【完結】ずっと好きだった

ユユ

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ベレニス・サックス(二つ目の過ち)

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【 ベレニス・サックスの視点 】   



「サリー!どうしたの!?」

「押された!」

そう言って泣きながら指を刺した先はサルト家の末娘だった。
サリーを見ると手は擦りむき、ドレスは汚れていた。


娘を、侯爵家の娘をよくも!!

婚姻が決まってからこれまでの惨めさが怒りに変わった瞬間だった。


私は男爵家の末娘の前に立つと頬を打った。

軽く叩くつもりだった。
だけど人を叩いたことも無く、まして小さな子を叩いたことも無かった私は力加減を間違った。

彼女は勢いで倒れ、隣に座るロラン殿下の椅子に頭を打った。

「シーナ!」

周囲は騒然となった。

サルト夫妻と王女が駆けつけた。

シーナを抱きしめていたロラン殿下の胸には血がついていた。

「医師を!」

大変なことになった。
令嬢の意識が無い。
破裂しそうなほど大きな心臓の音が聞こえ、周囲の声は小さく聞こえ、指は冷たくなっていた。


「二人を捕えろ」

恐ろしい形相で王女が騎士に命じた。

このままではいけない!そもそもうちの子を怪我させたのはこの娘なのだから!

「その子が先にうちのサリーに暴力を振るったのです!男爵家の娘が侯爵家の娘に暴力など許されませんわ!」

シュッ

髪に何かが触れたと思ったら髪の毛がパラパラと落ちた。

「私の髪が!」

「髪ぐらいで何?みっともないからギャアギャア騒がないで」

高圧的にものを申したのは令嬢の姉だった。そして令嬢の兄が言い放つ。

「夫人、もう私達の前に顔を見せない方がいい。後始末が済んだら消えてくれ。忠告を忘れないように」

男爵家の、しかも子供にこんなことを言われなきゃならないの!?
私もサリーも侯爵家の人間なのよ!?
しかもこの態度!!


「とんでもない一家ね!躾がなってないのか悪い血でも流れているのか」

バシャっ

「キャア!」

途中で水をかけられて、顔を向けた先にはエヴァン殿下がグラスを持って立っていた。

「サルト家を侮辱する気なのか?」

「エヴァン殿下、これを許すのですか!」

いくら陛下が友人と言ったからといって、侯爵家に男爵家がこんな態度をとることを許せば秩序が保てないのに!!
なのに先に手を出した男爵家を咎めずに私に水をかけるの!?


「おばさん、そこの子を押したのは僕だ」

声の主はロラン殿下だった。
どういうこと!?

「僕が押した。押した奴は殴るんだろう?
やってみなよ」

シーナが押したのに……

「ロ、ロラン殿下は庇っていらっしゃるのですね」

「女を呼べ」

騎士に連れられてロラン殿下の前に立たされたサリーは失禁していた。

「お前を押し倒したのは誰だ」

「………」

「誰だ!」

「ロラン様です!」

「サリー!?」

「あんたの娘はいきなり僕の手を繋ぎ“ロラン様”と言ったんだ。
躾が悪く血が悪いのはどっちだ?」

「サリーが?

だとしても、小さな子供がお友達になりたくてしたことではありませんか」

「夫人、王族との社交の場に参加させるならしっかり躾けるか、目を離すべきではなかった。

ロラン殿下と友人として交流があったのなら救いはあるが、この様子ではそうではないだろう。

だとしたらいきなり触れて手を繋いだり、殿下の許しもなく殿下と付けないのはまずい。

ロラン殿下が不快に思い遠ざけようとしても不思議ではない。

穏便に仲直りというのが普通の子供同士の揉め事だ。

だが、貴女は4歳の幼女に事実確認もせず殴り出血させ意識を失わせた。

どう責任をとるつもりですか?」

このライアンという子供の言い回しが私の心を逆撫でる。お前に言われたくない!

「子供のくせに!格上の大人に向かって偉そうに!」

「夫人のせいで妹が怪我をして両親が不在となれば長男の私が家族を守るのは当然でしょう。

的外れな言い逃れは止めた方がいいですよ。
大きな墓穴をそんなに掘っても身は一つ。
ご主人やご主人のご両親の分も掘っているつもりなら止めないで付き合いましょう」

テオドール様とお義父様……

一気に怒りが引いて冷や汗がでてきた。

「決めるのは周囲を見渡してからでも構いませんよ」

周囲を見渡すと冷たい視線が注がれているのがやっと分かった。

“参加する者達は既に篩にかけられて選ばれた者だ。失礼のないようにして縁を繋ぐように”

私の大きな後悔の二つ目となった。




私とサリーは貴族が入る監禁部屋に入れられた。
サリーは消毒だけの手当を受けた。

出された食事が喉を通らない。

「あの、侯爵家には」

「連絡は入れております」

そう言って騎士はそれ以降何も答えてくれなかった。

翌日、騎士が伝言を伝えに来た。

「侯爵とご主人が登城されるまで、この部屋でお過ごしください」

もう生きた心地がしなかった。


やっと領地から二人が到着したと知らせを受けた。屋敷に帰れると思う反面、恐ろしくて仕方ない。

「今後の説明があります。サリー様はメイドがお預かりします。私についてきてください」

騎士の後をついて行った先は謁見の間だった。

そこには国王陛下とシオン殿下、ロラン殿下がいて、お義父様とテオドール様もいた。

「止まれ」

騎士がそう言うと、私の斜め後ろに騎士が二人立った。

そして事の説明をシオン殿下が読み上げ始めた。

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