母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第一章 マルコ

1-4 カラガンダ老との面談(1)

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 あり得ないようなワイバーンの殲滅を目の前にして、暫く呆けていたカラガンダ老がようやく声を出した。

「今のは、・・・。
 マルコが・・・、のか?」

「はい、余計なことだったかもしれませんが、あのままでは死傷者が出ると思いましたので、養父上ちちうえ様の指示もなく勝手にしてしまいました。
 お怒りならば、おしかりは甘んじて受けます。」

 6~7歳の幼子にしては、随分と大人びた言葉遣いだったのだが、カラガンダ老は特段不思議とも思わず聞き流していた。
 むしろ、その言葉遣いに感心していたぐらいである。

「馬鹿なことを言うでない。
 放っておけば多数の命が失われたところをマルコが未然に防いだのじゃ。
 誉めることはあっても叱ることなどない。
 じゃが、あの魔法・・・・。
 マルコが勝手に判断して使うには余りにも強すぎるようじゃな。
 今後は、儂が傍にいる場合は儂に相談してから使うようにな。
 儂がおらぬ場合は、マルコが良かれと思う人物に相談してから使うようにせよ。
 特に街中で使えば周囲に被害を及ぼしかねないでな。」

「養父上様の仰せの通りにいたします。」

「ふむ、それはそれとして、今宵、イーゼンの宿坊で今後のことも含めてマルコと良く話し合わねばならぬな。」

 カラガンダ老はそう言って考えを巡らしていた。
 マルコは、稚児ちごにしては大層可愛い子供である。

 年齢はせいぜい6歳か7歳程度。
 利発であり、大人に対しても動じない豪胆さがあると看て、養子に引き取ったのである。

 カラガンダの子はいずれも既に成人し、息子は嫁を貰い、娘は嫁に行ってマルコよりも大きな子供を抱えている者もいる。
 バンツー一族の本拠地であり、本店のある商都ニオルカン郊外の別宅に住む老妻のステラは子達が巣立ちしたことを常日頃から嘆いているので、立ち寄ったバクホウの町でペットになりそうな生き物を探していたのだが、まるで女児のように可愛いマルコを見かけ、事情を聴いて、衝動的に養子としたのだが、思わぬ拾い物であったかもしれない。

 仮にあのまま隊商全体に撤退の指示を出していれば、傭兵と冒険者に命を引き換えに盾となってもらっても、なお、従者の半数以上に被害が及んだはずだ。
 しかも逃げるのに邪魔な膨大な積み荷はそのまま放置するしかない。

 ワイバーンが食料を食い散らかし、そのあとで魔獣が襲うことになるからまともに残る品物はごく僅かであろう。
 その損害は金貨千枚で済めば御の字である。

 貴重な品を容れたマジックバッグを預かっている手代などが襲われて一人でも攫われでもしたなら、その被害は優に金貨一万枚以上に達するだろう。
 その被害を未然に防いだのがマルコである。

 マルコが使った魔法は間違いなく中級には収まらないはずで、おそらく上級魔法のはず。
 マルコは耳の形からエルフの特徴をやや引き継いでいるような気がするのでおそらくは人族とのハーフでなかろうかと考えている。

 そもそもエルフ族と人族では、生活習慣が違う上にエルフ族が人族を忌み嫌うためにつがいになりにくく、仮に番になっても子をなしにくいので、ハーフは極めて稀だと聞いている。
 そうしてエルフ族は土と水の魔法に秀でていると聞いているが、火魔法を使えるとは知らなんだ。

 生活魔法程度の火を熾すならばともかく、ワイバーンを燃やし尽くすほどの火力など宮廷魔法師でも持っているかどうか疑わしい。
 しかも三匹のワイバーンはおそらく500ブーツほども上空を飛んでいたはずだし、前方の隊商を襲っていたワイバーンはさらに遠く1ケブーツ近くも距離があったように思うのだ。

 その距離を全く問題とせず、5匹ものワイバーンを一瞬で狩るなどSクラスの冒険者でもできるかどうか怪しいものだ。
 今回の討伐の状況を見ていた者は多い。

 マルコがその当事者であることを知っている者はさほど多くはないはずだが、いずれその噂が広まるのは避けられないだろう。
 傭兵や冒険者ならずともあの危機を救ったのは一体誰なのかと疑問を持つのは当然である。

 それが話題に上れば、知っている者で『実は・・・』と話をする者が現れるのは極自然な成り行きである。
 噂が噂を呼ぶ前に何とか内輪の話にして口外無用としておく必要があった。

 カラガンダ老は、峠を越えて下り始めた隊商の小リーダーや傭兵及び冒険者のリーダーを集めて、今回のワイバーン退治については、できるだけ話をするなと全員に指示するように異例の指示を与えたのである。
 ワイバーン五匹の遺骸については、冒険者達に素材の採集を任せた。

 狩ることのできたワイバーン自体は、捨てるところがないほどの価値あるものなのである。
 但し、今回は隊商が保有するマジックバッグ等には大事な交易品が収められていて、さらに収納するような余裕がないので、冒険者たちの保有するマジックバッグの容量に任せることにしたのである。

 その代わりに採取した素材の売却代金の半分は冒険者に支払うことにしている。
 因みに傭兵たちにその恩恵はない。

 彼らはマジックバッグを持っていないのだ。
 実は、この時一言マルコに尋ねていればよかったのにと後で非常に悔やんだがそれこそ後の祭りにしか過ぎない。

 その日の夕刻、予定よりも少し遅れ気味ながらイーゼンの宿坊に無事到着し、いつもの粗末な旅の夕食の後に宿坊の一室でマルコと話をした。

「マルコや。
 お前は幼いから分らぬかもしれぬが、お前が今日成したことは普通の人から見ればとても凄いことなのだよ。
 儂が率いるこの隊商は傭兵や冒険者も多く雇っているけれど、その全員が頑張ってもあのワイバーンを二匹退治できるかどうか疑わしい。
 むしろ少し赤っぽい大きなワイバーンなどは全員で闘っても全滅することは間違いない強さのワイバーンなのだ。
 それを含めて5匹のワイバーンをほとんど間を置かずに殲滅したお前の魔法は途轍もなく強力だ。
 だから噂になれば神の申し子のような称号さえ与えられるやもしれない。
 称号だけならばよいことなのだが、貴族や王家に目を付けられると、お前は戦力として囲い込まれるだろう。
 できるだけの口止めはしたが、あまりに目撃者が多いからのぉ。
 おそらくすべての口を塞ぐには至らないだろう。
 幼いお前が戦場などに駆り出される姿は見たくないでな。
 何とかお前を守ってやりたいが、儂も大手の商人とはいえ、大貴族や王家から口を挟まれると如何ともしがたい場合もある。
 だから、お前の力は極力伏せてくれぬかな。
 本当に必要な時にまで力を振るってはならぬとは言わぬが、そうしなければお前を守り切れなくなる。」

養父上ちちうえ様、ご心配をおかけします。
 仮に養父上様の手に負えない場合はそのまま放置してください。
 自分のことは自分で面倒を見ます。
 その代わりにそのような場合は必ず養子の縁を切ってください。
 私は貴族であろうと王家であろうといかなる勢力にも拘束されません。
 その代わりに養子のままであれば養父上様や周囲の方々に迷惑をおかけしてしまいます。
 養子の縁を切っていただければ、例え私が反逆者と呼ばれようとも養父上様に被害は及びません。
 そうして養父上様に申し上げておくべきことは、私が先ほど峠で見せた力は私の持つ力のほんの一部にしかすぎません。
 私の判断で勝手に必要な処置を講じましたが、あの方法よりも軽い措置を取っていれば被害が出ると判断したからであり、その結果として、私の使った魔法が人の口に乗って、いつの日か私達にも悪い影響が生ずることも覚悟していました。
 因みに、今日使った魔法は上級火魔法と上級水魔法ですが、私はそれ以外の属性魔法も使えます。
 例えば、今日養父上様が悔しそうに眺められていたワイバーンの素材ですが、私が持つ空間収納の力を使えば、5匹のワイバーンが丸ごと収容できていました。」

「何と、空間収納の魔法とな?
 いったいどれほどの量が収納できるのかな?」

「余り人の目には晒したくございませんが、やろうと思えば、ただいま養父上様の隊商が運んでいる73台の荷馬車すべての荷物を収納できます。」

「何と、それほどにか・・・・。
 何故、出発前に話してはくれなんだのだ。
 それがわかっていれば今少し荷を運べたものを・・・。」

 今更言っても詮無いことと知りつつもカラガンダ老は愚痴を口にした。
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