【完結】ずっと好きだった

ユユ

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イザベル・バネット(卒業パーティ)

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【 イザベル・バネットの視点 】

ライアン様達が帝国へ行っている数ヶ月でエヴァン王子殿下と下級生の女生徒との噂が徐々に大きくなってきた。

ライアン様とミーシェ様が帰国した後も、それはミーシェ様達が昼食も王子殿下と距離を置いたことで信憑性が出たとして、その令嬢に媚を売る者も出ていた。

卒業パーティのドレスと共に他にもドレスを作ってくださって、他は領地に送ってくださったらしく翌日お礼を申し上げた時にあの令嬢の噂を報告した。

『そのまま静観してくれないか』

『ご存知でしたか』

『これはエヴァンの試練だ。多分最終試練となるだろう』

『ライアン様?』

『いずれ話せる時がくる』

『何もできないのがもどかしいです』

『信じてくれているだけでいい時もある』





そのまま卒業パーティの日が来た。


とても品のある美しいドレスに失くすことに恐れ慄くアクセサリーの三点セット。
そして眩いライアン様。

入場前にサックス侯爵様に挨拶をしたが前日に挨拶をしたサルト男爵よりライアン様はサックス侯爵様によく似ていた。

もしかして、二人はサックス侯爵とアネット夫人との子かもしれない。

私はライアン様のエスコートで、ミーシェ様はサックス侯爵様のエスコートで会場入りをした。

ああ…視線が突き刺さる。
不相応なのは分かってる。
癖毛の茶色の髪に茶色の瞳と色は平凡。
色白だがそばかすがあって顔立ちも平凡。
平民の服を着れば違和感なく溶け込める容姿なのだから。

実家は富豪どころか没落寸前だった。
援助がなければ学園は諦めていた。
今夜着ていくドレスだって母のお下がりを直して着ただろう。

分かってるわ。
私はライアン様に相応しくない。

「イザベル。領地で先生に教わったことを思い出せ。堂々と胸を張れ。周囲の女共など蝿だと思えばいい」

「蝿は無理があるかと」

「私にはそれ以下に見える」

では私は塵ですか?
立ち直れないから聞かないでおこう。

「イザベルは立派なレディだ」

うわっ!ちょっと!顔が熱い!

「ククッ、端に寄ろう。肌が白いから赤くなると……」

も~いやっ!!



国王陛下と学園長のスピーチが終わり、卒業生代表のワッツ公爵令息が挨拶をした。

皆パートナーと踊り、次の相手を探し出した。
ライアン様はアネット夫人と。
ミーシェ様はサルト男爵様と。
私はサックス侯爵が手を取ってくださった。

王子殿下は例の女生徒と話をしている。

「ライアンとはどうかな」

「もったいなくも良くしてくださいます。
いつの日がご恩をお返しできたらと願っております」


休憩が入り、飲み物を飲んでいた時に騒ぎが起きた。

「申し訳ございません!」

「こんなに混み合っているのに私にだけ掛けるのはどういうことですか?」

「そんな!態とじゃありません!」

「ライアン様」

「ミーシェだな。側まで行こう」

近寄るとミーシェ様のドレスの背面にワインか葡萄ジュースがかかっていた。

薄い色味のドレスにはとても目立つシミだった。泣いて謝っているのは例の下級生だった。

「どうした」

その声に野次馬の道が開けた。エヴァン王子殿下だ。

令嬢は膝をつき、ミーシェ嬢に謝った。
タイミング的には王子殿下の声を聞いて令嬢が跪いたように見えた。

「ライアン様、あれって」

「危険があれば割り込む。今はあいつがどう動くか見たい」

「ケイト、具合が悪いのか?」

「ううっ、サックス侯爵令嬢にジュースをかけてしまって。態とじゃないのです。押されて脚がもつれてグラスが傾いて……。
ですが……信じてもらえず……ううっ」

「ミーシェに?」

「後ろです」

王子殿下がミーシェ様の背面を確認した。

「ミーシェ、彼女は態と飲み物をかける令嬢ではない。許してやってくれ」

「お止めください殿下。
サックス侯爵令嬢、お許しください」

そう言って額を床に付ける勢いで頭を下げた。

「ケイト、立て。ミーシェには着替えのドレスがある。
ミーシェ、私の指導している後輩なんだ。
代わりに謝るから許してやってくれ」

「殿下が私のために謝ってくださるなんて」

「ケイト、もう立ってくれ」

「……はぁ」

ああ、駄目だ。
ミーシェ様が溜息の後に微笑んでカーテシーをした。

「王子殿下が謝ることはございません。
私は態とだと確信しておりますが其方のご令嬢を許します。王子殿下の庇護なさっているご令嬢とは知らずに申し訳ございません。

お名前は存じ上げませんが、何故下級生の貴女がこの会場の飲食のエリアに混雑を承知で紛れていたのかは愚問でしょう。
目的は果たされましたね?次のダンスは王子殿下とどうぞ。

パートナーだということにしておけばよろしいですわ。私はこれで失礼いたします」

「ミーシェ?」

「見苦しのでいつまでもご令嬢をそのままになさらないで手を貸してあげてくださいませ」

「あ、ああ」

王子殿下が令嬢に手を貸している間にミーシェ様は会場を後にした。

「追いますか」

「護衛が付いているから大丈夫だ。私達はサックス侯爵に知らせてから両親に伝えに行く」

侯爵様は話を聞くと走って後を追った。
そしてサルト男爵は恐ろしい顔になった。
アネット夫人は、

「私達は陛下のところへ行きます。ライアンは好きになさい」

「ミーシェはサックス侯爵が連れて帰るはずですから、私はイザベルといます」

「ライアン様、私達も帰りましょう。もう目的は果たしましたし、サックス侯爵令嬢が心配で楽しめませんわ」

「では急ごう。

父上、もう荷物は侯爵邸にあります。一緒にサルト領に帰りますので帰る日が決まったらサックス邸まで知らせてください」

「明後日の早朝に発つ」

「分かりました」

私は寮に戻り、ほとんど終えた荷造りを完了させてライアン様と馬車に乗って侯爵邸に向かった。


白と青を基調とした立派なお屋敷に気後れする私の肩にライアン様が手を置いた。

「私の家でもないから安心してくれ」

「? はい」

「ライアン様、お帰りなさいませ。旦那様がお待ちです」

「ただいま。明後日の朝に私とご令嬢は領地に発つのでよろしくお願いします」

「かしこまりました」


応接間に行くと不機嫌そうな侯爵様がパッと表情を変えて歓迎してくださった。

「イザベルと呼んでも構わないかな?」

「はい、侯爵様」

「そんなに怯えなくていい。
今、食事を用意させている。話が終わったら楽な服に着替えなさい」

「ありがとうございます」

「ミーシェは」

「食べないそうだ」

「抜け出さないように今夜は私がミーシェに付き添います」

抜け出す!?

「ミーシェはサックス領に来るがライアンはどうする?」

「ミーシェをお願いしてもいいですか。一度サルトに戻ってすべきことがあります」

「出発は?」

「明後日の朝に両親と向かいます」

「そうか。気を付けてくれ」

「はい」

「さて、方向性を統一しようか」

「はい。
父は珍しく激怒していました。母は陛下達に話しをつけに行きました。
私としては、もう契約も終わりました。
側近も決まっていますから彼のことはお任せするつもりです。

ミーシェの答えは出たようですから、希望に沿うよう守るだけです」

「よし、分かった。領地でミーシェに今後のことを聞いて対処する。我々も明後日の朝に領地に発つことにする」


「旦那様、王宮から早馬が到着しました。
お手紙でございます」

侯爵様は手紙を読んで、執事に指示を出した。

「ミーシェが今夜着ていたドレスを洗わずに箱に入れて渡してくれ。馬だから箱じゃない方がいいか。包んで背負えるようにしてやってくれ」

「かしこまりました」

「数日は王子を監禁するから明日の式典は安心して来るようにと仰せだ」

王子殿下を監禁!?

「気乗りしませんが仕方ありませんね」

「主役の二人だからな」


その後は着替えて食事話をして湯浴みをして就寝した。













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