【完結】ずっと好きだった

ユユ

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ベレニス・サックス(色の違う子)

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【 ベレニス・サックスの視点 】


翌日の夜、侯爵様に呼ばれた。

「ベレニス、確認をしたい。
まだ婚姻を続ける気はあるか?」

「どういうことでしょうか」

「遅くまで泣いて、今朝は酷く目を腫らしたと聞いている」

「申し訳ございません」

「テオドールは君に愛は無い。そんな男との最低限の閨で傷付いているのだろう。
だが、同時にテオドールも避けられない後継問題に心を殺して生きている。
貴族とはそんな面もある。

勿論運よく愛する相手と結ばれる貴族もいるがな。

条件をよく考えてくれ。

支援金もなく、婚家から酷い目に遭いながら耐え忍ぶ女性は珍しい事ではない。

酷い場合は粗末な食事に使用人のような生活、軟禁され避けられない社交の時にだけ表に出る。
稀だが見えないところを殴られたり鞭を打たれたり焼かれたりする女性もいる。

夫は愛人を屋敷で囲い、正妻のように過ごさせる。そんな夫もいるんだ。

君の置かれた環境をよく考えて返事をくれ。嫌なら速やかに離縁させる」

「婚姻を続けさせてください」

「分かった」



てっきり、メイドに避妊薬の件を聞いたことがバレたのかと思った。

夜会から帰って、メイドに屋敷に避妊薬は置いてあるのか聞いたらあると言われて持ってくるように頼んだ。金貨を渡して口止めをしていたのだ。


翌日の夜、閨の日だ。

私達に夫婦の部屋はない。

互いに私室を持ち、階さえ違う。
閨の為の部屋は私の隣の部屋だった。

夫の私室に入ったこともない。

今夜に至っては体調が悪いと中止になった。



そして月のモノは来なかった。早々に見事に孕んだ。少し肩の荷がおりた。これで男児だったら……。

閨は無くなった。

月のモノが三回来ないことを確認して診察を受けた。

夫が呼ばれ、医師から告知される。

「ご懐妊です」

「そうか。体を労わるように」

夫はそれだけ言って医師を連れて退室した。

「喜んで……ない」

涙が出てきたが、訪ねてきたメイドには嬉し泣きだと言っておいた。



そして産まれたのは顔の雰囲気と髪の色は私と同じ女児だった。
問題だったのは瞳の色だった。浮気相手と同じ瞳だった。

医師に抱かれた赤子を一目見た夫は

「離乳まで屋敷から出ずに子に集中するように。三日以内に名前を考えてメイドに伝えてくれ」

それだけ言って出ていった。

女の子だったからか。
とにかくバレなくて良かった。



二ヶ月後、侯爵様に呼ばれた。

入室すると夫の隣に男の子が座っていた。
侯爵様に少し似た子だった。

「養子に迎えたソラルだ。
ソラルは私の弟の孫だ。よろしく頼む」

「ソラルです。よろしくお願いします、お義母様」

「ベレニスです。よろしくお願いします」



翌日からソラルの教育が始まって、私と娘は存在しないような気になった。
夫も誰も娘に会いに来ない。

離乳が済んでもほとんど社交には出されなかった。



そして王女殿下の長男エヴァン殿下の誕生日を祝う茶会の招待状がソラル宛に届いた。

「ベレニス、これはエヴァン殿下の側近か王子妃の選別を目的とした茶会だ。
次男はサリーと歳が近いはずだ。
二人を連れて茶会に行ってくれ。

参加する者達は既に篩にかけられて選ばれた者だ。失礼のないようにして縁を繋ぐように」

「かしこまりました」


茶会の前日、ソラルは風邪をひいてしまった。

「大したことはないが、もし王族が風邪をひいて感染したなどと言われては困る。
ソラルは欠席させるので二人で行ってくるように。

サリーから目を離さないように」

「かしこまりました」



久しぶりに仕立てたドレスは高級なものだ。
着心地も素晴らしい。

会場では気品あふれる参加者と威厳を放つ王族がいて緊張した。

挨拶をしに行くと王女殿下がじっとサリーを見つめた。

冷たい瞳が私に向けられた。
それは一瞬のことで、笑顔で挨拶を返してくれた。 

「ご子息に会えず残念です。お大事に」


席に戻り、他の出席者の挨拶の後に一際目立つ一家が紹介された。

男爵家がなぜ!?

国王陛下が友人だという一家は皆美しかった。特に夫人は王族よりも存在感を出していた。

周囲の反応がそれぞれ違い、私にはよく分からなかった。

そのうち男爵家のテーブルに子息や令嬢達が集まった。

サリーをどうロラン殿下と話をさせたらいいのかタイミングを見失っていた。

悩んでいると下の男爵令嬢がロラン殿下の手を引いて席を外してしまった。

戻って来たらサリーを連れて話しかけに行こうと待っていたがなかなか戻って来ない。
そして隣席の話し声が耳に届いた。

「まだ特別な交流がありましたのね」

「公爵令息との婚約解消から、男爵との婚姻だなんて悲惨かと思っておりましたのに、あんなに素敵な殿方だったなんて」

「愛されていらっしゃるわ。溺愛って感じですわね」

「アネット様も幸せそうですわ」

「一家の装いからするとかなり裕福なご様子」

「アネット様の指輪、あれは圧巻ですわね」

「どのような?」

「大きいけど大きすぎず、輝きも素晴らしかったですわ。最高級のダイヤですわね」

私は指輪を贈られたこともない。

ああやって手に、肩に、頬に唇を寄せてもらえたこともない。

美しいってだけでこうも違うの?


「サックス夫人」

振り向くと私のサリーが泣いて騎士とメイドに連れられていた。


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