【完結】ずっと好きだった

ユユ

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ロランの定住

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【 ロランの視点 】


僕はロラン。

ある日 僕のつまらない日常は春の陽射しに包まれた花畑のように煌めいた。




母上の親友の一家が滞在すると聞かされた。
男爵夫人なのに?

元は伯爵令嬢だと聞いて親友なのは分かったけど、伯爵の娘が男爵家に?

実際に会って驚いた。美人過ぎる。
そして男爵も柔らかな雰囲気の美男子でとても仲が良かった。

双子は男爵に似た感じはしなかった。
ミーシェは夫人に似ているからわかる。
だけどライアンは……。

そして僕の運命のレディを見つけた。

男爵の色を受け継ぎ、夫人寄りの美幼女で、ミーシェは美女という感じだが、シーナは可愛い寄りの美人だ。

数ヶ月しか違わない女の子に見つめられて恋に落ちた。

全く相手にしてもらえず、どうしたら手に入れられるか観察した。

シーナは人を選んでいた。

特に自身のことを可愛いと心から思っていて言うことを聞き、世話をし、甘やかしてくれそうな人に愛想を良くする。

それがまた激しい雲泥の差だ。

僕に興味を示さないのはだっこもできない子供だからだ。
愛想の無駄遣いだと思っているはずだ。

だけど一目惚れしたものはどうしようもないし、僕の新しい世界が動き出してしまったのだからやるしかない。

シーナを手に入れないと僕は他の子とくっつけられて、シーナは他の男のものになってしまう。

ぷにぷにの頬、長くカールしたまつ毛、宝石のような瞳、甘そうな唇、小さな手を繋ぎたくて仕方ない。

早速お祖父様をトリコにして!
とんでもない天使だ。



僕は要領がいいと思う。両親や兄を見て色々と参考にしている。

大人しく、平凡にしてきた。

兄のエヴァンは悪い人ではない。だがちょっと馬鹿だと思う。
だけど僕は国王なんてやりたくないからエヴァンに頑張ってもらわなければならない。

シーナをお嫁さんにするためには国王になってはならない。
シーナの身分が低いから。



シーナはまた獲物を捕まえた。
近衛第三のバーンズ隊長だ。

近衛は夫人と仲が良く、その流れのはずなのに、過剰に愛情表現をしている。

出世? 僕がさせないからな!



愛想よく振り撒くあの笑顔。
いつか本物の笑顔を僕だけが独り占めにできないかな。



エヴァンの誕生日を利用した物色の茶会が始まった。

庭園に誘ったが断られた。皆の前だから流石に無視はされなかった。

お祖父様にケーキを食べさせてもらうシーナを見て、僕の役目なのにと少し腹立たしかった。

お祖父様が退席すると令息達が男爵家のテーブルに群がってきた。

こいつら、何で4歳児を口説こうとするんだよ!

触ろうとする令息の手を払うが引き下がってくれない。
体で押されてしまった。

僕がもっと早く生まれていたら…

何でも買ってあげるという令息に国を一つ買ってこい、買えるまで近寄るなと言って僕の手を握って連れ出してくれた。

悔しい思いをした僕の仇をとってくれたのかな。

手を繋ぎ庭園を散策し一つの花の匂いを一緒に何度も嗅いだ。とても顔が近い。
花の匂いよりシーナの匂いを嗅ぎたかった。

夢の時間を汚した女の子がいた。

シーナと手を繋いでいない手を誰かが握った。

“ロラン様”

カッとなって振り払うように押した。
女の子は泣き出したが煩わしいとしか思わなかった。

噴水でさっと手を洗い、シーナの手を握って席に戻った。

シーナの隣でお茶を飲んでいると影ができた。
誰か大人が側に立ったのが分かった。

バチン

人を叩く音がした。同時に横のシーナが倒れてきた。

ゴンッ

僕の座る椅子から振動が伝わった。

崩れ落ちるシーナを抱き止めながら地面に座り込んだ。

シーナ!シーナ!

アネット様達が顔色を変えて集まってきた。

意識がない。

抱え上げられ、ぐったりとした手脚を揺らされながら運ばれ、椅子を並べて寝かされた。

控えていた医師がすぐに呼ばれ、シーナを中に運んで行った。

ふと見ると僕の服には血が付いていた。目玉焼きサイズの血痕だった。

見上げると知らない夫人だった。

女の子の母親?

『僕が押した。押した奴は殴るんだろう?
やってみなよ』

猫を被るのを止めて言い放った。




僕がもう少し我慢をして手加減したらシーナは叩かれなかった。

僕のせいでもあることがわかった。

「ごめんね、シーナ」


だけど側にいることを許されて良かった。

目を開け話し始めたシーナを見て安心した。


お話ししたり絵本を読んであげたり、シーナの指令に応えたり、食べさせたりしていた。
そして一緒に寝た。毎日こんな日が続けばいいのに。

ついに抜糸をしてしまった。
喜ぶ事だが別れを意味するから喜べなかった。



シーナが去ってつまらない日常に戻ってしまった。

翌日、母上とお祖父様の話が耳に入った。

“ミーシェもシーナもすぐに縁談の打診がきますわ”

その日から、

「食べたくない」

「飲み込めない」

「眠れない」

本当は飲み込めるが味があまりしないのは本当。
眠るまで時間はかかるのは本当。

それを極端にしてみた。


だいふフラフラしてくると、医者に告げた。

「シーナに会いたい。
寂しくて辛い。助けて」


頑張った甲斐があった。

シーナの顔を見たら涙が出てきた。

優しく頭を撫でてくれるシーナ。
僕はいつの間にか寝てしまった。

僕を可哀想と思ったのかシーナが優しい。
世話をやいてくれる。

顔がふっくらしてくると帰ってくるようにと手紙が届いた。
拒否し続けると強制的に連れ戻された。

改善しないようにもできるが、それではシーナといても治らないと思われて無駄になってしまう。長期戦だが繰り返して諦めてもらうことにした。


お祖父様の誕生祝いに叶った。

“しばらくサルト領で暮らしなさい。勉強を必ずすること”

長かった。

これでやっと……。



一緒にサルト領へ戻り数日後ライアンに呼ばれた。

「本格的にサルトで暮らすのだな?」

「はい」

「誰の希望だ?」

「僕の希望です」

「シーナの演技は分かりやすいが、ロランの演技はなかなか上手いな」

えっ

「仮病だろう。そこまでする目的は何だ?」

ライアンは……

「ここが安全だと思ったら大間違いだ。
私は家族を守るためならロランでも排除する」

この人こんなに怖い人だったのか!

「僕のつまらない毎日に光をくれるのがシーナです。シーナが居なくなったら食べ物の味があまりしなくなりました。

シーナは可愛くて魅力的な子です。油断したら誰かに取られちゃう。

僕はシーナが大好きで、側で守りたいだけです」

「守るねぇ」

「兄様、お願いです。僕を置いてください」

「……サルト家の方針に必ず従え。シーナを泣かせたり、過度なスキンシップはするな。そして勉強をしろ。学園が始まる前に全部終わらせろ」

「全部……」

「サルトに滞在しておいて平凡で返すわけにはいかない。途中不定期に実力を確認して、見込みが無いと感じたら強制送還だ。

集中し効率を上げろ。それが出来ないとシーナに会える時間は食事の時だけになるぞ」

「頑張ります」

そう答えるしかなかった。
ライアンからの殺気は本物だと感じた。


「ロランは勉強?」

「シーナ、ロランの滞在は勉強をする事で許されているんだ。本来王宮にいたら家庭教師が数人ついて勉強浸けなんだよ」

「ライアン兄様と勉強するの?」

「ロラン自身が勉強していけるようにするために最初のうちは手助けしないとね。

遊ぶ時も遊び方があるように勉強も勉強の仕方があるんだ」

「? 分かった」

「いい子だね、シーナ」

「兄様だっこ」

「ちょっとだけだよ」



「あれ?ライアン。ロランも?」

「今のところは学問だけだよミーシェ」

「そう。ロランは安全?」

「賢い子のはずだから、安全でいるだろう」

「じゃあ今日の狩はひとりで行くね」

「必ずアールを連れて行け」

「分かったわ」



「ライアン、大丈夫?」

「母上、ロランはサルトで頑張って将来陛下やご両親に褒められたいそうです」

「ふふっ、じゃあ応援しなくちゃね。ロランをよろしくね」



「ライアン、ロランの家庭教師はどうする」

「父上、私のやり方で試してみます」

「任せよう。だがロランの世話はライアンの役目ではないのだから無理はしないでくれ。
自分のことを中心に考えていいのだからな」

「はい、父上。無理そうなら止めておきます」



ハヴィエル様が居なくなったので聞いてみた。

「無理だったら……」

「王宮に戻って英才教育で頑張れ」

「兄様、お願いします」



サルトはライアンが支配していた。

ライアンの本性はミーシェだけ知っているみたいだ。



ある日ミーシェに聞いてみた。

「姉様、姉様にとってライアン兄様はどんな人?」

「意思を持った分身ね」

「?」

「絶対敵には回したくないわね。敵わないから」

「姉様が?」

「ライアンは全部持ってるわ。私とは次元が違うのよ」

「?」

「まだロランには分からないかもね」

そう言いながら頭を撫でてくれた。

「ロランは可愛い子ね。ちゃんとそのままでいるのよ」



この双子は味方に付けないと駄目だ。

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