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消えた縁談
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数日後、ネルハデス領の使用人達を篩に掛けるためにやってきたが、誰1人 私に悪意を持つ者はいなかった。
近くの湖に気分転換をしに来た。
「お嬢様、あまり身を乗り出さないでください」
「分かったわ」
護衛が一緒に乗ることで許された湖の手漕ぎボート。もう一隻にも護衛が乗り込んで側にいる。
学園が始まるまであと1週間。
入学すれば、ヘンリー王子殿下とカシャ公爵令息、団長の子息、大臣の子息、先生、コーネリア様もいる。
まだ彼らは魅了前で罪はない。だけどコーネリア様は……
「お嬢様、何を悩んでおられるのですか」
「学園が始まるのだけど、会いたくない人達がいるの」
「行かないと駄目なのですか?」
「貴族の家に嫁に行くならね」
「行かなければいいではありませんか」
「え?」
「お嬢様が伯爵家を継げばよろしいのです」
「でも兄様が」
「留学したまま旅に出て戻らないではありませんか」
そう。兄様は留学して4年前に帰国するはずが未だに帰らない。訪れ先からは手紙が来る。資金をどう稼いでいるのだろう。
今の私は純粋な娘ではないからこんな風にも考えてしまう。
金持ち未亡人でも捕まえてヒモになりながら共に旅をしているんだろうと。
「お父様が決めることだし、それに学園はすぐだから行くしかないのよね」
「お嬢様」
「ロック。貴方は私の心まで守ろうとしてくれるのね。感謝しているわ」
「……」
ロックはお兄様と同じで24歳。
領地内で怪我をしているところを拾った。
小さかった私はロックの服を掴んで離さず、連れて帰ると泣いて強請った。
彼は当時14歳だった。
ロックは酒浸りの父との二人暮らしで物乞い同然の暮らしをしていた。その日は父親に殴られてフラフラと歩いていたが、疲れて座り込んでいたところを私が見つけた。
怪我が治ると私の遊び相手として屋敷に滞在することを許された。
一緒に授業も聞いた。読み書きはあまりできなかったが耳から吸収した。
たくさん遊んでもらったものだ。
実の兄よりロックの方が兄だと言いたいくらいだ。
いつしかロックは剣を習い始めていて、今や立派な護衛騎士だ。
「ロックが兄様だったら良かったな」
「お嬢様のことは妹のように大事ですよ」
「それにいい父親になると思う」
「俺がですか?」
「そうよ。面倒見がよくて、努力家で、優しいもの。間違いないわ」
「お嬢様みたいな可愛い子を相手にしていれば皆そうなりますよ」
「そうなら良かったのに」
「……お嬢様、冗談抜きです。俺はリヴィア様の為なら何でもします。覚えておいてください」
「ロックは幸せになってね」
「覚えておいてください!」
「分かったわ」
王都に戻ると、王宮発行の密書が届いた。
表には密書の印。蝋印は特務部のものだった。
モロー隊長が書いたもので、24時間保たない特別な手紙だ。よくは分からないがこの特別な加工をした紙とインクの組み合わせが文字を消してしまうらしい。
完全になくなるわけではない。滲んでシミにしか見えなくなってしまう。
内容はサラの調査結果だった。
セグウェル男爵は既にサラを迎え入れていたが今回の入学には間に合わない。
礼儀作法や学力が合格レベルにないらしい。
つまりこの1年で必死に勉強して来年入学するわけね。巻き戻り前と同じだわ。
サラを迎え入れるにあたり、夫人と揉めたようで険悪だという。
それは当然の反応だった。
縁戚でもないのに突然成人間近の女の子を迎えるなんて普通じゃない。男爵家には男、女、女、男の順で子は生まれていて増やす必要もない。
そしてハリソン侯爵が口にしたカシャ家の縁談。
カシャ公爵家はネルハデス伯爵家宛に縁談の申し入れの手紙を送っていた。
ネル公爵令息とリヴィアの婚姻申し込みだった。
それをハリソン侯爵の手先だった使用人が伯爵に渡さずにハリソン侯爵に渡した。
ハリソン侯爵が断りの手紙を書き、メイドが屋敷に持ち帰り伯爵家の蝋印で封をして返信したようだ。
隊長の手紙の最後には“いつでも会いに来い”と書いてあった。
縁談の件はお父様にも報告が届いていた。
それはカシャ公爵家にも。
改めて申し込みが来たようだ。
「リヴィアはどうしたい?」
「受けません」
「分かった。リヴィア、一番の縁談避けは縁談だ。
婚約者がいれば申し込まれない」
「はい」
「来週末に比較的温和と言われる家門の茶会がある。子爵家や男爵家ばかりだが行くか?」
「行きます」
「返事を出しておこう」
「お願いします」
「あと、もう一つ。ロックから聞いた。
行きたくない時はそう言えばいい。休んでしまえ。
卒業できなくても構わない。無理に通う必要はない」
「ありがとうございます」
「リヴィア、大事なのはお前だ。分かったな?」
「はい、お父様。気が楽になりましたわ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
近くの湖に気分転換をしに来た。
「お嬢様、あまり身を乗り出さないでください」
「分かったわ」
護衛が一緒に乗ることで許された湖の手漕ぎボート。もう一隻にも護衛が乗り込んで側にいる。
学園が始まるまであと1週間。
入学すれば、ヘンリー王子殿下とカシャ公爵令息、団長の子息、大臣の子息、先生、コーネリア様もいる。
まだ彼らは魅了前で罪はない。だけどコーネリア様は……
「お嬢様、何を悩んでおられるのですか」
「学園が始まるのだけど、会いたくない人達がいるの」
「行かないと駄目なのですか?」
「貴族の家に嫁に行くならね」
「行かなければいいではありませんか」
「え?」
「お嬢様が伯爵家を継げばよろしいのです」
「でも兄様が」
「留学したまま旅に出て戻らないではありませんか」
そう。兄様は留学して4年前に帰国するはずが未だに帰らない。訪れ先からは手紙が来る。資金をどう稼いでいるのだろう。
今の私は純粋な娘ではないからこんな風にも考えてしまう。
金持ち未亡人でも捕まえてヒモになりながら共に旅をしているんだろうと。
「お父様が決めることだし、それに学園はすぐだから行くしかないのよね」
「お嬢様」
「ロック。貴方は私の心まで守ろうとしてくれるのね。感謝しているわ」
「……」
ロックはお兄様と同じで24歳。
領地内で怪我をしているところを拾った。
小さかった私はロックの服を掴んで離さず、連れて帰ると泣いて強請った。
彼は当時14歳だった。
ロックは酒浸りの父との二人暮らしで物乞い同然の暮らしをしていた。その日は父親に殴られてフラフラと歩いていたが、疲れて座り込んでいたところを私が見つけた。
怪我が治ると私の遊び相手として屋敷に滞在することを許された。
一緒に授業も聞いた。読み書きはあまりできなかったが耳から吸収した。
たくさん遊んでもらったものだ。
実の兄よりロックの方が兄だと言いたいくらいだ。
いつしかロックは剣を習い始めていて、今や立派な護衛騎士だ。
「ロックが兄様だったら良かったな」
「お嬢様のことは妹のように大事ですよ」
「それにいい父親になると思う」
「俺がですか?」
「そうよ。面倒見がよくて、努力家で、優しいもの。間違いないわ」
「お嬢様みたいな可愛い子を相手にしていれば皆そうなりますよ」
「そうなら良かったのに」
「……お嬢様、冗談抜きです。俺はリヴィア様の為なら何でもします。覚えておいてください」
「ロックは幸せになってね」
「覚えておいてください!」
「分かったわ」
王都に戻ると、王宮発行の密書が届いた。
表には密書の印。蝋印は特務部のものだった。
モロー隊長が書いたもので、24時間保たない特別な手紙だ。よくは分からないがこの特別な加工をした紙とインクの組み合わせが文字を消してしまうらしい。
完全になくなるわけではない。滲んでシミにしか見えなくなってしまう。
内容はサラの調査結果だった。
セグウェル男爵は既にサラを迎え入れていたが今回の入学には間に合わない。
礼儀作法や学力が合格レベルにないらしい。
つまりこの1年で必死に勉強して来年入学するわけね。巻き戻り前と同じだわ。
サラを迎え入れるにあたり、夫人と揉めたようで険悪だという。
それは当然の反応だった。
縁戚でもないのに突然成人間近の女の子を迎えるなんて普通じゃない。男爵家には男、女、女、男の順で子は生まれていて増やす必要もない。
そしてハリソン侯爵が口にしたカシャ家の縁談。
カシャ公爵家はネルハデス伯爵家宛に縁談の申し入れの手紙を送っていた。
ネル公爵令息とリヴィアの婚姻申し込みだった。
それをハリソン侯爵の手先だった使用人が伯爵に渡さずにハリソン侯爵に渡した。
ハリソン侯爵が断りの手紙を書き、メイドが屋敷に持ち帰り伯爵家の蝋印で封をして返信したようだ。
隊長の手紙の最後には“いつでも会いに来い”と書いてあった。
縁談の件はお父様にも報告が届いていた。
それはカシャ公爵家にも。
改めて申し込みが来たようだ。
「リヴィアはどうしたい?」
「受けません」
「分かった。リヴィア、一番の縁談避けは縁談だ。
婚約者がいれば申し込まれない」
「はい」
「来週末に比較的温和と言われる家門の茶会がある。子爵家や男爵家ばかりだが行くか?」
「行きます」
「返事を出しておこう」
「お願いします」
「あと、もう一つ。ロックから聞いた。
行きたくない時はそう言えばいい。休んでしまえ。
卒業できなくても構わない。無理に通う必要はない」
「ありがとうございます」
「リヴィア、大事なのはお前だ。分かったな?」
「はい、お父様。気が楽になりましたわ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
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