奴隷になったお姫様は、バイオリンを弾くだけで全てを取り戻す〜囚われの王女アストリアと追憶の旋律〜

けんゆう

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第二十四話 ロイドの証言

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 マリラは緊張した面持ちで、パーティー出席者たちの視線を一身に受け止めていた。アストリアは彼女をまっすぐ見据え、静かに言葉を紡ぎ始める。

「公爵令嬢、あなたは私に何もしていないとおっしゃいますが、本気でそう主張なさるのですか?」

マリラは目を細め、冷笑を浮かべる。

「ええ、もちろんですわ。私が一体、王女殿下に何か致しましたでしょうか?」

「先ほど証言した通りです。あなたは私を見つけ、誤解から私を捕らえ、暴力を振るい、私の持っていた贈り物を壊し、最終的に私を奴隷商人に引き渡しました。」
 
 アストリアの声には、決意を込めた強い響きがあった。

「滑稽ですわ」

 マリラは肩をすくめながら言った。

「そんなありもしない話で、私を陥れようとなさいますのね」

アストリアは一瞬目を閉じ、息を整えてから続けた。

「では、あなたは何もしていないと?」
「ええ、そうですわ」

 マリラは軽く笑い、国王夫妻に目を向けた。

「両陛下、よくお考えになってください。私が、そんな愚かな行為をする理由がどこにあるでしょう? アストリア王女殿下のご帰還は喜ばしい限りですが、そのご記憶が本当に正しいかどうかは、きちんと調べるべきではないでしょうか?」

 アストリアは険しい表情で問いただした。
 
「私の記憶が、正しくないと言うのですね?」
「もちろんですわ」

 マリラが堂々と答える。

「王女殿下は先ほど、『記憶を失っていた』とご自分でおっしゃったばかりではありませんか。つまり、記憶障害のご症状がおありです。そのようなご病気の方のご記憶が、すべて事実という保証など、どこにもありませんわ」
「確かに、記憶を失っていた時期はありました。」

 アストリアは冷静に答えた。

「ですが、あなたが私にしたことは、忘れようとしても消えません。中庭の冷たい石の床。あなたの平手打ちの感触。そして、私を辱めるために、侍女と護衛たちにやらせた 行為」

 マリラの顔が、わずかに引きつった。
 
「証拠は?」
「私の体を調べれば、まだいくつかは傷跡が残っているでしょう。それらが、あの夜のあなたたちの行為を証明してくれるはずです」
「それだけですか?」

 マリラは眉を吊り上げて、出席者たちにアピールを試みた。

「たったそれだけで、私を告発するのですか?」

その時、ロイドが一歩前に出て、口を開いた。

「それだけじゃない」

広間が再びざわつき、全員の視線がロイドに集中した。アストリアも驚いて、ロイドに目を向けた。

「ロイドさん……」

 ロイドはアストリアに目を向けて微笑むと、王族・貴族たちに向かって、深々と一礼した。

「クライン家の次男、ロイドと申します。私が、アスタ……アストリア王女殿下が、奴隷として売られた先から脱出なさる際に、手助け申し上げました。彼女の記憶が正しいことを証明する証人として、お話し致しましょう」

 大広間全体に大きなどよめきが広がった。

「本当に、奴隷市場に売られたのか? 王女殿下が?」
「そもそも我が国では奴隷売買は禁止だ。これが本当なら、大変な重罪だ」

 マリラは、冷笑しながらロイドの話に割って入った。

「あなたのような田舎騎士の話など、信じられると思って?」
「信じるかどうかは、証拠次第だろう。私は、見たものを語るだけだ。もし調査が行われれば、証人として協力する覚悟はできている」

 アストリアはロイドの言葉に勇気を得て、再びマリラに向き直った。

「どう言い逃れても、真実は隠せませんよ」
「それでも、証拠がないことには変わりありませんわ……」

 マリラは視線をそらし、大広間じゅうの冷たい視線に耐えながら、なおも無罪を主張し続ける。

 その時だった。大広間の重厚な扉が、音を立てて開いた。入ってきた人物の顔を見て、ロイドは驚愕の表情を浮かべた。
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