【完結】ずっと好きだった

ユユ

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帝国 第三王子ブリアック(勇ましい令嬢)

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【 ブリアックの視点 】


「(……死にたいのかな?)」


聞き間違いか?

とんでもなく美しい令嬢から殺気が漏れた。
 
「確か退位の予定が立っていたような」

「そうだ。引退後の父の側妃として召し上げられる」

「レオン殿下も賛成なのですか?」

「そんなわけあるか」

あ、兄上!?

「ではどんなおつもりで?」

「反対の意思を示したら、別の者を其方に向かわせると言われ、結局諦めないのであれば私が来た方がマシだと思い此処へ来た」

「つまり私達とレオン殿下の関係は別れた時のままだと考えてよろしいのですね?」

「そうだ。詳しくは後にする。
ひとまず帝王から命じられた任務を遂行している。

今回は返事を聞くことまで」

「縁談を拒否すれば?」

「帝王の命により国ごと手に入れる」

「それ、許されるのですか?
帝国の定めた従属国との規約には縁談を拒否したら攻めるなどと定めてなかったのではありませんか?」

「帝国の意思に反するという条項だろう」

「帝国の意思は若い娘を閨に上げることですか?
帝国は態々周辺諸国を脅したり攻めたりして従属国にしているのは女を召し上げて快楽に耽る為?

差し出さなければ滅ぼすと脅すのが帝国の意思?」

「憤りは尤もだ」

「特殊な矜持をお持ちですこと。
強靭な精神をお持ちですのね。流石でございます」

「口が過ぎるのではないか?」

「ブリアック、止めろ」

「陛下はどうお返事をなさいましたか」

「ミーシェを差し出すわけがなかろう」

「では使者は到着しなかった。遺体は帝国で見つかったということで」

「ミーシェ、そんなに怒らないでくれ。
私が来たということは、なんとかしたいからだ。

私達は双子もサルトも傷付けるつもりはない」

「双子?ライアンもなのですか!?」

「ライアンも移住させ、軍に入れるように命じられた」

その瞬間、令嬢から強い殺気があふれ出た。
自身のことよりも双子の兄が大事なのだな。

「帝王一人の希望ですか?
王子殿下の皆様は?」

「正直に言えばライアンもミーシェも逸材だ。帝国に移住して共に支えて貰えたらと思っている。

だからといって無理をしてミーシェとライアンに嫌われたくはない。サルトを壊したくもない。

ミーシェを泣かせたくもない」

「ミーシェ、レオン王太子殿下は帝王の命に従い任務を遂行しているだけだ。
今はここまでにしよう。

まだライアンには漏らさないでくれ。先走って何をするか分からないからな」

「分かりました」

「では、レオン王太子殿下、ブリアック殿下、部屋まで案内をさせます」




貴賓室に戻り、兄上の部屋で衣服の首元を緩めソファに座ってもたれた。

美し過ぎる令嬢に驚いたが、そんなものを忘れさせる殺気に押されてしまった。

私達を殺すと言った令嬢を兄上は冷静に宥めた。

「兄上、彼女は本気だったと思いますか」

「位置的には可能だろう」

「位置ですか」

「ミーシェの座った位置は斜め後ろに直ぐ帯剣した騎士が立っていた。

立ち上がり、騎士の剣をさっと抜き取り、そのままお前の首を刎ねられる位置だな」

「なっ、」

「ドレスだから安心ではないぞ。どこに短剣を隠し持っているか分からないし、投剣の精度は高い。手の届く距離ではなくても我々には命懸けの席だった。

ミーシェと一緒に入ってきて態々あの位置に立つのは騎士の判断だ。
だとしたら中身は影だな。不穏な話に影が独断で側についたのだろう。

国王の指示であればミーシェを守ろうとする者を側に置く。あの様な目をした者があの位置には立たない」

「殺気は感じませんでした」

「影が殺気を漏らしているようでは二流だ。
だから昔、私を殺しに深夜に忍び込んだ兄上は私に気付かれ返り討ちに遭った」

「“あの様な目”とは?」

「無だ。何も読み取れない」

兄上はもしかしたら命を狙われたのは一度ではないのかもしれない。
身内から狙われるのはどれだけ恐ろしくてどれだけ傷付いたことだろうか。

待てよ、そもそも兄上は側妃の子私たちを何故信じられる?

いやもしかして誰も信じてないのかも、だから皆平等に接するのか?

唯一ガブリエルは害ありと判断したから処分したのだ。私達も害ありと判断されたら同じ様な運命なのだろう。

アクエリオンは生きて帰ったから合格か。
今回は私が試されてる?

「あっちだ」

兄上が窓の外を見つめながら声を発した。
近寄って指差す方を見た。

「ここから馬車で4日ほど。この方向にサルト領がある。もし行っても熊とウサギは狩るな」

「熊が増えすぎませんか?」

「現れる場所がまずければ罠で捉えるそうだ。その後は領民が好きにするらしい。
たが、シーナ嬢と顔を合わせる者は駄目だ。
屋敷に泊めてもらえなくなる。

ブリアックが狩れば連帯責任を私が負わされる」

「そんなに怖い令嬢なのですか?」

「ククッ。部屋に立て篭もってしまう子熊だ。誘き出すのが大変だ。一度目の手は通じない。何で機嫌を直してくれるのか分からない。大人と子供の中間で難しいんだ。

しかも金に不自由していないから単なる物では釣れない。

シーナ嬢が機嫌が悪いと屋敷中の者から非難の目が向けられる。“私達の天使の機嫌を損ねたな”って。

ステファニー王女の産んだ息子は全てがシーナ嬢でできている。ロラン殿下は子熊を守るように牙を剥く小狼だ。彼にとってはシーナ嬢は唯一無二の番だ」

「シーナ嬢がサルト家を支配しているのですか?」

「サルト家を支配しているのは当主だ。
たが、妹達や私兵達を掌握しているのはライアンだろう。ロラン殿下はライアンの指示を仰ぐ。そしてそのライアンを虜にしたのがミーシェだ。
虜という言葉が適切なのかは分からないが」

「双子の兄はミーシェ嬢を女として愛しているのですか?」

「性的な意味の女ではないはずだ。
幼い頃に妹に助けられたんだ。その頃はミーシェの方が強かったのだろう。
女の子の方が早熟だ。

ライアンはミーシェの強さ、勇敢さ、優しさ、思いやりに触れて魅了されたのだろう。
ライアンにとってミーシェは光だ。優しく暖かい。奪われたくない存在だ。

だけどミーシェは同い歳で女の子。年月が経つにつれて身長も腕の太さも腕力も差がついてくる。その度に決意を新たにする。

自分がミーシェを守るのだと。

幼い頃にライアンを助けて酷い怪我を負ってもなお、自分を第一に心配してくれる妹の姿のまま今もライアンの目には映っているのだろう。

これは魅了でもあり後悔でもある。
何故、妹が盾になることを防げなかったのか。

自分とミーシェの差が開く度に比例して罪悪感も大きくなるのだろう。
ミーシェの怪我が完治することなく残ってしまったから。

ミーシェの後遺症が少しでも良くなればライアンももう少し心の棘が小さくなるのではないかと思っている」















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