母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第三章 ニオルカンのマルコ

3ー5 マルコと学院長 その一

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 ペシャワルに絡む事件は尾を引き、その日と翌日の授業が休講となった。
 学院長自らが教師陣を相手に二日に渡って講習を行ったのだ。

 生徒たちは、令有るまで例え練習場であっても魔法を使ってはならないと厳命された。
 授業が始まったのは三日後からだったが、三年生から順次学院長自らの個別指導がなされたのである。

 学院長は偏向した部分の確認をし、できるだけ修正をしたかったのだが、大部分の者は手遅れであった。
 三年生で二割、二年生で三割の生徒に若干の補正ができるかどうかという結果に暗澹たる思いを抱いていた。

 そうして一年生であるが、ここも同様の結果が出てきたが、それでも適切な指導を行えば半数近くは伸びる可能性もあると判断した。
 問題の生徒であるマルコについては最後に面談をした。

 サリバス学院長は、面談前にマルコ・モンテネグロの情報をおさらいしていた。
 マルコは七歳、マイジロン大陸では屈指の商会であるモンテネグロ家の子供である。

 しかも、会頭であるカラガンダ・モンテネグロ翁の子息となっているが、恐らくは養子であろう。
 カラガンダ翁は、すでに齢六十も半ばのはずだ。

 その息子たちが商会の実権を握っている筈であり、カラガンダ翁の孫であってもマルコよりは年長であるはずだ。
 カラガンダ翁の嫁女は一人のみで、確か妾などはいないと聞いている。

 マルコがどこの家からの養子かは知らないが、カラガンダ翁は会頭でありながら、未だに隊商を率いて隣の大陸や亜大陸に交易に出かけている様だ。
 或いはマルコは他大陸の貴族の血を引いているのかもしれない。

 過去幾年にもわたり、貴族が没落し、あるいは在野に種を落として血を分けていることから平民であっても、魔力の多い子は稀に生まれるものだ。
 但し、契約魔法の魔法陣を生み出せるほどの魔力となると、通常は貴族の血を色濃く受け継いだ者以外にはあり得ない。

 少なくとも夫婦そろって数代続いた貴族の家系に生まれた子でなければ、それほどの魔力を持つには至らないはずなのだ。
 それにしてもそんな貴族の子が何故商人の養子になったのか?

 その辺の経緯を訊いてみたいものではあるが、それを訊くとなれば、マルコではなく、カラガンダ翁に訊かねばなるまいなと思うサリバス学院長であった。
 そうして一年生の最後にマルコが学院長室に呼ばれた。

 学院長の勧めにより、学院長の前の椅子に腰を下ろしたマルコだった。

「さて、マルコ君、何故に学院の生徒全員との面談を私がしているのかわかるかね?」

「いいえ、わかりません。
 学院長が何か目的を持って面談をしているものとは思いますが・・・。」

「うん、その通りだ。
 生徒の現状を確認し、これから是正が可能かどうかを確認しているのだよ。
 それというのも、君が練習場の標的を破壊したのが契機だ。」

「あの、・・・。
 標的について弁償しろというなら、私が直します。」

「うん?
 別に君が弁償する必要はないが・・・。
 君はそれほど多額のお小遣いをもらっているのかね?」

「いいえ、お小遣いとしては、月に銀貨一枚ほどですので大金ではないと思います。」

「なるほど、まぁ、それでもお小遣いをもらえるぐらいなら恵まれている方だろうね。
 しかしながら、自分で直すという意味は、ご両親に負担をしてもらうという意味かね?」

「いいえ、言葉通りの意味です。
 あの標的は、鋼とミスリル、それにアダマンタイトの比率が少しずつ異なる合金の様でしたから、必要があれば私が作り直せます。」

 わずかに七歳の子が標的の組成を何故知っているのかが疑問だが、確かに各成分の比率を変えた合金であったことは資料で読み知っている。
 それを作り直すという意味は、合金を生み出す力があるということか?

 なれば、鍛冶のスキルを持った子なのか?

「ほう・・・。
 もしかすると、君は鍛冶師でもあるのかね?」

「いいえ、鍛冶のスキルはありませんが、錬金術ならば多少はできます。」

 ハッ、またまた驚きの言葉が出て来たぞ。
 錬金術で合金の標的を造れるというのか?

 錬金術は無から有を生み出すものでは無いし、私の記憶では物の属性を多少変えたり、魔法の付与をしたりすることはできるものの、冶金ができるほど便利では無かった筈。
 普通は、魔石等を用いて魔力を顕現させる魔道具を作るのが主流で、そのほかに薬師の真似事もできるらしいが、少なくとも鍛冶師の真似事ができるという話は聞いたことが無い。

 契約魔法の魔法陣を生み出せるほど魔法の才能を持った子が、錬金術でも稀な能力を持つというのか?
 これはある意味で本当にとんでもない子のようだ。

 さてどうしたものか・・・。
 実際に標的を造らせても良いかもしれぬが・・・。

 それこそ、この幼き子に無理をさせてもいけないだろう。
 それよりも、この学院の教師すら碌に知らぬことをこの幼子が何故知っていたかを訊く方が先だろう。

「標的については気にせずともよろしい。
 その代わりに教えて欲しい。
 君がトラブったペシャワル君との言い合いの中で、幼い子が無理に魔法を使い続けると成長を阻害することを指摘したようだが、そのことを誰に教えてもらったのかな?
 少なくともモンテネグロ家には魔法師が居ないはずだが?」

「アッ、えーっと、・・・・。
 別の地でとある魔法師の方に教えてもらいました。」

 ふむ、答えるのに少し間があったようだが、嘘をついているのやもしれぬな。
 嘘をつかねばならない理由は無いはずだが・・・・。
 
「この国の魔法師ならばそのほとんどを私が知っているが、誰かな?」

「この国の人ではありません。
 サザンポール亜大陸の方で、ヴィジョルドという方ですがご存じですか?」

 マルコは咄嗟に海難で死亡した養父の商人の名を出した。

「いや、流石にサザンポール亜大陸の魔法師は知らないな。
 その方に魔法を習ったのかね?」

「ええ、まぁ、・・・。」

 随分と歯切れの悪い返事だが・・・。
 何がまずくてそうなるのだ?

 子供特有の恐れから来る躊躇いためらいなのかな?

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