【完結】ずっと好きだった

ユユ

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ケイン・ワッツ(学園で目にしたのは)

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【ケインの視点】


入学当初、ライアンには誰もが衝撃を受けていた。

『エヴァン、キリがないから受け取るな。欲しいのか?』

下位貴族の令嬢が菓子をエヴァン殿下に渡しに来た時のこと。

『そういうわけじゃないけど可哀想だから』

『その無駄な哀れみが大きくなって己に還るぞ』

『ごめん、受け取れない。もう持って来ないでくれ』

令嬢はライアンを睨み付けてから去っていった。

『ライアン、教えてくれないか』

『お前があの令嬢を特別視して恋人にしたいとか思っているのなら受け取ればいい。
彼女の分だけ。

もし学園のモテ男としてのなら全員から貰えばいい。

どちらでもないなら止めておけ。

一人受け取ったら公平性を保つために他の令嬢からも受け取らねばならない。
だが貰っても王族のお前は口にすることは許されない。

可哀想だと言って貰っておいて廃棄する行為は果たして優しさと言えるのか?

あの令嬢も他の令嬢も、お前が受け取る度に作り続ける。本当に自分で作っている者は一部だろうがな。

本当に作っている令嬢には失礼だし、材料費はタダじゃない。領民から預かった金で買っただろう。この歳で自力で稼いで完全な個人資産を持っていてその金で材料を買っている令嬢は絶滅危惧種を探すようなものだ。

代理で作らされる屋敷の料理人達も哀れだと思わないか?捨てられるとは知らずに余計な物を作らされていて。

中には知っていて作っている者もいるだろう。料理に愛情やプライドを持った者なら葛藤しただろうな。

それに、もしお前に愛する者ができた時にどうするんだ?その時点で止めるのか?
その時はお前の選んだ令嬢が攻撃を受けるがな。

私ならそんな男に妹を近付けさせない。
絶対にだ』

『ごめん、私が浅慮だった』

これがライアンの最初の叱責だった。
瞬く間に広まった。

男爵令息が敬語も使わずお前呼ばわりしてエヴァン殿下を叱責し、謝らせたからだ。

そういう場面が何度かあって、それを見て勘違いをした令息がエヴァン殿下に馴々しく接した時にエヴァン殿下が不快感を露わにした。

『君はいつから私の親友になった?行事で挨拶くらいしかしたことが無かったと思うが私が記憶を無くしているのか?』

『えっ?、あ……いえ』

『何のつもりだ?』

『そちらの男爵令息は良くて子爵家の私は駄目だとは…知らず…』

『私が受け入れているのはライアンだからだ。私にとって幼馴染であり、兄のような存在だからだ。

ライアンの他にも側にいる者が二人いるが、ジスランは伯爵家だし、ケインは公爵家、その二人は勘違いすることなく礼儀を忘れない。

まだ自分もライアンと同じ立ち位置を望めると思うのか?』

『いいえ、大変失礼なことをしました。申し訳ございません』

『分かってくれればいい。用事はあるのか?』

『いいえ、ございません。失礼します』


『ライアン、今日は?』

『怒鳴り散らすこともなく冷静に諭した。
最後も良かった』

そう言ってライアンは微笑んだ。 

それが初めて見たライアンの笑顔だった。
ミーシェ嬢だけじゃない。ライアンも母親の美貌を受け継いでいるのだと分かった。



屋敷に戻ると父上にライアンの事を聞かれた。

『ライアン・サルトはどうだ』

『まだ彼の人柄を語るには時間がかかりそうです。
彼は任務として学園に通い殿下の側にいます。

分かったことは二つ。

一つは陛下が一度断られたにもかかわらず殿下の側にいて欲しいと再度頼んだのは納得できました。
ライアンは殿下の教育係のように教えながら守っています。

そしてエヴァン殿下にとってライアンは特別です。幼馴染、親友、兄という存在です』

『ミーシェ・サルトは?』

『分かりません。殿下とは関わりを持たずに過ごしています。

全てに心を閉ざしているのか人形のようです』

『分かった。お前もミーシェ・サルトとは距離を置けよ』

『はい』




二年生の中頃には、私達四人は名前で呼び合うようになっていた。

そして三年生になった時、

ジ『エヴァン、惜しかったですね』

エ『特別クラスには入れなかった』

ケ『でもAクラスの一位ですから』

エ『実質は二位だけど』


そんな時、男子生徒が侯爵令嬢に命じられてミーシェをは押さえ付け平手打ちをし始めた。私は急いでAクラスに駆け込んだ。

『ライアン!妹が!!』

戻ると最後の一発をくらわせているところだった。

ミーシェ嬢の頬は赤く染まり口の端から血が出ていた。

ライアンはミーシェ嬢を押さえていた内の体格のいい令息を一発殴ると、令息は崩れるように倒れた。

そして直ぐ押さえ付けていたもう一人を肩に担ぎ頭から窓の外へ……落としたと思ったら膝から下は教室に残り、ライアンが寄り掛かることでぶら下がった状態になった。

圧倒的な制圧と言えるだろう。
剣の授業が平凡に見えたのはエヴァンに合わせたことだったのかもしれない。

それに、ライアンがもっと怖い存在なのが分かった。身分やエヴァンのことがなければ、他に誰もいなかったら、ライアンは二人とも窓から落としただろう。

そしてこの騒動の中でも平然と席に付きそのまま授業を受けようとするミーシェ嬢。
痛がりもせず泣きもせず、表情も変えない。

思い出した。あの茶会でミーシェ嬢は夫人に向かって短剣を投げていた。

この双子は特別な教育を施されているのではないか。
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