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第三話 奪われたプレゼント
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「もう、許して下さい……私はただ、お兄様に――」
「何がお兄様よ。エーベル殿下なら、まだ前夜祭のパーティー会場にいらっしゃるわ。あなたは、前夜祭にも呼ばれてなかったじゃない。高貴な身分だと言うなら、その証拠を見せなさい!」
マリラが詰め寄る。一人きりで、寝間着とガウンだけでやってきたアストリアは、自分の身分を証明するものを何ひとつ持っていなかった。
「その手に持ってる包みを、こっちに渡して」
唯一、包みの中にある手作りのペンダントには、王家の紋章が入っている。だが、兄エーベルとの大切な思い出のために作った品を、この傲慢な婚約者にみすみす手渡して、汚されたくはなかった。
「許して下さい。これは大切なものなんです……」
アストリアは、マリラの要求を拒絶した。
「大切なもの、ですって?」
マリラの表情がますます険しくなった。
「やっぱり、殿下の浮気相手か、さもなくば、殿下を誘惑して私たちの結婚を邪魔しに来た、どこかの大貴族のスパイでしょう。そんな姿で、夜中にうろついてるんだものね」
マリラは手を伸ばし、強引に包みをつかむ。
「やめてください……これは……」
「うるさい!」
マリラの声が冷たく響いた。
「あなたのような者が、エーベル殿下に近づく資格なんてないのよ」
公爵家の護衛たちはアストリアの腕を、さらに強く押さえつけた。彼女は必死にもがいたが、病弱な身体では抵抗もままならない。とうとう、包みは無理やりに奪われてしまった。
「あら、この印は……」
マリラは包みを開くと、中から出てきた品を手に取った。王家の紋章をあしらった、ルビーのペンダントだった。
それを見た瞬間、マリラの顔色が変わった。
「この印、王家の紋章よね。すごく、大きなルビー……。こんな高価な宝石、どうしてあなたが持ってるの?」
マリラの声には苛立ちが混じり始めた。
「まさか、エーベル殿下があなたにこれを贈ったの?」
「違います。それは、手作りで……」
アストリアは声を振り絞るが、マリラは全く聞く耳を持たなかった。
「そうよね。殿下が、あなたにこんな物を贈るはずがない。じゃあ、あなたが盗んだわけね? どちらにしろ、許せないわ」
アストリアは頭を左右に振って否定しようとした。だが、彼女の弱々しい抗議の声は、マリラの嘲笑にかき消されてしまう。マリラの侍女たちは、追及をさらに盛り上げるかのように囃し立て、彼女を見下ろしながら笑った。
「あら、これは何?」
マリラは、包みから、紙の束を取り出した。それは、アストリアがエーベルの立太子を祝うために自ら書いた楽譜だった。
「そっ、それは……それだけはやめて、返して!」
アストリアは泣き叫びながら懇願した。アストリアにとってその楽譜は、短い曲ながら、一年近くかけて兄のために書き上げた、真心の結晶だった。
「お黙り!」
バチン!
「痛いっ!」
今度は左の頬に、マリラの平手打ちが飛んできた。
「何よ、この紙は? どうせ恋文でしょう。忌々しい!」
マリラは、そこに何が書いてあるかを確かめることもなく、紙の束をグシャグシャに手で丸めた。
「あっ……ああっ!」
アストリアは絶望し、顔を覆って泣いた。だが、マリラの責めはまだまだ終わらない。彼女は狂喜しながら、自分の護衛である私兵たちに命じた。
「この不審者を、王宮の外に放り出しましょう。縛って公爵家の馬車に積めば、衛兵隊にも見つからずに運び出せるでしょ? どこにでも、捨ててくるといいわ」
その言葉に、アストリアはぞっとした。恐怖で胸が張り裂けそうになった。
「助けて……助けてください……」
彼女は必死に叫ぼうとした。だが、やはり思うように大きな声は出ない。
護衛の私兵たちが、剣の柄を握りながら、アストリアにゆっくり近づいていった。
「何がお兄様よ。エーベル殿下なら、まだ前夜祭のパーティー会場にいらっしゃるわ。あなたは、前夜祭にも呼ばれてなかったじゃない。高貴な身分だと言うなら、その証拠を見せなさい!」
マリラが詰め寄る。一人きりで、寝間着とガウンだけでやってきたアストリアは、自分の身分を証明するものを何ひとつ持っていなかった。
「その手に持ってる包みを、こっちに渡して」
唯一、包みの中にある手作りのペンダントには、王家の紋章が入っている。だが、兄エーベルとの大切な思い出のために作った品を、この傲慢な婚約者にみすみす手渡して、汚されたくはなかった。
「許して下さい。これは大切なものなんです……」
アストリアは、マリラの要求を拒絶した。
「大切なもの、ですって?」
マリラの表情がますます険しくなった。
「やっぱり、殿下の浮気相手か、さもなくば、殿下を誘惑して私たちの結婚を邪魔しに来た、どこかの大貴族のスパイでしょう。そんな姿で、夜中にうろついてるんだものね」
マリラは手を伸ばし、強引に包みをつかむ。
「やめてください……これは……」
「うるさい!」
マリラの声が冷たく響いた。
「あなたのような者が、エーベル殿下に近づく資格なんてないのよ」
公爵家の護衛たちはアストリアの腕を、さらに強く押さえつけた。彼女は必死にもがいたが、病弱な身体では抵抗もままならない。とうとう、包みは無理やりに奪われてしまった。
「あら、この印は……」
マリラは包みを開くと、中から出てきた品を手に取った。王家の紋章をあしらった、ルビーのペンダントだった。
それを見た瞬間、マリラの顔色が変わった。
「この印、王家の紋章よね。すごく、大きなルビー……。こんな高価な宝石、どうしてあなたが持ってるの?」
マリラの声には苛立ちが混じり始めた。
「まさか、エーベル殿下があなたにこれを贈ったの?」
「違います。それは、手作りで……」
アストリアは声を振り絞るが、マリラは全く聞く耳を持たなかった。
「そうよね。殿下が、あなたにこんな物を贈るはずがない。じゃあ、あなたが盗んだわけね? どちらにしろ、許せないわ」
アストリアは頭を左右に振って否定しようとした。だが、彼女の弱々しい抗議の声は、マリラの嘲笑にかき消されてしまう。マリラの侍女たちは、追及をさらに盛り上げるかのように囃し立て、彼女を見下ろしながら笑った。
「あら、これは何?」
マリラは、包みから、紙の束を取り出した。それは、アストリアがエーベルの立太子を祝うために自ら書いた楽譜だった。
「そっ、それは……それだけはやめて、返して!」
アストリアは泣き叫びながら懇願した。アストリアにとってその楽譜は、短い曲ながら、一年近くかけて兄のために書き上げた、真心の結晶だった。
「お黙り!」
バチン!
「痛いっ!」
今度は左の頬に、マリラの平手打ちが飛んできた。
「何よ、この紙は? どうせ恋文でしょう。忌々しい!」
マリラは、そこに何が書いてあるかを確かめることもなく、紙の束をグシャグシャに手で丸めた。
「あっ……ああっ!」
アストリアは絶望し、顔を覆って泣いた。だが、マリラの責めはまだまだ終わらない。彼女は狂喜しながら、自分の護衛である私兵たちに命じた。
「この不審者を、王宮の外に放り出しましょう。縛って公爵家の馬車に積めば、衛兵隊にも見つからずに運び出せるでしょ? どこにでも、捨ててくるといいわ」
その言葉に、アストリアはぞっとした。恐怖で胸が張り裂けそうになった。
「助けて……助けてください……」
彼女は必死に叫ぼうとした。だが、やはり思うように大きな声は出ない。
護衛の私兵たちが、剣の柄を握りながら、アストリアにゆっくり近づいていった。
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