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セーレン 第二王子ナイジェル(双子の能力)
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【 ナイジェルの視点 】
ミーシェ嬢が何かを茂みに投げた。
「ギャアッ!」
セーレンの騎士が調べに行き、連れてきたのはサンドラだった。
「一体何をしているんだ」
「私だってお義姉様達と、」
「勝手に入っては駄目だと言われていなかったか?あのメイドと来たのだな?」
「お兄様、私は、」
「しかも国賓のもてなし中だと言うのに」
「でも、その女は、」
「サンドラ!」
「っ!」
「誓約書を忘れたか?王族同等と書いてあっただろう」
「私は王女ですわ!」
「だからこそ、約束事は守らねばならない。
騎士に陛下の所まで送らせる。報告もさせるからな」
「ナイジェル兄様、どうなさったのですか。
私に冷たくなさるなんて」
「メイドは持ち場を変える。早く陛下の所へ行くんだ」
騎士に騒ぐサンドラを連れて行かせて謝罪しながらミーシェ嬢に聞いた。
「投げたのはナイフ?」
「はい。両刃の短剣です」
「サンドラと分かって?」
「いえ、茂みの……葉と葉の間からピンクのドレスが見えて、あの部分なら身体には当たらないと判断しました。
誰かは分かりませんでしたが、王族と国賓の歓談の席にあの様に忍び込む人間はまともではございません。
刺客だった場合のことを考えて投げる判断をしました。
刺客だとはっきり分かった場合は急所に投げます」
「そ、そうか」
「ミーシェ、よくやった」
「ライアンこそありがとう。アールも助かったわ」
その後はミーシェ嬢の短剣の話になった。
投げることだけ訓練したようだ。
「剣同士での戦いは私には不利ですから。でしたら剣の届く距離まで近付けること無く、先手攻撃できる短剣を選びました」
「ライアン殿もできるのですか?」
「ええ」
「ライアンは私より上手です。
今回、ライアンは長剣だけ帯剣していますので私が投げました」
「凄いわミーシェちゃん!素敵!」
「淑女らしくなくて……」
「狙われた時に淑女もなにもありませんよ。
頼もしいお兄様ね」
「はい。ライアンが兄で良かったです」
甘える様に微笑むミーシェ嬢に優しい眼差しを向けるライアン殿は先程とは別人だ。
ミーシェ嬢の短剣の腕もかなりのものだがライアン殿はそれ以上か。
私は侵入に全く気付いていなかった。ライアン殿は気付いて、方角と人数を把握できていた。彼は何者なんだろう。
それに妃達に“ミーシェちゃん”と呼ばれるほど近くなっているとは。膝枕といい。
ピア、寝不足は部屋や寝具のせいじゃないからな。エヴァン殿下のせいだ。
その後、サンドラの後を追い、国王に苦言を呈した。
「陛下、なぜこのようなことが起こるのでしょう」
「はあ、サンドラ、あれほど近寄るなといったはずだ」
「だって、楽しそうな声が聞こえて、」
「嘘を吐くな。王太子妃の宮の敷地の外にまで庭園の話し声が聞こえるわけがないだろう。大勢で大声で叫ばない限り聞こえない」
「っ! 兄様!」
「自分で無理矢理招致させた国賓だぞ?
何かあれば責任を問われるのが分からないのか!お前はいくつになったんだ!そのようなことで他国の王族に嫁げると何故思う!
そのレベルでは貴族に嫁ぐことも無理だ!」
「酷いわ!」
「ナイジェル、言い過ぎだ」
「はっ、言い過ぎですか。
不当解雇に暴力、殺人未遂に強姦教唆に殺人、他国での王城で王族に痴乱騒ぎですよ?
その発言を本気でなさっているのなら、これから陛下と兄上で国の運営をなさってください。私は助言は一切しません。
ご自身のお力でどうぞ判断なさってください。
私や妃、宮の使用人に何かあれば有耶無耶にはせず実力行使をします。
サンドラ、忘れるなよ」
「ナイジェル!」
ついに言ってしまった。
我慢ができなかった。
今回、彼等を迎えてみて、セーレンがいかに異常か突き付けられた。
セーレンの王族と名乗るのが恥ずかしかった。
ピアは隣国の王女だ。
王族であることを捨てるならピアの国で受け入れてくれると言われたこともある。
だけど兄上と弟が気掛かりで、今は考えられないと答えた。
だが、今ではその兄上への気持ちも揺らいでいる。
温和が取り柄の兄上を支え続けるのが馬鹿馬鹿しく思えてきたからだ。
国際問題に発展しかけているのにミーシェ嬢に執心しかけている。初めてやる気を見せたのはエヴァン殿下とミーシェ嬢の閨の有無を報告させたことだった。
大臣達をまとめ、軍をまとめ、国王と兄上に進言し続けてきた。
次期国王でも何でもないのに。
ただ、王族としての責務だと、当たり前だと思ってやってきた。
だがライアン殿とミーシェ嬢の兄妹の絆を目の当たりにして、虚無感が襲ってきた。
そして先程の国王とサンドラの発言で心が折れてしまった。
もう、何もしたくない。
晩餐会は欠席した。
今の私は何を言い出すか分からなかったからだ。
その後、来客があった。
「殿下、サルト様とファーズ様がお見えです」
「応接間に通してくれ」
こんな遅くにどうしたのか、誰かが問題を起こしたのかと思ったが、
「夜分に申し訳ございません。
心配になり、押しかけてしまいました」
「陛下かサンドラが何か言っていましたか」
「いえ、ナイジェル殿下はと尋ねたところ、一瞬動揺なさった気がしましたので」
「その程度で?」
「勘はいい方ですし、要の貴方に何かあっては問題ですから」
「要?私は王太子ではありませんよ?」
「どの国も等しく王や王太子が有能だとは限りません。違いますか?」
「申し訳ない。こちらが招いているのに晩餐会を欠席してしまった。
場の雰囲気を壊さない自信がなかったんだ。
君達に話すことではないが、支えることが急に虚しくなってしまった。
ライアン殿とミーシェ嬢を見てしまったら、家族とは何なのかと疑問に思ってしまった」
「ナイジェル殿下、聞かせていただけませんか。貴方のこれまでの過去を」
ここで初めてアリオンがまともに言葉を発した。
「ほとんどの事は分かっています。
国内とはいえ、異常です。他国まで話は届いています。
私達が知りたいのは殿下の葛藤や希望なのです」
普段なら口にしないはずのことを話した。
小さな頃からこれまでのことを。
するとライアンが話し始めた。
「ナイジェル殿下、私は母の連れ子でサルト男爵の実子ではありません。当然ミーシェも同様です。
母との間に実子の妹が産まれました。
つまり本来の後継者は末の妹です。
しかし義父は私とミーシェが産まれた時からから可愛がってくれました。幼かった私達は実父だと勘違いをするほどに。
実子が産まれた後も変わらず、分け隔てなく愛してくれました。
私は早くから、自分がサルト男爵の血を引いていないと気付きました。その時から覚悟を決めました。
大事な者に優先順位をつけて守ることです。私の場合はミーシェ、そしてサルト家です」
「それで剣術や弓術を?」
「そうですね。あとは環境です。使用人の守神が子守をしてくれました。彼は元近衛騎士のエリートで、遊びの中から英才教育を受けました」
「だからサンドラとメイドが分かったのか」
「かくれんぼで鍛えられました」
「ハハッ。そうか」
「手加減無しですよ。何年も見つけることができませんでした。最初は私が隠れるのですが即見つかり、交代して私が探す番です。母に呼ばれるまで隠れていますよ」
「隠れる方もすごい忍耐力だな」
「そうですね。
彼は母の護衛をしていました。ミーシェは母譲りの美貌です。ミーシェよりも美しいかもしれません。
モテるし次期女王の親友でお気に入り。
妬みも酷かったようです。
最後は婚約者に片思いをする令嬢に酸をかけられました。護衛のお陰で顔にかけられることは防げましたが、肩と腕と脇にかかり大怪我を負いました。後遺症が残り、婚約を辞退し、王都から去ったそうです。
その時の護衛をしていた近衛騎士がかくれんぼの彼で、彼自身も腕に酸を浴びました。
きっと守りきれなかったと気に病んだのでしょう。サルト領に来て母を守り、母に似たミーシェを守れるように私を鍛え、ミーシェ自身をも鍛えました。
同時に愛情もかけてもらいました。
私はサルトへの恩もアーノルドへの恩も忘れません」
「ライアンもなかなかだな。
私の父は妻を5人娶りました。内二人は死にましたが。子供は13人でそのうち除籍をされた者は2人、嫁に出したのが6人、残るは5人です。
一人は後継者、一人は補佐、私を含む3人が働き蜂です。
しっかりとした教育を受けました。
働き蜂だからといって不満に思ったことなどありません。後継者も補佐も実力者だと納得しているからです」
「ナイジェル殿下の一番大切にしたい者は誰ですか」
「……どうかな。王族の責務を果たすのが自然だと思っていた。サンドラに関しては国王が後ろ盾で屈しなかったジュリアスは病に倒れてしまった」
「明日、訪ねることはできませんか」
「手配しよう」
ミーシェ嬢が何かを茂みに投げた。
「ギャアッ!」
セーレンの騎士が調べに行き、連れてきたのはサンドラだった。
「一体何をしているんだ」
「私だってお義姉様達と、」
「勝手に入っては駄目だと言われていなかったか?あのメイドと来たのだな?」
「お兄様、私は、」
「しかも国賓のもてなし中だと言うのに」
「でも、その女は、」
「サンドラ!」
「っ!」
「誓約書を忘れたか?王族同等と書いてあっただろう」
「私は王女ですわ!」
「だからこそ、約束事は守らねばならない。
騎士に陛下の所まで送らせる。報告もさせるからな」
「ナイジェル兄様、どうなさったのですか。
私に冷たくなさるなんて」
「メイドは持ち場を変える。早く陛下の所へ行くんだ」
騎士に騒ぐサンドラを連れて行かせて謝罪しながらミーシェ嬢に聞いた。
「投げたのはナイフ?」
「はい。両刃の短剣です」
「サンドラと分かって?」
「いえ、茂みの……葉と葉の間からピンクのドレスが見えて、あの部分なら身体には当たらないと判断しました。
誰かは分かりませんでしたが、王族と国賓の歓談の席にあの様に忍び込む人間はまともではございません。
刺客だった場合のことを考えて投げる判断をしました。
刺客だとはっきり分かった場合は急所に投げます」
「そ、そうか」
「ミーシェ、よくやった」
「ライアンこそありがとう。アールも助かったわ」
その後はミーシェ嬢の短剣の話になった。
投げることだけ訓練したようだ。
「剣同士での戦いは私には不利ですから。でしたら剣の届く距離まで近付けること無く、先手攻撃できる短剣を選びました」
「ライアン殿もできるのですか?」
「ええ」
「ライアンは私より上手です。
今回、ライアンは長剣だけ帯剣していますので私が投げました」
「凄いわミーシェちゃん!素敵!」
「淑女らしくなくて……」
「狙われた時に淑女もなにもありませんよ。
頼もしいお兄様ね」
「はい。ライアンが兄で良かったです」
甘える様に微笑むミーシェ嬢に優しい眼差しを向けるライアン殿は先程とは別人だ。
ミーシェ嬢の短剣の腕もかなりのものだがライアン殿はそれ以上か。
私は侵入に全く気付いていなかった。ライアン殿は気付いて、方角と人数を把握できていた。彼は何者なんだろう。
それに妃達に“ミーシェちゃん”と呼ばれるほど近くなっているとは。膝枕といい。
ピア、寝不足は部屋や寝具のせいじゃないからな。エヴァン殿下のせいだ。
その後、サンドラの後を追い、国王に苦言を呈した。
「陛下、なぜこのようなことが起こるのでしょう」
「はあ、サンドラ、あれほど近寄るなといったはずだ」
「だって、楽しそうな声が聞こえて、」
「嘘を吐くな。王太子妃の宮の敷地の外にまで庭園の話し声が聞こえるわけがないだろう。大勢で大声で叫ばない限り聞こえない」
「っ! 兄様!」
「自分で無理矢理招致させた国賓だぞ?
何かあれば責任を問われるのが分からないのか!お前はいくつになったんだ!そのようなことで他国の王族に嫁げると何故思う!
そのレベルでは貴族に嫁ぐことも無理だ!」
「酷いわ!」
「ナイジェル、言い過ぎだ」
「はっ、言い過ぎですか。
不当解雇に暴力、殺人未遂に強姦教唆に殺人、他国での王城で王族に痴乱騒ぎですよ?
その発言を本気でなさっているのなら、これから陛下と兄上で国の運営をなさってください。私は助言は一切しません。
ご自身のお力でどうぞ判断なさってください。
私や妃、宮の使用人に何かあれば有耶無耶にはせず実力行使をします。
サンドラ、忘れるなよ」
「ナイジェル!」
ついに言ってしまった。
我慢ができなかった。
今回、彼等を迎えてみて、セーレンがいかに異常か突き付けられた。
セーレンの王族と名乗るのが恥ずかしかった。
ピアは隣国の王女だ。
王族であることを捨てるならピアの国で受け入れてくれると言われたこともある。
だけど兄上と弟が気掛かりで、今は考えられないと答えた。
だが、今ではその兄上への気持ちも揺らいでいる。
温和が取り柄の兄上を支え続けるのが馬鹿馬鹿しく思えてきたからだ。
国際問題に発展しかけているのにミーシェ嬢に執心しかけている。初めてやる気を見せたのはエヴァン殿下とミーシェ嬢の閨の有無を報告させたことだった。
大臣達をまとめ、軍をまとめ、国王と兄上に進言し続けてきた。
次期国王でも何でもないのに。
ただ、王族としての責務だと、当たり前だと思ってやってきた。
だがライアン殿とミーシェ嬢の兄妹の絆を目の当たりにして、虚無感が襲ってきた。
そして先程の国王とサンドラの発言で心が折れてしまった。
もう、何もしたくない。
晩餐会は欠席した。
今の私は何を言い出すか分からなかったからだ。
その後、来客があった。
「殿下、サルト様とファーズ様がお見えです」
「応接間に通してくれ」
こんな遅くにどうしたのか、誰かが問題を起こしたのかと思ったが、
「夜分に申し訳ございません。
心配になり、押しかけてしまいました」
「陛下かサンドラが何か言っていましたか」
「いえ、ナイジェル殿下はと尋ねたところ、一瞬動揺なさった気がしましたので」
「その程度で?」
「勘はいい方ですし、要の貴方に何かあっては問題ですから」
「要?私は王太子ではありませんよ?」
「どの国も等しく王や王太子が有能だとは限りません。違いますか?」
「申し訳ない。こちらが招いているのに晩餐会を欠席してしまった。
場の雰囲気を壊さない自信がなかったんだ。
君達に話すことではないが、支えることが急に虚しくなってしまった。
ライアン殿とミーシェ嬢を見てしまったら、家族とは何なのかと疑問に思ってしまった」
「ナイジェル殿下、聞かせていただけませんか。貴方のこれまでの過去を」
ここで初めてアリオンがまともに言葉を発した。
「ほとんどの事は分かっています。
国内とはいえ、異常です。他国まで話は届いています。
私達が知りたいのは殿下の葛藤や希望なのです」
普段なら口にしないはずのことを話した。
小さな頃からこれまでのことを。
するとライアンが話し始めた。
「ナイジェル殿下、私は母の連れ子でサルト男爵の実子ではありません。当然ミーシェも同様です。
母との間に実子の妹が産まれました。
つまり本来の後継者は末の妹です。
しかし義父は私とミーシェが産まれた時からから可愛がってくれました。幼かった私達は実父だと勘違いをするほどに。
実子が産まれた後も変わらず、分け隔てなく愛してくれました。
私は早くから、自分がサルト男爵の血を引いていないと気付きました。その時から覚悟を決めました。
大事な者に優先順位をつけて守ることです。私の場合はミーシェ、そしてサルト家です」
「それで剣術や弓術を?」
「そうですね。あとは環境です。使用人の守神が子守をしてくれました。彼は元近衛騎士のエリートで、遊びの中から英才教育を受けました」
「だからサンドラとメイドが分かったのか」
「かくれんぼで鍛えられました」
「ハハッ。そうか」
「手加減無しですよ。何年も見つけることができませんでした。最初は私が隠れるのですが即見つかり、交代して私が探す番です。母に呼ばれるまで隠れていますよ」
「隠れる方もすごい忍耐力だな」
「そうですね。
彼は母の護衛をしていました。ミーシェは母譲りの美貌です。ミーシェよりも美しいかもしれません。
モテるし次期女王の親友でお気に入り。
妬みも酷かったようです。
最後は婚約者に片思いをする令嬢に酸をかけられました。護衛のお陰で顔にかけられることは防げましたが、肩と腕と脇にかかり大怪我を負いました。後遺症が残り、婚約を辞退し、王都から去ったそうです。
その時の護衛をしていた近衛騎士がかくれんぼの彼で、彼自身も腕に酸を浴びました。
きっと守りきれなかったと気に病んだのでしょう。サルト領に来て母を守り、母に似たミーシェを守れるように私を鍛え、ミーシェ自身をも鍛えました。
同時に愛情もかけてもらいました。
私はサルトへの恩もアーノルドへの恩も忘れません」
「ライアンもなかなかだな。
私の父は妻を5人娶りました。内二人は死にましたが。子供は13人でそのうち除籍をされた者は2人、嫁に出したのが6人、残るは5人です。
一人は後継者、一人は補佐、私を含む3人が働き蜂です。
しっかりとした教育を受けました。
働き蜂だからといって不満に思ったことなどありません。後継者も補佐も実力者だと納得しているからです」
「ナイジェル殿下の一番大切にしたい者は誰ですか」
「……どうかな。王族の責務を果たすのが自然だと思っていた。サンドラに関しては国王が後ろ盾で屈しなかったジュリアスは病に倒れてしまった」
「明日、訪ねることはできませんか」
「手配しよう」
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