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[死ぬ前のリヴィア]婚約者候補
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王宮主催のお茶会にやって来た。15歳だった。
伯爵家以上の家門の令嬢と何人かの令息が招待されていた。
「お母様、これは?」
「王子妃選定ね。伯爵家以上なのは間違いないけど呼ばれていない伯爵家以上の令嬢もいるようだから、既に篩にかけられたのね。
となると、今日は王子殿下との相性をみようとしているのだわ。
リヴィア。粗相だけはしないように気を付けなさい。どの相手も大事になってしまうから」
「はい、お母様。ところで令息達は?」
「側近候補じゃないかしら」
少し待つと王子殿下が現れた。
「第一王子のヘンリーです。
お集まりいただきありがとうございます」
ダークブラウンの髪にダークブルーの瞳の美しい王子だった。
その日、私はヘンリー王子に一目惚れをしてしまった。両親にヘンリー王子のお妃様になりたいとことあるごとに口に出していた。
そして翌月、婚約者候補の打診が来た。
両親に、王子妃は大変だと何度も言われたけど私の気持ちは変わらなかった。
婚約者候補になると他の二人と一緒に厳しいマナーの授業が始まった。
私はヘンリー王子と会えると思っていたけどそうではなかった。
候補者の一人が同じことを思っていたようで尋ねた。
「マナーの授業を終了できないとお会いできません。そのままで会ってしまえば幻滅されます」
お茶会では同じレベルの令嬢と複数で会っていたから気にしなかったが、一対一では丸わかりらしい。
その間に一人が脱落した。全く先に進めずに私ともう1人の令嬢とは別にされて初歩をずっとやらされていた。結果辞退したらしい。
マナーの授業を終了した私達は歴史や外国語を学びながら週に一度王子とのティータイムというご褒美がもらえた。
学園が始まりさらに睡眠時間は削られた。
少し弱音を吐いたが、両親は
「責任を取らさせることをやっているわけではない。ただ学んで吸収するだけだ。
大人になればそれに加えて責任が伴ってくる。
王族の責任は重い。リヴィアはその重たいものを自ら背負う選択をしたんだ。
責任の無い今を楽しむといい」
「楽しむ?」
「そうよ。できなくても多少怒られるだけじゃないの。働いている人はできなければ他の人がチャンスを掴んでいくし、場合によっては解雇されてパンも買えないし部屋代も払えなくなるのよ。
王子妃だって、間違えば貴族との関係を悪化させるし、外交なら大問題ね。
今は未だ違うでしょう? もし王子妃になったら、この期間が懐かしく思うはずよ。あの頃は責任が無くて楽だったなって」
「リヴィアの場合は政略的なものではない。だから一族からの重圧など無いだろう?
もう1人の公爵令嬢は重圧の中にいるから辛いはずだ。
ライバルだからといって敬意を忘れるな。格上だからではない。戦友のようなものだ。ただ彼女の場合はそこに一族から背負わされた責任がある。
絶対に足を引っ張ろうとか、貶めようとか思ってはならない。そんなことが耳に入ったら当主の権限で辞退するからな」
「はい、お父様、お母様」
それ以来、私の気持ちは楽になった。
「コーネリア様、ちょっと肩に触れてもいいですか」
「え?ええ」
「うわっ、肩がパンパンに張っていますわ」
もう一人の婚約者候補コーネリア様の肩を揉み始めた。
「貴女がそんなことをしなくてもいいのよ」
「でも、痛そうにしていらしたら気になりますわ」
「上手いのね」
「領地に行くとよく祖母の肩を揉んでいるので」
「私はおばあちゃんじゃないわよ」
「分かっています。
髪型をもう少し引っ張らないものにして飾りはリボンだけにしてみてはどうでしょう。
少しでも首や肩の負担を減らさないと、勉強の妨げになりますわ。こんなに凝っていたら勉強どころではないではありませんか。
お屋敷にマッサージをしてくれるメイドはおりませんか?」
「いるけど、そんな時間があったら勉強しろと言われるの」
「寝る前でも湯上がりでも構いません。マッサージの時間を設けましょう。肩を重点的にマッサージするメイドと他の場所をマッサージするメイドに分けます。そして、その間に別の人に本を読んでもらったり問題を出して貰うのです」
「別の人に?」
「公爵家のメイドや侍女なら教養のある方がいらっしゃるでしょう?
覚えなくてはならない歴史や規則などは朗読してもらって、問題は復習を兼ねて出して貰うのです。
現国王が即位した日は何年ですか?とか、ネルハデス領の特産は何ですかとか」
「貴女もやっているの?」
「今思い付きました。今日からやってみます」
「……何故、そんなに親切なの」
「両親から言われたのです。敵ではなく戦友だと。
敬意を払い、間違っても足を引っ張るなと」
「そう。素敵なご両親なのね。
ありがとう。肩が軽くなって身体がポカポカしてきたわ」
「次の授業も頑張りましょう。
何故かダガート先生の授業は眠くなるのですよね。
不眠症患者の専門医もやれそうですよね」
「ふふっ、そうね」
私達は王子妃教育の間は仲良くなれたが、他の時間は距離を置いた。コーネリア様のご両親が仲良くなることをお許しにならなかったからだ。
コーネリア様は悲しそうに謝った。
「ごめんなさい」
「コーネリア様に嫌われていなければそれでいいのです。時が解決してくれますわ」
そして二年生に進級する前に決着がついた。
伯爵家以上の家門の令嬢と何人かの令息が招待されていた。
「お母様、これは?」
「王子妃選定ね。伯爵家以上なのは間違いないけど呼ばれていない伯爵家以上の令嬢もいるようだから、既に篩にかけられたのね。
となると、今日は王子殿下との相性をみようとしているのだわ。
リヴィア。粗相だけはしないように気を付けなさい。どの相手も大事になってしまうから」
「はい、お母様。ところで令息達は?」
「側近候補じゃないかしら」
少し待つと王子殿下が現れた。
「第一王子のヘンリーです。
お集まりいただきありがとうございます」
ダークブラウンの髪にダークブルーの瞳の美しい王子だった。
その日、私はヘンリー王子に一目惚れをしてしまった。両親にヘンリー王子のお妃様になりたいとことあるごとに口に出していた。
そして翌月、婚約者候補の打診が来た。
両親に、王子妃は大変だと何度も言われたけど私の気持ちは変わらなかった。
婚約者候補になると他の二人と一緒に厳しいマナーの授業が始まった。
私はヘンリー王子と会えると思っていたけどそうではなかった。
候補者の一人が同じことを思っていたようで尋ねた。
「マナーの授業を終了できないとお会いできません。そのままで会ってしまえば幻滅されます」
お茶会では同じレベルの令嬢と複数で会っていたから気にしなかったが、一対一では丸わかりらしい。
その間に一人が脱落した。全く先に進めずに私ともう1人の令嬢とは別にされて初歩をずっとやらされていた。結果辞退したらしい。
マナーの授業を終了した私達は歴史や外国語を学びながら週に一度王子とのティータイムというご褒美がもらえた。
学園が始まりさらに睡眠時間は削られた。
少し弱音を吐いたが、両親は
「責任を取らさせることをやっているわけではない。ただ学んで吸収するだけだ。
大人になればそれに加えて責任が伴ってくる。
王族の責任は重い。リヴィアはその重たいものを自ら背負う選択をしたんだ。
責任の無い今を楽しむといい」
「楽しむ?」
「そうよ。できなくても多少怒られるだけじゃないの。働いている人はできなければ他の人がチャンスを掴んでいくし、場合によっては解雇されてパンも買えないし部屋代も払えなくなるのよ。
王子妃だって、間違えば貴族との関係を悪化させるし、外交なら大問題ね。
今は未だ違うでしょう? もし王子妃になったら、この期間が懐かしく思うはずよ。あの頃は責任が無くて楽だったなって」
「リヴィアの場合は政略的なものではない。だから一族からの重圧など無いだろう?
もう1人の公爵令嬢は重圧の中にいるから辛いはずだ。
ライバルだからといって敬意を忘れるな。格上だからではない。戦友のようなものだ。ただ彼女の場合はそこに一族から背負わされた責任がある。
絶対に足を引っ張ろうとか、貶めようとか思ってはならない。そんなことが耳に入ったら当主の権限で辞退するからな」
「はい、お父様、お母様」
それ以来、私の気持ちは楽になった。
「コーネリア様、ちょっと肩に触れてもいいですか」
「え?ええ」
「うわっ、肩がパンパンに張っていますわ」
もう一人の婚約者候補コーネリア様の肩を揉み始めた。
「貴女がそんなことをしなくてもいいのよ」
「でも、痛そうにしていらしたら気になりますわ」
「上手いのね」
「領地に行くとよく祖母の肩を揉んでいるので」
「私はおばあちゃんじゃないわよ」
「分かっています。
髪型をもう少し引っ張らないものにして飾りはリボンだけにしてみてはどうでしょう。
少しでも首や肩の負担を減らさないと、勉強の妨げになりますわ。こんなに凝っていたら勉強どころではないではありませんか。
お屋敷にマッサージをしてくれるメイドはおりませんか?」
「いるけど、そんな時間があったら勉強しろと言われるの」
「寝る前でも湯上がりでも構いません。マッサージの時間を設けましょう。肩を重点的にマッサージするメイドと他の場所をマッサージするメイドに分けます。そして、その間に別の人に本を読んでもらったり問題を出して貰うのです」
「別の人に?」
「公爵家のメイドや侍女なら教養のある方がいらっしゃるでしょう?
覚えなくてはならない歴史や規則などは朗読してもらって、問題は復習を兼ねて出して貰うのです。
現国王が即位した日は何年ですか?とか、ネルハデス領の特産は何ですかとか」
「貴女もやっているの?」
「今思い付きました。今日からやってみます」
「……何故、そんなに親切なの」
「両親から言われたのです。敵ではなく戦友だと。
敬意を払い、間違っても足を引っ張るなと」
「そう。素敵なご両親なのね。
ありがとう。肩が軽くなって身体がポカポカしてきたわ」
「次の授業も頑張りましょう。
何故かダガート先生の授業は眠くなるのですよね。
不眠症患者の専門医もやれそうですよね」
「ふふっ、そうね」
私達は王子妃教育の間は仲良くなれたが、他の時間は距離を置いた。コーネリア様のご両親が仲良くなることをお許しにならなかったからだ。
コーネリア様は悲しそうに謝った。
「ごめんなさい」
「コーネリア様に嫌われていなければそれでいいのです。時が解決してくれますわ」
そして二年生に進級する前に決着がついた。
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