【完結】ずっと好きだった

ユユ

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セーレン 第二王子ナイジェル(平凡な兄)

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【 ナイジェルの視点 】


しかし、同じように育ったはずなのにライアン殿は全く違う。
落ち着き払い、王族に囲まれても動じない。

誓約書を国王に説明し、質問に返答したのも彼だと聞く。 

それに、小声でエヴァン殿下を注意している。

『(エヴァン、ミーシェばかり見るな)』

『(すみません)』

上下関係が明らかにライアン殿の方が上だ。

それに最初からずっとだ。建物に入る前、入った後、部屋の中、まるで見取り図を頭に書き込んでいるかのように確認をしているように見えるし騎士の配置や装備も確認しているように思えた。

天井まで見ている。

彼も鍛えているのが分かるし、手を見ると剣も弓も扱うようだ。

『(ライアン、お菓子食べてもいいの?)』

『(こぼすなよ)』

この令嬢は我々の心を和ます天才なのだろうか。所作は美しいのに何故かこぼす。

無言でドレスにこぼした菓子を拾うライアン殿、自分の分も食べていいよと渡すエヴァン殿下、いいの?いいの?とライアン殿とエヴァン殿下に目線を送る令嬢。

普通はちょっとでも粗相があることを良しとしない妃達が同じように気を遣わずに食べだした。

『美味しいわ』

『美味しいわね』

『本当はお茶の時間くらい気を遣わずにいたいわよね』

『甘すぎず、外はカリッと、中はしっとりで最高です。ナッツや栗のペースト、フルーツソースを入れても美味しくなりそうですね』

『いいわね。聞いてみるわ』

『甘くならないように調整が難しそうね』

『申し訳ございません、余計なことを口走りました』

『謝らなくていいのよ。ミーシェ様はライアン様の他にご兄弟が?』

『妹がおります。また私達とは少し違った感じですが』

『きっと美しいのでしょうね。どんな感じのご令嬢かしら』

『可愛すぎて困ります。ちょっと変わっていて、賢い部分があるのに簡単に騙されるので将来が心配です』

『具体的には?』

それに答えたのはライアン殿だった。

『自分に好意がある人間を嗅ぎ分けるのが得意で、虜にして操ります。国王陛下にイチゴのケーキを用意させたりミーシェの分も取ってこいと こき使ったり』

『あったわね』

『なのにロランが……エヴァン殿下の弟が弱って甘えると放っておけないのです。
ロラン殿下の策略とは気が付かずに』

『仮病では無いところが厄介だわね』

詳しく聞いてなかなか面白い状態なのが分かった。シーナ嬢にも会いたかったな。

そして側近と言ったアリオン殿は側近ではないのが分かる。ライアンとはまた違う匂いのする支配者だ。

そして誰とも親しくはない。




夜、兄のマクセルと話をした。

「妃達が喜んでいた。茶会を開いて呼びたいそうだ」

「たがサンドラに知れたら後々自分も妃達と関わらせろと言い出します」

「エヴァン殿下はどうやってミーシェ嬢を手に入れたのだろう」

「さあ。幼馴染が異性に見える瞬間があったのでしょう。

駄目ですからね。サンドラをエヴァン殿下に押し付けて、彼女を娶りたいだなんて思ったら」

「あの子ならカーラと上手くやれるのではと思ってしまう」

「年頃なのに身分も見目もいいエヴァン殿下がフリーだったのは一途にミーシェ嬢を思い続けていたからです。そしてミーシェ嬢も大事に守られてきた。

ライアン殿を甘く見てはいけない。サルト家も。普通はあんなに美しい男爵家の令嬢を守り切れるはずがない。多くの格上の男どもが欲したでしょう。

それを制して今があるのです。王族の後ろ盾は勿論ありますが、会話からするとエヴァン殿下はライアン殿に従っています。

双子というのは特別で、普通の兄妹よりも絆が固いのです。兄上まで危険を犯さないでください」

「何が喜ぶだろうか」

「兄上?聞いておられましたか!?」

「客人のもてなしだ。令嬢がいれば気を遣うのは当然だろう」

そう言いながらソワソワしている兄上に不安を覚えた。




翌朝、朝食の席に現れた兄上はどこか不機嫌だった。

兄上の侍従に聞くと騎士から報告を聞いてからだという。

その騎士を捕まえて話を聞いた。

「兄上に何を報告したんだ?」

「客人の……エヴァン殿下の夜のご様子です」

「つまり?」

「昨夜は私が貴賓室の廊下を警備しておりました。彼等の連れてきた護衛騎士もおりました。

私が扉の前を通ると聞こえてきたのです。
微かにですが情交の声でした」

「もうその様な報告はするな。分かりませんと言え。失礼過ぎる」

「かしこまりました」

部屋は隣室には大声でも出さない限り聞こえない様に作られているが、扉側には少し聞こえる様に作ってある。

仕える者が中の様子を伺って判断をするためだ。


まずいな。昨日会ったばかりの他国の王族の婚約者が抱かれてたからと不機嫌になる様では困る。兄上と遠ざけねば。

今日は妃達に預けるか。
兄上にもサンドラにも目が届かない場所は王太子妃の宮にある庭園だな。

早速、エヴァン殿下とアリオン殿を兄上に任せて、ミーシェ嬢とライアン殿を王太子妃の庭園に招いて昼食と散策を提案した。

王太子妃とピアは嬉々と指示を出し、兄上は些か不服そうだ。



食事を終えて一時間ほど経ち様子を見に行くと、王太子妃とライアン殿が歓談している少し離れた場所で、ピアの膝枕でミーシェ嬢が寝ていた。

「ピア?」

「(しーっ)」

「(ミーシェ嬢は?)」

「(昼食を食べたら眠そうにしていたので膝を貸しているのよ。環境が変わって寝付けなかったのかしら。寝不足みたいなの)」

ピア、そうじゃない。
昨日会ったばかりの他国の令嬢を何故其方が膝枕するほど親しくなっているのかと聞いたのだ。

「(可愛いわ。嫁いできてくれないかしら)」

「(ピア?)」

「(こんなに素直で可愛らしい子ならお義姉様も賛成なさると思うわ)」

「(お前まで馬鹿を言うな)」

その時、ライアン殿が席を立ち、ミーシェ嬢の前に背を向けて立った。

それは同時に私とピアにも背を向けることで無礼なことだった。

「ライアン殿、」

「しっ。

ミーシェ、起きろ」

「ライアン殿?」

「ミーシェを静かに起こしてくれ。
騒ぐ様なら口を塞いでくれ」

王族への口調にしては不敬だが、ただならぬ雰囲気に従うことにした。

「ミーシェ嬢、起きてくれ。静かに起きて」

「ん……」

茂みから音がしたかと思ったら彼等が連れてきた護衛に剣を突き付けられたメイドが出てきた。

「何故、」

「しっ!まだ居る。ミーシェ、左方面だ」

するとミーシェがドレスの裾に手を入れて何かを取り出すとムクっと立ち上がり投げた。









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