奴隷になったお姫様は、バイオリンを弾くだけで全てを取り戻す〜囚われの王女アストリアと追憶の旋律〜

けんゆう

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第二十三話 侍女たちの裏切り

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 大広間の空気は、張り詰めていた。アストリアの告発とエーベルの宣言により、皆が公爵令嬢マリラに注目していた。彼女は剣を突きつけられながらも、毅然とした態度を装い続けていた。
 
 エーベルが厳しい表情で、マリラに告げた。
 
「マリラ公爵令嬢。君が王家に対して行った行為が明らかになった今、君との婚約をここに破棄する。」

その言葉が響いた瞬間、広間がざわつき始める。観衆の中から驚きの声や囁きが漏れる。
 
「婚約破棄ですって?」
「まだ公式に発表されてもいない婚約が、破棄されたわけか……」

 マリラは目を見開き、信じられないとばかりにエーベルに抗議した。
 
「殿下、それはあまりに一方的ではありませんか!  私は無実です!  このアストリア王女殿下が何をおっしゃろうと、私は潔白ですわ!」

 エーベルは静かにうなづいた。

「良かろう。ならば、君の罪が証明されるまで、この決定は、保留するとしよう。その代わりだ。もしもアストリアの証言通り、君とその取り巻きが犯した器物破損、暴力行為、拉致監禁が事実であれば、婚約破棄だけで済むと思うなよ。たとえ公爵家の人間だろうと、罪に相応する厳罰を受けてもらうぞ!」

 その言葉に、マリラの背後にいた侍女たちが、ざわざわと動揺を見せ始めた。彼女たちは顔を見合わせ、言い訳をしようと口々に話し始める。
 
「私たちは何も知らなかったんです!」
「ただマリラ様の横についていただけです!」
「全部、マリラ様の命令です。私たちにはどうかお慈悲を……!」

 マリラは鋭い声で、彼女たちを制した。

「ちょっと、黙りなさい!  あなたたち侍女ごときの発言に、何の意味もありませんわ!」

 しかし、その言葉がかえって侍女たちの反感を買ったようだった。一人が勇気を振り絞るように、声を上げた。

「マリラ様、私たちも護衛たちも、あなたに言われた通りにしただけですよね。 あなたが命令して……」
「お黙り!」

 マリラは金切り声を上げたが、他の侍女たちも一斉に声を重ねた。
 
「私たちは、もうこれ以上マリラ様にはついていけません!」
「そうなんです。私たちも昔、マリラ様に大切な物を踏みにじられ、奪われ、暴力を受けて、無理やり従わせられていたんです!」

 マリラは真っ赤な顔で怒鳴り散らし、侍女たちを睨みつけた。
 
「あなたたち、本当に何を言っているの?  私が何をしたって言うのよ!」

 パーティー出席者たちの間に、非難の囁きが起こる。
 
「とうとう、侍女たちにも裏切られたか」
「王女殿下のご証言も、記憶が正確なのかどうか少し疑問だったが、この有様を見る限り、どうやら全部本当だったようだな」

 エーベルはその声を聞きつつ、冷静にマリラを見つめた。

 「マリラ、君が何もしていないと言い張るんなら、その証拠を示すべきだ。だが、君の侍女たちが証言し始めた以上、君の主張の根拠は薄れていくばかりだな」

マリラは肩を震わせながら、エーベルに向かって叫んだ。

「殿下、私は何も間違ったことはしていません!  彼女たちが勝手に言ってるだけですわ!」

 しかし、エーベルの声は冷静で、揺るがなかった。

「君は王家の財産を破壊し、王女を傷つけ、王宮の外に拉致するという、前代未聞の反逆行為に及んだ。アストリアの記憶と証拠が一致し、君の侍女たちも次々とそれを認める中で、君はどう釈明するつもりだ?」

 マリラは顔面蒼白になりながらも、強気で言い返した。

「全部、作り話です!  彼女たちが私を陥れようとしているだけですわ!」

 エーベルはため息をつき、観衆を振り返った。

「皆の者、これが公爵令嬢マリラの主張だ。だが、調査が進めば全てが明らかになるだろう。王家の権威を傷つけた者が、どのような極刑を受けるべきか。私たちは慎重に判断しなければならない」

 マリラの侍女の一人が、震えながらも声を上げた。

「マリラ様が、あの夜、すべてを指示しました。アストリア殿下を、奴隷商人に引き渡したんです!」

 マリラが後ろを振り返って、怒鳴る。

「そんなの、護衛たちが勝手にやったことでしょう!  私は知らない! 何も指示してない!」

 しかし、別の侍女もマリラに反論した。

「いいえ、マリラ様は確かに、王女殿下を『王宮の外に放り出しましょう』『どこにでも捨ててくるといいわ』って、護衛に命じてました!」

 侍女たちが新事実をひとつ暴露するごとに、大広間からどよめきが起こり、マリラの状況はさらに悪化の一途をたどった。

 マリラは青ざめながらも、最後の抵抗を試みる。

「これは陰謀です!  誰かが、私を陥れようとしているんですわ!」

エーベルは鋭い目で彼女を見つめた。

「なるほど、大局的に見れば、君も何者かに操られたのかも知れないな。その点は、調査が進めば分かるだろう。だが、アストリアが私のために用意した贈り物を破壊し、暴力を振るい、王宮外に連れ出した罪は、消えない。それらは全て、君の判断と命令で行われたものだ。もはや言い逃れはできない」

「殿下!  私は本当に何もしてないんです!」

 マリラは大声を張り上げるが、もはや誰も彼女を擁護しようとはしなかった。

「これ以上、彼女の言い訳を聞いてもムダだな」
「王族に危害を加えた者には、それ相応の罰を受けさせるべきだ」

 エーベルは出席者たちのざわめく声を聞くと、スッと手を挙げ、静かにさせた。

「すべては法の下に、慎重に裁かれるだろう。だが、やはり君との婚約はここで終わりのようだな、マリラ」

 エーベルの宣告を聞いて、マリラは肩を落とした。もはや完全に孤立した彼女は、震える手でドレスを握りしめながら、黙ったまま立ち尽くしていた。
 
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