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ケイン・ワッツ(第一選抜)
しおりを挟む【ケインの視点】
ワッツ公爵家の次男に産まれた私は10歳になる前に父上に選択肢を示された。
『ケイン、お前の兄は問題無く学園を卒業した。既に後継者教育を始めていて順調だ。
お前には様々な選択肢がある。
これから10歳になろうとするお前にまだ早いのは分かっているが、すぐに迫られるひとつの選択肢の予備審査が一ヶ月後にある。それがエヴァン殿下の誕生を祝う茶会だ。
そこには側近にしてもいいと思われる家門の令息と、妃候補の令嬢が集められる。王家は茶会で出席者の振る舞いや相性を見るだろう。
未来の国王の側近を目指すならそこで友好を示し、学園で側においてもらわねばならない』
『他の選択肢は何ですか』
『騎士だ。今までのような訓練ではなくもっと厳しく辛い訓練を要する。
あるいは婿養子だ。男児のいない家の令嬢と結婚するんだ。普通の当主より立場は弱い。
あくまで令嬢の血が大事だからな。
あとは好きなところへ就職するかだがやはり公爵家の人間としてはどこでもいいわけではない。
自由な就職先、自由な結婚を望むなら除籍と言って公爵家への関わりを失くすこととなる』
『難しいです。ひとまず茶会で可能性を断たなければいいのですね』
『そうだな』
そして参加した茶会は異例のものらしい。
『サルト家は厄介ね』
『母上?』
『陛下の座った席の夫人が見える?』
『美しい夫人ですね』
『王女殿下のお気に入りなの。昔、公爵令息の婚約者だった時に、令息のことを好きな女性に襲われて治らない大怪我を負わされて婚約を解消したのよ』
『捨てたのですか』
『違うわ。令息の方が振られてしまったの。
令息は当時近衛騎士団の副隊長で将来有望だったのにショックで退職して別の令嬢と政略結婚をしたわ。
怪我は治ったのね』
『陛下を見るとサルト家全体が王家のお気に入りのようですね』
『そうね。敵にはまわさないようにね』
様子を見ているとエヴァン殿下がミーシェ嬢を好きなことが分かった。
チラチラとミーシェを確認しながら令息や令嬢の話を聞いているからだ。
しばらくして事件が起きた。
『テオドール様の後妻ね、とんでもないことをしでかしたわね。
このことを知ったら離縁されるわね。
せっかく子爵令嬢が侯爵家に嫁げたのに』
『どういうことですか』
『あの怪我をした令嬢の母であるアネット様を大事に守っていたのは従兄のテオドール・サックス侯爵令息なのよ。
テオドール様はアネット様を最優先になさっていたわ。
従兄妹でなければ結婚していたかもしれないわね。
大流行した流感で夫人を亡くされて、あの方が後妻になったのよ。
親戚筋から男の子の養子をとったの。あなたや殿下と同じ年齢なのだけど、今日は来ていないわね。
これでサックス家が側近になるのはかなり厳しくなったわね』
私は側近候補に選ばれたのか数ヶ月に一度茶会に呼ばれるようになった。
エヴァン殿下とは打ち解けてきたと思ったが会話に登場するのはその場にはいないサルト家の双子のことだった。
『遊びに来ないかな』
私の他に三人の令息もいた、侯爵のクリスチャン、伯爵家のジスラン、子爵家のマーク。
ジスランからは野心は感じなかった。
ク『誰を呼びたいのですか』
エ『ライアンとミーシェだよ』
ジ『サルト男爵家ですね。あれから四年ですか』
エ『王都に屋敷を構えればいいのに』
マ『男爵家だと厳しいのでは?』
ジ『サルト男爵家はかなり裕福ですよ』
エ『その通り。元々豊かな男爵家だったがアネット様と結婚して更に豊かになった。
簡単に王都に大邸宅を所有できる。
夫妻は領地を好きでとても大事にしているし、ライアンはサルト家を中心に物事を考えるから、こちらのことなど興味ないんだ』
ク『王宮のお呼ばれは男爵家は国王陛下の誕生祝いか、特別な時しかありませんからね。
サルト家にとっては王都に邸宅を構えるのは無駄なのでしょう。
でも、男爵令息では殿下の友人は難しいのでは?
いくら夫人が王女殿下の親友とはいえ、当時は伯爵令嬢でしたから成り立った関係ですよね。多分伯爵令嬢でも賛否はあったはずです』
ジ『私はそうは思いません。
あの時の次期サックス侯爵夫人に対するサルト男爵令息に感心しました。
突然幼い妹が殴られて意識を失い血を流している横で当主代理として冷静に夫人を口撃していました。
迂闊な発言が相手に反撃のチャンスを与えかねない中で、有力な貴族達の前で見事な対応だったと思います』
この会話からクリスチャンとマークは消えた。
その後、双子は一年遅らせてエヴァン殿下と学園生になった。
男爵令嬢と私は特別クラス、男爵令息とエヴァン殿下とジスランはAクラスだった。
ケ『意外ですね、彼は特別クラスだと思いましたが』
エ『私のせいだ。父上がライアンに頼み込んで、入学試験で手を抜かせて一年ずらして入学させたんだ。
最初は断られたが条件付きで了承してもらった。
私がミーシェに関わらないことと私の成績だ』
ケ『男爵令嬢は?』
エ『大事な人が去年の入学直前に亡くなって、入学を辞退したんだ』
ジ『大事な人ですか?』
エ『愛する男だ。このことは一切口外するなよ』
あの茶会の時のような快活そうな令嬢の姿はどこにも無かった。ただ最低限の役割を果たすかのようにそこに座る。
仲良くなろうと話しかけられても受け入れず、嫌がらせをされても無視、顔色一つ変えず前を向くか空を見つめる。
それは心の傷を隠している人形のようだった。
そんな彼女を見る度にエヴァン殿下も一瞬辛そうな顔をした後、何事も無かったように振る舞う。
この二人を見ていると関係のない私まで胸が痛んだ。
そしてやれることといったら、彼女に過度な嫌がらせがあった時に隣のクラスのライアンに知らせることだけだった。
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