【完結】ずっと好きだった

ユユ

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やはり荒れる

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ライアンとミーシェが現れると会場は静まり返った。

アネットの再来に近い美貌のミーシェに男達は釘付けだ。

令嬢達はミーシェを敵意溢れる眼差しで見た後、隣りのライアンを見て頬を染める。


「エヴァンを拒んで良かったな」

自分がエスコートするときかなくて最後まで大騒ぎしていた。

『こんな美しいミーシェを一人で出せと!?危険だろう』

『お前の方が危険だバカ。ミーシェのパートナーは私だ』

『ライアン、譲ってくれよ』

『エヴァンのようなモテ男がミーシェをエスコートしたら、ミーシェがいじめられるだろう。
ちゃんと王族席から威厳があるふうに演技しろ。そうすることがミーシェの役に立つ』

『本当か?ミーシェ』

『エヴァンの王族らしいところが見たいな~
胸を張り無口で動かず、表情を見せない格好良いところ!』

『よし!石像のようになってあげよう』

『エヴァン、ステキ!』


「ミーシェ、あの演技では劇団から解雇されるぞ」

「ライアン、言いたくも無い言葉を言ったのに酷い」

「棒読みだったろう。エヴァンだから騙せたんだからな」

「私は騙してないよ。銅像のエヴァンなら格好良さそうじゃない。ライアンこそ騙して」

「嘘は言っていない。エヴァンの顔か、身分は多分モテるだろう」


酷い兄妹に聞こえるが、これでも幼馴染のエヴァンを可愛がっている。あしらい方を覚えただけだ。

賢いロランには恐怖政治。
ちょっと抜けてるエヴァンには傀儡政治。
第四はそう呼ぶ。 

もう包み隠さず王族であるエヴァン殿下にバカと言えるのはこの双子か国王か王女夫婦だけ。 

エヴァンもそれを抵抗なしに受け入れている。  

エヴァンには悪意がない。嫉妬したり、感情的になったりはするが陥れようとかいう気持ちがない。

だからこの面倒臭いエヴァンを嫌いになれないのだ。



順番に挨拶をしていくが、双子は男爵籍。最後の方だ。

「銅像ね」

「銅像だな」 


やっと順番が回ってきた。

「エヴァン殿下、おめでとうございます」

「おめでとうございます」

「ありがとう………」

「(ほら、何か言ってやれ、エヴァンが……ククッ)」

珍しくライアンが笑っているのはエヴァンが銅像を頑張りながらミーシェに高速ウインクをしてるからだ。

「(頼む…くっ……あいつを止めてくれっ)」

「素敵なエヴァン殿下が年々凛々しくなられて胸が高まりますわ」

小声でそう言い残して去った。

「ふむ。そうか。素敵か」

エヴァンが満足げに目を瞑った。



出席者全員の挨拶を終えるとミーシェに令息達が殺到した。

「サルト男爵令嬢、我が伯爵家の別荘地に綺麗な泉があって、」

「うちは王都にもう一つ屋敷を、」

「ストップ!
資産の話は退屈ですわ。
ご令息や実家の自慢話で喜ぶ令嬢は愛想笑いをしているだけか、資産を食い荒らそうとしている獣くらいですわ。

私は獣ではありませんの。失礼」

ライアンと腕を組み、食事を楽しむために移動した。

飲み物を選んでいたところに、

「キャッ」

葡萄ジュースを持ち、近寄ってきた令嬢はミーシェ目掛けてグラスを傾けた。

「えっ?」

ガシャーン

ミーシェに手を回して持ち上げ、大きく一歩下がりながら後ろに避難させ、令嬢に足を掛けた。

飲み物を置いたテーブルに倒れ込んだのだ。
会場は悲鳴に包まれた。

割れた硝子が少し刺さり、血が出ていた。

ライアンは、助け起こす振りをして令嬢に手を差し伸べた。

「(妹に近付くな)」

「妹…うっ…」

「(人に害をなそうとする時は己に還るかも知れないと学べたか?)」

「うぅ……はい」

令嬢を起こし、騎士に任せてライアンはミーシェと立ち去った。

「マリア!マリアどうしたの!」

「転んだの…ごめんなさい」

令嬢はミーシェに手を出そうとしたが、ちょっとした気の迷いだった。

パートナーの女性と引き離し、ライアンと話すチャンスが欲しかっただけだった。
まさか兄妹だとは思わなかったのだ。

彼女は似ていない双子の存在を知らず、自分が挨拶を終えると友人と話していたので、サルト家が揃って挨拶をしているところを見ていなかった。

その後、ライアンをみかけて、横にいるミーシェを婚約者か親戚か何かだと思っていた。
本来なら普通に話しかければいいのだが、妬みが彼女を狂わせてしまった。

そして今は、痛みより恐怖が勝っていた。
冷たい声で囁かれ、鳥肌が全身を被う。

“はい” しか許されないのを体で感じたのだ。



「ライアン、やり過ぎよ。
でもありがとう。守ってくれて」

「当然だ」

「私の兄は世界一だわ」

「褒め過ぎだ」

「事実を言っただけ」



「あの、私、隣の領地の娘です」

双子が振り返るとそこには平凡な容姿の令嬢が立っていた。

「イザベル・バネットと申します。
子爵領を助けていただきありがとうございました。

父と長男は亡くなり、困窮していたところをサルト男爵に助けていただきました。

兄で次男のデレクが子爵になり、王家から投資家を紹介してもらい、採掘できました。
こうしてドレスを着てここにこられるのもサルト家のおかげです。感謝いたします」

深く腰を落とし礼をしたイザベルはクルクル癖毛の茶色の髪に茶色の瞳、そばかすのある子だった。

「……」

周囲を見渡すと一人第四が混じっていることに気が付いた。

「ミーシェ、あそこの騎士の側に行ってくれ」

「分かった」

ミーシェが第四の側に立つとイザベルに手を差し伸べた。

「バネット嬢、少しだけ庭園を散歩しましょう」

「あ、はい。喜んで」



妬みと羨望の眼差しなど受けたことのないイザベルは戸惑っていた。

「私のような者が声をかけるなど不相応だとは分かってはいたのですが、お礼を言わなくては死んでも心残りで天国に行けないと思ったので」

「その予定が?」

「いえ、父と兄が亡くなって、人はいつ何があるか分からないのだと学んだのです」

「その通りだな。不自由はないか」

「不自由だなんて」

「教師は付いているのか」

「週に一時間だけ」

「少なすぎる。ダンスも?」

「あ、いえ」

「今年から学園生か?」

「来年からになりそうです」

「どうして」

「そこまではまだ。来年には学費が貯まります」

「……借りにくればいいだろう」

「まさか、あり得ません。
それに、試験は受けませんでした」

「……分かった。私も訳あって入学が一年遅れるかもしれない」

「そうですか。ご令嬢もですか」

「ミーシェは今年だと思う。心配だがな」

「心配せずにはいられませんね。
とても美しい方ですから。一度でいいから笑顔が見てみたかったです」

「ミーシェの?」

「はい」

「………」

「思い出をありがとうございました。
末の妹様にも助けていただきありがとうございましたとお伝えください。
失礼します」

「イザベル、私のことはライアンと呼んでくれ

「ラ…イアン様」

「ダンスや淑女教育、学問の教師を派遣する。子爵に伝えてくれ」

「え、でも」

「“はい”しか聞きたくない」

「は、はい」


ライアンはイザベルの返事を聞いて微笑むとミーシェの元に向かった。











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