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第四章 伯爵になってはみたものの

4-7 エルフの家出王女

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 フレゴルドの二つのギルドに挨拶を済ませ、隣に住むキャスリン・オマールさんのお加減が余り宜しくないとトレバロンから聞いて、お見舞いがてら隣にもお邪魔した。
 キャサリンさんもギャランさんもなぜか栄養不足に陥っていました。

 トレバロンが入手した情報によれば、亡くなった旦那さんの親族が現れて、旦那さんの遺した金目の物を根こそぎ奪って行ったのだとか。
 法的には旦那さんの親族と言えどそんなことをする権利は無く、フレゴルドの代官にその旨を申し立てたが、代官所の動きは遅く、資産を取り返すまでには至っていないと言う。

 俺は、この隣家の庭先にある金塊の存在を教える時が来たと思った。
 二人を前に俺は秘密を教えた。

「この屋敷の入り口脇に置かれている大岩の中には純金が入っています。
 金鉱石ではなく純金の塊です。
 商業ギルドのギルドマスターに内密に話をして、商業ギルドで買い取ってもらうといいでしょう。
 因みに、金塊の量はおそらく紅白金貨で二枚ほどの価値があります。
 多少の手数料を取られたにしても相当な金額が残るはずです。
 あと、その金塊をカタに私が当座の金をお貸しします。」

 金貨が100枚入っている子袋を二人の目の前に置いて言った。

「このお金を使い、栄養のあるものを食べて元気を出してください。
 もう一つ、ついでに申し上げておきます。
 冒険者ギルドのギルマスに相談して、信頼のおける冒険者の護衛を二人雇ってください。
 もし万が一、再度、無茶な親族が押し入ってきたならばその護衛が取り抑えてくれるでしょう。
 ギルマスには、隣に住むリューマがくれぐれも宜しく言っていたと伝えていただければ動いてくれます。
 無論、冒険者ギルドにお願いするのは無料ではないですからね。
 ギルマスから教えて貰って、適正な護衛料金を払ってください。
 それと、我が家のトレバロン、ラーナ、イオライナの三人の使用人は今日限りで王都に連れてまいります。
 その代わり、ショーン・ムリャードとカリン・ムリャードの夫婦が、私の留守宅を守ってくれますので、これまで同様近所づきあいをよろしくお願い申します。
 お貸ししたお金は、大岩の金塊が売却されてから、我が家の管理人夫妻に預けてください。
 因みに近所づきあいのよしみで利息は要りません。
 困ったときはお互いに助け合いましょう。」

 そう言って俺はキャサリン夫人とギャランにお別れを告げた。
 その後、風の噂でキャサリン夫人の屋敷に無断で侵入しようとした男が捕らえられ、厳罰に処せられて借金奴隷に落とされたと聞いた。

 男はキャサリンさんの旦那様の甥っ子に当たるが、相続権など無いのに無理やりキャサリン夫人の屋敷の金品を強奪した罪で手配されていたものだった。
 無論、男が奪った金品は既に勝手に処分されており、キャサリン夫人の元には戻らないのだが、男が借金奴隷となったことにより、その売買金額から被害に見合う金額がキャサリン夫人には支払われたようである。

 翌日の早朝、俺たちはムリャード夫妻に見送られながらフレゴルドを出発した。
 アリスは勿論俺の亜空間の中に入っていてもらっている。

 その際にアリスのお気に入りのカウチが亜空間の中に入れられ、アリスはおれの*padを中に持ち込んでいる。
 俺の私物はインベントリにぶち込んであるから準備は特に要らない。
 アリスの遺骨が収まった棺も勿論インベントリに入れてある。

 帰路はおっかなびっくりながら馬丁のクロンデルが運転をした。
 万が一の場合は俺が魔法でブレーキを掛けるつもりでいたが、四半時もしないうちにクロンデルは運転になれたようだ。
 
 まぁ、なかなか言うことをきかない馬を御する場合もあるだろうから、それに比べれば従順なハンドルやアクセル加減は左程難しいモノでは無かったようだ。
 これで我がファンデンダルク家にも自家用車と運転手が生まれたことになる。

 その日の昼頃には王都に到着して三人の元借金奴隷だった使用人を大いに驚かせたものだ。
 因みに当座は三人の使用人は王都に滞在させるが、いずれ領地に赴き、そこの領主の館でメイド長のクレアと共に
働いてもらうつもりでいる。

 そういえば領主館は一体どうなっているのかな?
 できるだけ早いうちに領地に赴いて屋敷と領内の様子を確認しておく必要があるよなぁ。

 ◇◇◇◇

 仮住まいに三人が加わり、更にアリスも不可視のままで加わったのだが、目ざとくアリスの存在に気づいた者が居る。
 メイド長のフレデリカである。

 俺が一人だけの時を見計らって訊いてきた。

「伯爵様、恐れ入りますが、おそばについているのは妖精とは思えないのですが・・・。
 私以外には察知されていない様子。
 一体、何者なのでしょうか?」

「ああ、メイド長は気づいちゃったか。
 彼女はアリス。
 僕の友人だが、所謂、幽霊だ。
 フレゴルドに所有している邸の元所有者でね。
 土地も邸も法的には僕の所有になっているが、僕自身はアリスとの共有と考えている。
 今回伯爵に叙爵され、王都に邸を所有し、領地も貰ったから、今後はフレゴルドにはなかなか顔を出せない。
 で、アリスに僕と一緒に王都か領地に住まないかと聞いたんだ。
 彼女は僕と一緒に行くことに同意して今一緒にいるわけだが、・・・。
 出来れば彼女の存在は伏せておいて欲しい。
 それと、・・・。
 ついでに君のことも聞いておこう。
 メイド長はエルフであることを隠しているようだけれど、話せる理由があれば教えて欲しい。」

「あぁ、伯爵様ならば或いは気付いているかもと思ってはいたのですが・・・。
 もしや、鑑定の能力をお持ちですか?」

 俺が頷くと、ちょっと伏し目がちになり、やがて顔を上げて話し出した。

「私は、エルフの国であるシュルツブルドの第二王女でしたが、事情があって家出をして、身分を隠して人族の社会に紛れています。
 シュルツブルドのエルフに見つかると或いは連れ戻される可能性もございますので、できれば伯爵様の庇護を受けたいのですが如何でしょうか?」

「家出をしたのは何時頃の話なの?」

「かれこれ38年程になりますね。」

 何とも、これはまた、驚きの年数が出てきましたねぇ。

「そんなにも前ですか?
 でもエルフの時の流れでは左程長い時間ではなく、今でも貴方を探していると?」

「はい、人族と比べると私たちの時は長いですから、そう・・・、人族の人生からすればさしづめ二、三年ほどにしか該当しないでしょう。」

「貴方が同族から探されているのは罪を犯して逃げているのではないのだね?」

「罪ではないのですが、ある意味で義務を放棄しました。
 王である父が決めた結婚話が嫌で逃げ出したのです。
 その結婚相手とされる者が諦めなければ、・・・。
 そう、百年から二百年は間違いなく探し続けるでしょうね。」

「フーン・・・。
 王が決めた相手とは結婚しなければいけないの?」

「本来の掟には無いのですが、いつしかそれがこれまでの慣例となってしまっているのです。」

「掟では、本来どのように伴侶を決めると?」

「森の守り手ドライアドとユグドラシルが認めた者と結ばれるのがエルフの王女の務めとされています。
 ですが、これまで、かなりの長い間、ドライアドが顕現したことも無く、王が決めることが慣例となってしまったのです。」

「ユグドラシルの方は?」

「ユグドラシルは、シュルツブルドの中央にありますが、その大樹がエルフの民に語り掛けたのは久しくありません。
 かれこれ五千年前にユグドラシルからお告げがあったとは聞いていますが、どのようなお告げかは王にしか伝えられていないのです。」

「フーン、何か妙な話だよね。
 掟と慣例が異なっているのに、それを確認しようともしないなんて・・・。」

「私もそう思いますが、久しく巫女が選ばれていないのが原因かもしれません。
 巫女が居なければ、ユグドラシルのお告げも聞けないし、ドライアドの顕現も巫女の力なくしては難しいのです。」

 フーン、巫女って確かフレデリカの称号にあったはずなんだけれど・・・。
 フレデリカはそのことを知らないのかな?

 まぁ、俺からその辺の口出しをすることは控えておこう。
 求められたなら場合によっては教えることにしよう。

「なるほど、・・・。
 まぁ、僕がエルフの国に干渉するわけには行かないけれど、君は僕の使用人だからね、使用人である限りは庇護を与えるよ。
 仮にエルフの国から誰かがやってきて君を奪い返そうとして来ても、君が望まない限りは渡さない。」

 それを聞いて、エルフの家出王女は ここ一番の笑みを見せてお礼を言った。
 因みにシュルツブルドと言う国は、ジェスタ国のある中央大陸の南方域にある高原地帯にあり、周囲を切り立った崖で囲まれたギアナ高地のような場所らしい。

 ジェスタ国からは略南東方向にあるようだ。
 フレデリカの話では、馬車の旅で急いでも数カ月はかかるらしいから、その意味ではフレデリカも随分と遠くまで逃げて来たものである。
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