【完結】ずっと好きだった

ユユ

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セーレン国王

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【 セーレン 国王の視点 】


一体何処で間違ってしまったのか。

王子が三人産まれて安泰だった。
長男は温和、次男は賢く器用で、三男は高潔だった。

やっと正妃から産まれたのは王女だったが、女の子というものはとても可愛かった。

癇癪持ちで我儘ではあったが私や兄達を慕い健康に育っていった。

『私のサンドラ。世界一可愛いサンドラ』

『パパ!』

幸せだった。

だが、サンドラの我儘は酷くなっていく。

ナイジェルが珍しく声を荒げた。

『騎士だけはサンドラに手出しさせないでください。替えがきかないのです!』

確かに。サンドラに約束させた。

その内、ジュリアスが伏せるようになった。
ナイジェルが国中の評判の良い医師を連れてきたが原因不明と言われ、ゆっくりと悪化していった。

サンドラは貴族にも手を出すようになった。
婚約する前に令息が婚約していた娘の乱交事件も関与が囁かれたが証拠は無かった。

しかし、宰相の娘に関しては証拠が出た。
すっかり貴族からも避けられるようになった。

次に目をつけたのは同じ従属国のエヴァン殿下だった。縁談の申し込みと見合いを済ませようとしたが断られ、サンドラが痴態騒ぎを起こしてしまった。

私もどうしてあんなことを許したのか。
薬草で脅してサンドラの案を後押ししてしまった。

後からあの薬草は帝国からのものだと指摘された時にマズイと思った。失念していたのだ。


来国した王子達を無事に帰して、無かったことにするしかない。

エヴァン殿下達を迎えて数日後、マクセルとサンドラのそれぞれの交流日にこっそり見に来て欲しいと言われ、子供達は今のところ問題を起こしていなかったから挽回するかもと期待をしてマクセルが案内している騎士団の演習場に向かった。

そこで目にした光景は信じられないものだった。

ミーシェ嬢の剣筋は暗殺者そのものだった。
私は昔、叔父に暗殺者をよこされ殺されかけたことがあった。雰囲気が似ている。

マクセルは息が上がり動揺と焦りが露呈している。それに加えてミーシェ嬢は冷静そのもの。無駄な動きがない。

『陛下』

『あれはどう思う』

『対峙したくありませんね』

『側まで行こう』

攻守を交代し、ミーシェ嬢が攻め出すと簡単に点を取っていく。

『陛下、止めに入ります。あれでは令嬢を本気にさせてしまいます』

『そうしてくれ』

そう答えた瞬間にミーシェ嬢の兄が止めに入った。

『そこまで!!』

カーン


怪我が無くて良かった。

『令嬢のあの目をご覧になられましたか』

『マクセルは子ネズミだな』



『ミーシェ嬢もう一度、』

『マクセル、やりたければ相手を変えなさい』

『ち、父上』

何故全く相手になっていないことに気が付かないのだ。

『陛下』

『戻ろう』



執務室に戻り、団長と一杯酒を飲んだ。

『急に休みということにしろと言われて不思議に思いましたが重要なことを知れました』

『ミーシェ嬢は手加減してくれていた。
息も切れず、表情も変えず。
変わったといえば攻め出してからだ。瞳が輝き出した。子ネズミを爪で突くネコだな。

副団長とエヴァン殿下達との話を聞くと兄の方は桁違いの強さなのだろう』

『ジュリアス殿下の庭で双子が見せた短剣投げは精度が高く、兄のサルト殿が見せた弓術は矢の軌道を曲げるそうです』

『は?曲げる?』

説明を聞くと信じられなかった。たが、妃達や護衛や使用人達の前でやったのだから本当なのだろう。

『うちでできる者は?』

『おりません』

『双子は騎士でも国境を守る辺境の出でもない。あの国には双子を育てる手練れ達がいるということだ。敵には回せないぞ』

『明日はサンドラ王女の担当ですが大丈夫でしょうか』

『………』



そして昼食後に面会希望があった。側近のファーズ殿とサルト殿だった。

人払いをして団長と聞いたのは、とんでもない話だった。

サンドラ首謀、マクセル共犯の昏睡・拉致・記憶の操作・強姦……。

『いくら何でもそんなこと、』

コトッ

『これは!』

団長が驚くのでファーズ殿が置いたペンダントを見た。何処かで見たような……。

『私の本来の名はアクエリオンと申します』

団長は立ち上がりソファーから離れると跪き頭を伏した。

『帝国、第四王子、アクエリオン殿下にご挨拶を申し上げます!』

そうだ!この紋章は!

『アクエリオン殿下、失礼致しました』

『座ってください』

『恐れ入ります』

『眠り薬と記憶障害の薬草は入れ替えました。
このまま罠にかかった振りをして現行犯で押さえます』

『それではマクセルとサンドラは……』

『既に薬物を用意して続き部屋に準備を終えたところで帝国の王子とエヴァン殿下二人の王族に対する傷害未遂、国賓の貴族に対する傷害未遂は確定です。

お二人には静観していただきたい、顛末を見届ける責任がお有りです』

『ですが、』

『これは最後のチャンスです。
帝国の預けた薬草で他の従属国を脅し、違法薬物を流通させているだけでも有罪です。

もし、実行予定時間までに王太子殿下と王女殿下が自ら思い直せば罰は軽くしましょう』

『サンドラを止めたら…』

『その時は王族は処刑します』

『アクエリオン殿下……』

『国王陛下と団長には影を付けました。
言葉、文字、暗号などで知らせようとした場合、その場で喉を切り裂きます』

『私は王太子殿下と王女殿下の首を落としましょう。
私の妹に手を出せばどうなるか身をもって知っていただきます』

『エヴァン殿下はご存知なのですか!』

サルト殿がローテーブルの上に出したのは国璽の捺された文だった。

“セーレン王国に滞在中の如何なる判断もライアン・サルトに一任する”

『これからメンバーに説明して一芝居うたせます。セーレンの使用人達はそうもいきませんから眠らせます』

『では、失礼します』

『待ってください』

『晩餐会はいつも通りになさってください』

『殿下!殿下!』


とんでもないことになった。

『手段は無いのか』

『陛下、手遅れです。影が我々にもついているなら手出しできません。祈るだけです』

『ああ!サンドラ……なんて事を』



晩餐会では何を口に入れても味がしなかった。飲み物で無理矢理流し込むだけ。

サンドラは満面の笑みで、マクセルはミーシェ嬢を舐め回すように見ている。

終わった……。







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