった。
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