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最終話 チャリティ演奏会
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昼下がり。王宮正宮殿の中庭では、王族と少数の大貴族が集まって、お茶会を開いていた。席上、エーベルはゆっくりと、アストリアの護衛騎にとなったロイドの方へ歩いていった。
「王太子殿下」
ロイドはエーベルを見ると、向き直って頭を下げた。
「ロイド」
エーベルは彼を上から下まで見回しながら、険しい表情になった。
「お前は、妹をそばで守るという責任を、本当に理解しているのか?」
ロイドは真剣な眼差しで答えた。
「もちろんです。王女殿下のためなら、命をかける覚悟はあります」
エーベルは少し苦笑いを浮かべた。
「命など、かけなくていいんだ。そんなことより、アストリアにふさわしい男になれ」
「王女殿下にふさわしい男、ですか」
ロイドは戸惑いを見せた。
「そうだ」
エーベルは腕を組み、少し目を細めて彼を睨む。
「お前は護衛としては優秀だ。だが、それだけで妹を任せられると思うなよ。お前が本当にアストリアのそばにずっといたいなら……妹を幸せにできる男だと、俺に証明してみろ」
ロイドはその言葉に少し驚きつつも、口元に小さな笑みを浮かべた。
「つまり、何か実績を見せろ、ということでしょうか?」
「そうだ」
エーベルは、軽く顎をしゃくりながら言った。
「お前に妹をやれるかどうかは、お前次第だ。身分差は気にしなくていい、とは言え、万年ヒラの近衛騎士じゃさすがに困る。俺を納得させられるくらいの男になってみろ」
その言葉に、ロイドはしばらく黙り込んだが、やがて真面目くさった口調で答えた。
「承知しました。王太子殿下が納得されるまで、全力を尽くして参ります」
エーベルは苦笑する。
「素直なやつだな」
アストリアが振り向きながら、首を傾げて尋ねた。
「お兄様、ロイドと何を?」
「ちょっとした激励さ」
エーベルはそっけなく言ったが、その表情にはわずかな笑みが浮かんでいた。
「お兄様らしいですね」
アストリアはくすっと笑う。
「とにかく、ロイド。俺が言いたいのは、もっと自分の実力を周りにアピールしろってことだ。それだけだ」
「そういうのは、あまり得意ではありませんな」
「得意じゃなくても、やるんだよ。実力がないわけじゃないだろう」
エーベルは照れくさそうに、そっぽを向いた。
「まあ、期待してるからな、ロイド」
「ありがとうございます」
ロイドは少し微笑み、深々と頭を下げた。
お茶会が終わると、王族たちは、庭園を抜けて正宮殿へと歩き出した。アストリアが微笑みながら、ロイドに声をかける。
「お兄様の激励で、きっとますます頑張れそうね」
「ええ、そのつもりです」
ロイドは立ち止まって、少し照れながら答えた。
エーベルが横でふっと笑う。
「まあ、お前にはまだまだ難題が山積みだがな」
アストリアがその言葉に、笑いをこらえながら言った。
「お兄様って、本当に素直じゃないですよね」
「何だと?」
エーベルは眉を上げながらも、どこか嬉しそうな様子を見せた。ロイドが、少し遠慮がちに口を開く。
「正直なところ、素直でないのが殿下らしいといいますか……」
「お前までそんなことを言うのか」
エーベルは少しムッとした表情を浮かべたが、すぐに笑顔になる。
「まあいい。お前が自分の実力を証明すれば、その時は少しは認めてやろう」
三人は互いに笑い合いながら、正宮殿のバルコニーに向かって、再び歩き出した。
柔らかな陽光が、王宮の正門前広場を照らしていた。広場を見下ろす王宮正宮殿のバルコニーに、国王夫妻をはじめとする王族一同が並んだ。アストリア王女はバルコニーの欄干から身を半ば乗り出しながら、広場へ集まった民衆に向かい、明るい声で話し始める。
「私たち王室は、これからも国民の皆様と共にあります。この国をより良い国にするため、どうか力をお貸し頂きたいのです」
彼女の言葉に応えるように、人々の間から拍手が起こり、温かな笑顔が広がった。彼女は目を細め、感謝の意を込めて深く一礼した。
「それでは皆様、この曲をお聞き下さい」
アストリアはそう言うと、バイオリンを取った。そして、ピアノの前に座ったエーベル王太子と共に、合奏を始めた。
二人が奏でる旋律は、エーベルの立太子選定を祝ってアストリアが作曲した、あのバイオリンとピアノのための協奏曲の楽譜である。今日は国民への奉仕活動の一環として、王子と王女がチャリティ演奏を行う企画だった。
今やこの曲は、エーベルひとりを祝うためだけの曲ではなく、アストリアの苦難と勝利を象徴する曲でもあった。民衆を励まし、生きる勇気を与える歌として、広く支持を受けていた。
「いいぞ! すばらしい演奏だった!」
演奏が終わると、酒場の常連客だったトーマスが、手を真っ赤にしながら拍手して大声を上げた。広場に集まった民衆の中に、酒場の店主や、アコーディオン弾きのジュアンらがいた。
娼館を出て王都で新しい仕事を得た、ナタリーやリサの姿もあった。かつての「アスタ」を知る人たちがたくさん詰めかけ、アストリア王女の姿を見上げていた。
騎士ロイド・クラインも、バルコニーの片隅に控えていた。彼は護衛の役目に徹して、片膝をつきながら、静かにアストリアを見守る。
民と王室が協力しながら歩む、新たな時代が今まさに幕を開けようとしていた。バルコニーの中央で民衆の歓呼に応えるアストリア王女の美しい姿は、愛する者同士が手を取り合って進む明るい未来の象徴として、人々の心に長く刻み込まれるのであった。
「王太子殿下」
ロイドはエーベルを見ると、向き直って頭を下げた。
「ロイド」
エーベルは彼を上から下まで見回しながら、険しい表情になった。
「お前は、妹をそばで守るという責任を、本当に理解しているのか?」
ロイドは真剣な眼差しで答えた。
「もちろんです。王女殿下のためなら、命をかける覚悟はあります」
エーベルは少し苦笑いを浮かべた。
「命など、かけなくていいんだ。そんなことより、アストリアにふさわしい男になれ」
「王女殿下にふさわしい男、ですか」
ロイドは戸惑いを見せた。
「そうだ」
エーベルは腕を組み、少し目を細めて彼を睨む。
「お前は護衛としては優秀だ。だが、それだけで妹を任せられると思うなよ。お前が本当にアストリアのそばにずっといたいなら……妹を幸せにできる男だと、俺に証明してみろ」
ロイドはその言葉に少し驚きつつも、口元に小さな笑みを浮かべた。
「つまり、何か実績を見せろ、ということでしょうか?」
「そうだ」
エーベルは、軽く顎をしゃくりながら言った。
「お前に妹をやれるかどうかは、お前次第だ。身分差は気にしなくていい、とは言え、万年ヒラの近衛騎士じゃさすがに困る。俺を納得させられるくらいの男になってみろ」
その言葉に、ロイドはしばらく黙り込んだが、やがて真面目くさった口調で答えた。
「承知しました。王太子殿下が納得されるまで、全力を尽くして参ります」
エーベルは苦笑する。
「素直なやつだな」
アストリアが振り向きながら、首を傾げて尋ねた。
「お兄様、ロイドと何を?」
「ちょっとした激励さ」
エーベルはそっけなく言ったが、その表情にはわずかな笑みが浮かんでいた。
「お兄様らしいですね」
アストリアはくすっと笑う。
「とにかく、ロイド。俺が言いたいのは、もっと自分の実力を周りにアピールしろってことだ。それだけだ」
「そういうのは、あまり得意ではありませんな」
「得意じゃなくても、やるんだよ。実力がないわけじゃないだろう」
エーベルは照れくさそうに、そっぽを向いた。
「まあ、期待してるからな、ロイド」
「ありがとうございます」
ロイドは少し微笑み、深々と頭を下げた。
お茶会が終わると、王族たちは、庭園を抜けて正宮殿へと歩き出した。アストリアが微笑みながら、ロイドに声をかける。
「お兄様の激励で、きっとますます頑張れそうね」
「ええ、そのつもりです」
ロイドは立ち止まって、少し照れながら答えた。
エーベルが横でふっと笑う。
「まあ、お前にはまだまだ難題が山積みだがな」
アストリアがその言葉に、笑いをこらえながら言った。
「お兄様って、本当に素直じゃないですよね」
「何だと?」
エーベルは眉を上げながらも、どこか嬉しそうな様子を見せた。ロイドが、少し遠慮がちに口を開く。
「正直なところ、素直でないのが殿下らしいといいますか……」
「お前までそんなことを言うのか」
エーベルは少しムッとした表情を浮かべたが、すぐに笑顔になる。
「まあいい。お前が自分の実力を証明すれば、その時は少しは認めてやろう」
三人は互いに笑い合いながら、正宮殿のバルコニーに向かって、再び歩き出した。
柔らかな陽光が、王宮の正門前広場を照らしていた。広場を見下ろす王宮正宮殿のバルコニーに、国王夫妻をはじめとする王族一同が並んだ。アストリア王女はバルコニーの欄干から身を半ば乗り出しながら、広場へ集まった民衆に向かい、明るい声で話し始める。
「私たち王室は、これからも国民の皆様と共にあります。この国をより良い国にするため、どうか力をお貸し頂きたいのです」
彼女の言葉に応えるように、人々の間から拍手が起こり、温かな笑顔が広がった。彼女は目を細め、感謝の意を込めて深く一礼した。
「それでは皆様、この曲をお聞き下さい」
アストリアはそう言うと、バイオリンを取った。そして、ピアノの前に座ったエーベル王太子と共に、合奏を始めた。
二人が奏でる旋律は、エーベルの立太子選定を祝ってアストリアが作曲した、あのバイオリンとピアノのための協奏曲の楽譜である。今日は国民への奉仕活動の一環として、王子と王女がチャリティ演奏を行う企画だった。
今やこの曲は、エーベルひとりを祝うためだけの曲ではなく、アストリアの苦難と勝利を象徴する曲でもあった。民衆を励まし、生きる勇気を与える歌として、広く支持を受けていた。
「いいぞ! すばらしい演奏だった!」
演奏が終わると、酒場の常連客だったトーマスが、手を真っ赤にしながら拍手して大声を上げた。広場に集まった民衆の中に、酒場の店主や、アコーディオン弾きのジュアンらがいた。
娼館を出て王都で新しい仕事を得た、ナタリーやリサの姿もあった。かつての「アスタ」を知る人たちがたくさん詰めかけ、アストリア王女の姿を見上げていた。
騎士ロイド・クラインも、バルコニーの片隅に控えていた。彼は護衛の役目に徹して、片膝をつきながら、静かにアストリアを見守る。
民と王室が協力しながら歩む、新たな時代が今まさに幕を開けようとしていた。バルコニーの中央で民衆の歓呼に応えるアストリア王女の美しい姿は、愛する者同士が手を取り合って進む明るい未来の象徴として、人々の心に長く刻み込まれるのであった。
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