母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第六章 故郷の村へ

6ー4 待機中の出来事 その二

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 カヴァレロを出港したグリモルデ号はオズモール大陸の北側を通って、一路、エルドリッジ大陸北西部に向かうように動きますが、通行船が周囲に居なくなった時点でマルコのインベントリに収納です。
 マルコは、再びハレニシア上空に戻る前に、エルドリッジ大陸北西岸の寄港できる港を探しました。

 最も近いところでは、エルドリッジ大陸の西端に位置するアルバコル半島の付け根付近に『二エブラ』という港がありますけれど、漁村であって、例えば糧食の買い付けなどは望むべくもありませんし、港というよりは岩場の多い入り江であって、港の管理者も当てにならない状況です。
 従って、そこから二十里ほど東北東にある、『ヴァニファシオ』という商港に目を付けました。

 周辺で密かに情報収集をしたところ、ここはエルドリッジ大陸の北西部の一部を支配するシリル帝国の版図であり、ヴァニファシオはシリル帝国でも一、二を争う商港都市なのです。
 領主は、フェーベストン侯爵であり、領都はこのヴァニファシオになっているようですね。

 このヴァニファシオを含めて、シリル帝国はハレニシアとは随分と離れてはいますけれど、エルドリッジ大陸でも栄えている地域の一つのようです。
 カヴァレロからオズモール大陸の北側海域を無寄港で航行した場合、ヴァニファシオまでは2万2千里ほどになります。

 この世界の船が帆走した場合、ずっと追い風でもない限りは、概ね南北に移動しながら徐々に東進しますので、延べの航走距離は倍近くになるでしょうか。
 普通の帆船ならば、追い風の場合、最速で一刻の間に百里(74㎞)ほども進みますが、斜め前方から受ける風では、一日で20里から30里ほどしか進めないものなのです。

 ましてや向かい風では、風に押し流されてほとんど前には進めません。
 グリモルデ号は、キールとセンターボード、それにジブセールを持っていますから、暴風雨でもない限り、多少の向かい風でもタッキングをしながら前進は可能なんです。

 そんなことでグリモルデ号ならば、ある程度風向きに関係なく東進できますが、それをひけらかすのも問題なので、前に申し上げたように船員三人に航路途中の風向風力等を観測させ、それに合わせた移動距離を日誌上に記載させています。
 公然と言える話ではありませんが、勿論、虚偽の記載です。

 グリモルデ号は、イタロール港やカヴァレロ港を出港後、航海日誌に記載された海域にはほとんど存在せず、ほぼマルコのインベントリに収まっているのです。
 これまでの実績からして、この時期のオズモール大陸北側海域は東向きの風が多いために、グリモルデ号の性能から言えば毎時30~40里(22~30㎞)ほどの速度は保てそうです。

 仮に毎時30里程度の速度ならば、カヴァレロからヴァニファシオまで、最短で30日ほどで到着できることになります。
 但し、残念ながらこの予測は外れました。

 カヴァレロから北に向かっている最中に大時化おおしけに遭遇(日誌上)することになり、少なくともこの時だけで4日分ほどの遅れを生じました。
 やはり海路の旅というものは水物で当てになりませんから、この分ならば、ヴァニファシオまで50日から60日と見込んでいた方が良さそうです。

 ◇◇◇◇

 相も変わらずハレニシアの上空で監視状態にあるマルコですけれど、異変を感じ取りました。
 ハレニシアの入り江近傍の沖合に、見慣れぬ船が近づき、漂泊しているのです。

 海岸から20里以上も離れているので、平地からではもやに隠れて見えませんが、この周辺では見かけたことの無い船です。
 ハレニシアを含めて近隣の漁村の沖合を交易船が航過することはあっても、交易船が浜に来ることはありません。

 そうして仮に交易船が来るのであれば、西か東の商港に入るはずなのですが、交易船というには少し型が小さいように見えます。
 小さな船でも交易は可能ですけれど、その分効率が悪いので遠距離を交易する船ならばもう少し大きな船が主流なのです。

 マルコの飛行艇は、上空に居ますので200里(約150㎞)ほどまで視界は得られます。
 尤も、平地から見るのと同様に、靄に視界をさえぎられるのですけれど、マルコにとっては靄を通して遠くをのぞくことも左程苦にはなりませんし、何より、マルコの索敵反応が微妙に反応しています。

 これはマルコの本能が危うい存在と判断しているのだと思います。
 但し、センサー上では少し橙色がかった黄色なんです。

 少なくともマルコに対する直接の敵意は無さそうですし、マルコが守ろうとしているハレニシアの家族に対する害意もなさそうです。
 でもこの色は犯罪者の予備軍的な意味合いなので要注意ですから、ドローンを張り付けてこの怪しげな船を監視中なのです。

 夕刻、陽が落ちてからこの要注意船が動き始めました。
 その進行方向から見ると、ハレニシアの東方向にある二つ目の漁村であるブロッシアを目指しているようです。

 ブロッシアもハレニシアと同じくエルフの住む集落ですが、ハレニシアの住民とは異なる一族です。
 ハレニシアとブロッシアの間にいさかいはありませんが、特段の交友も無い集落のようですね。

 いまは西寄りの海岸に向かう風が吹いていますので、三刻ほどでブロッシア沖に到達しそうな雰囲気です。
 マルコは、念のため、虫型の小型ゴーレムをドローンから放ち、船内の会話を盗聴しました。

 その結果、この船は人攫いひとさらいの船と判明したのです。
 実は、マルコがさらわれた時も、夜陰に紛れて、船からの襲撃が有ったのです。

 最初に囮の襲撃があり、住民がそちらに気を取られている間に別動隊が集落内の女子供を狙うのです。
 攫われたマルコは、船に載せられたのを覚えています。

 三歳の頃の記憶ですけれど、当時の犯人の顔も数人は覚えています。
 ずっと船倉のようなところに押し込められていましたので、港に立ち寄ったのかどうかもわかりません。

 ある時は、夜中に大きな船に積み替えられ、その後はまた船倉の中で過ごしました。
 マルコが攫われてから次に陽の目を見たのが、人身売買で売り飛ばされる時だったのだと思います。

 それから幼いマルコは大人に連れられて複数の大陸を転々としたわけです。
 マルコが攫われた時の話は別にして、船内の会話の様子からして、間違いなく人攫いの常習犯のようですね。

 これからの人攫いの段取りについて船の船橋で確認しあって話し合っているところです。
 差し詰め、本番前のブリフィーングと言ったところでしょうか。

 そうして、この船内には、既に8人ほどの女子供が捕らえられているようです。
 船内での雑談から推測するに、どうやらハレニシアの西側海域で、一カ所か二か所の集落を襲撃してきたようで、次の襲撃を終えたらアジトに戻るようですね。

 9年経った今でもマルコは被害者なわけですから、これを見逃すわけには行きません。
 マルコは、この犯罪組織を徹底的に叩き潰すことにしました。

 一旦、腹を決めると後は早いのです。
 この船を物理的に止め、同時に船に乗り込んで行って、船内の海賊(?)人攫い(?)どもを完全に身動きできないように制圧しました。

 実際に乗り込んで行ったのは、護衛用のゴーレムでウィツ、ワル、エィワ、テカウの四体なのですが、闇魔法で彼らの姿形を変えて、別人に見えるよう様に偽装していますから、どこか別のところで今回の犯人や被害者たちに出会ってもマルコの護衛だとは気づかないはずです。
 そんな中で制圧した男の一人に、マルコは見覚えがありました。

 右頬に大きな切り傷のある男は、9年前にマルコの誘拐の実行犯だった男なのです。
 しくもマルコを攫った悪党どもを捕まえたようですね。

 囚われた女子供に事情を聴いて、ハレニシアの西40里ほどのところにある『ブリオッズ』という集落と、更に西にある『オルリス』という集落から攫われたことが判明しましたので、当該船を使ってブリオッズの集落に送り届けることにしました。
 ブリオッズとオルリスの内陸側には、『チャゴス』という比較的大きな町があり、そこには衛士も居るのです。

 従って、ブリオッズの住人に事情を説明すれば、彼らがチャゴスの衛士に犯人たちを引き渡してくれるでしょう。
 因みにブリオッズは、ヒト族ながら銀髪赤目の種族が多く住んでいて、「赤目」とよばれてエルドリッジ西部域の奴隷市場では高値を付けているようです。

 因みにエルフもその人買い商人の間では高値なのです。
 また、オルリスで攫われた子供三人は、天狐族と呼ばれる希少種族の獣人の子で、やはり高い値で売買されているようですね。

 いずれにせよ、この人攫い船の対応に二日ほどかかりましたけれど、衛士がブリオッズまで出張ってきて犯人達を捕縛してゆきました。
 念のためこれらの罪人には虫型の超小型ゴーレムを張り付けて動静を把握しています。

 彼らがチャゴスの牢獄につながれたのを確認してマルコは次の計画に移ります。
 彼らの組織を丸ごと潰すのです。

 マルコが攫われた女子供を救い出してから三日目の夜、人攫いのアジト5カ所、関わっていた奴隷商人6人、人攫いとわかっていながら賄賂を取って見過ごしていた官憲4人、及びその関係者で誘拐などの犯罪に手を染めていた者ら総勢79名が一斉に首を切られて死にました。
 当然に、殺人事件として官憲の捜査が始まりましたけれど、生憎と犯人の手掛かりは一切なく、事件は闇に葬られたのです。
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