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第二十九話 アストリアとロイド
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クライン家の屋敷では、庭園の木々が夜風で揺れ、ささやくように葉を揺らしていた。月明かりがアストリアのドレスの刺繍を柔らかく照らす。
騎士ロイド・クラインはその前に立ち、硬い表情で話し始めた。
「アスタ……いや、アストリア王女殿下」
ロイドは一歩下がり、深々と頭を下げた。
「殿下が再び王女の地位を取り戻し、この国を率いられる日が来るとは、実に感慨深いことです」
「ロイドさん……そんなにかしこまらないで」
アストリアは微笑みながら彼を見つめた。
「夜遅くにお呼び立てして、ごめんなさい。でも、さっきの晩餐会でも、ロイドさんと、きちんとお話できなかったでしょう? せっかく久しぶりに会えたのに、寂しくて」
「いえ、今となっては、あのように距離を置くのが無難でしょう」
ロイドは真面目な声で続けた。
「殿下にはこれから、大切な公務があります。そして、私は殿下の好意に甘えるわけにはいきません」
その言葉に、アストリアの表情が曇る。
「どうして……?」
「私は、ただの一介の田舎騎士です。殿下とは住む世界が違います」
ロイドは目を伏せ、少し息をついてから言葉を続けた。
「あなたは王女として、新しい国を作るために歩み始めた。私はいずれ、忘れ去られるべき存在です。それで良いのです」
「良くありません」
アストリアは一歩前に進み、彼に向き直った。
「ロイドさんがいなければ、私は王宮に戻ることもできませんでした。あなたが私を支えてくれたから、今の私があるんです」
ロイドは彼女の言葉に動揺を見せた。
「それは、私がなすべきことをしただけです」
「いいえ!」
アストリアの声が大きくなる。
「義務とか任務とかだけでは、なかったはずです。私にとってあなたは、ただの騎士じゃありません。大切な人だと思ってます」
ロイドは目を大きく見開いて、彼女をじっと見つめた。
「ロイドさんを、王宮に連れて帰りたい。実はそう思って、今日はこの村に来ました。不純でしょうか? でも、私はこれからも、あなたと一緒にいたいんです」
アストリアは真剣な眼差しで続ける。
「確かに、私とあなたの間には身分の差があります。でも、それが何ですか? 私は王女である前に、一人の人間です。一人の女性として、私はあなたのそばにいたい」
ロイドは戸惑い、視線をそらした。
「アストリア殿下、それは……私にはもったいない言葉です。私は、そんな立場では――」
「立場なんて関係ありません」
アストリアは彼の言葉を遮った。
「大切なのは、私たちがこれからどう生きるかでしょう」
彼女の真摯な言葉に、ロイドはしばらく沈黙していた。そして、ようやく口を開いた。
「それでも、私には覚悟が足りないようです。この先、何が待っているかも分からない。あなたを幸せにできるかどうか……」
「一緒に考えれば、いいじゃないですか」
アストリアは穏やかに微笑んだ。
「一人で全部抱え込む必要なんて、ありません。私は、ロイドさんと二人で歩いていきたいんです」
ロイドは彼女の言葉を聞き、目を閉じた。星空の下で、二人の間をしばらく静寂が包んだ。
「アストリア殿下……」
彼はゆっくりと目を開け、身の上を語る。
「こんな時に妙な話題ですが、少しだけ、私の亡き母について、お話しすることをお許し下さい。母は、身分の低い女性でした。先代クライン卿の愛人となり、周囲の非難を受けながら私を産みました。娼館に沈んでいた殿下を見た時、助けたいと思ったのは、母を思い出したからです」
ロイドは、アストリアの目を見つめながら続けた。
「そして、私がいま、殿下のお心を前にしてためらうのも、母の不遇な晩年を思い出すからです。身分違いの恋は、父と母を無残に引き裂いた。私たちが父と母のようになることを、私は恐れています……だが、殿下がそこまでおっしゃるなら、私もここで覚悟を決めましょう」
アストリアの顔がパッと明るくなった。
「本当ですか?」
「ええ」
ロイドは、頼もしい顔でうなづく。
「ただし、簡単な道ではありません。王女と一介の騎士が結ばれるには、多くの反対と苦難があるでしょう」
「その時は、私が支えますよ」
アストリアの力強い言葉に、ロイドは驚きの表情を見せた。
「お互いに支え合いましょう。きっと乗り越えられます」
ロイドは少し微笑んで言った。
「あなたは本当に強い方だ。あはたがそう言うなら、私も信じましょう」
アストリアは、彼の両手を取った。
「ありがとう、ロイドさん」
そしてアストリアはロイドの胸に顔を寄せ、強くしがみついた。
「これからも、ずっと私と一緒にいると誓って」
「ええ、誓いましょう、アストリア殿下」
ロイドは、アストリアをしっかりと抱き寄せる。
「アストリアって呼んで」
「ずっと一緒にいよう、アストリア。愛してる……」
静かな夜風の中、二人は熱いキスを交わしてお互いの想いを確認し、決意を新たにした。
この先、どんな困難が待ち受けようとも、この夜の約束がお互いを結び、導くと、二人は確信するのであった。
騎士ロイド・クラインはその前に立ち、硬い表情で話し始めた。
「アスタ……いや、アストリア王女殿下」
ロイドは一歩下がり、深々と頭を下げた。
「殿下が再び王女の地位を取り戻し、この国を率いられる日が来るとは、実に感慨深いことです」
「ロイドさん……そんなにかしこまらないで」
アストリアは微笑みながら彼を見つめた。
「夜遅くにお呼び立てして、ごめんなさい。でも、さっきの晩餐会でも、ロイドさんと、きちんとお話できなかったでしょう? せっかく久しぶりに会えたのに、寂しくて」
「いえ、今となっては、あのように距離を置くのが無難でしょう」
ロイドは真面目な声で続けた。
「殿下にはこれから、大切な公務があります。そして、私は殿下の好意に甘えるわけにはいきません」
その言葉に、アストリアの表情が曇る。
「どうして……?」
「私は、ただの一介の田舎騎士です。殿下とは住む世界が違います」
ロイドは目を伏せ、少し息をついてから言葉を続けた。
「あなたは王女として、新しい国を作るために歩み始めた。私はいずれ、忘れ去られるべき存在です。それで良いのです」
「良くありません」
アストリアは一歩前に進み、彼に向き直った。
「ロイドさんがいなければ、私は王宮に戻ることもできませんでした。あなたが私を支えてくれたから、今の私があるんです」
ロイドは彼女の言葉に動揺を見せた。
「それは、私がなすべきことをしただけです」
「いいえ!」
アストリアの声が大きくなる。
「義務とか任務とかだけでは、なかったはずです。私にとってあなたは、ただの騎士じゃありません。大切な人だと思ってます」
ロイドは目を大きく見開いて、彼女をじっと見つめた。
「ロイドさんを、王宮に連れて帰りたい。実はそう思って、今日はこの村に来ました。不純でしょうか? でも、私はこれからも、あなたと一緒にいたいんです」
アストリアは真剣な眼差しで続ける。
「確かに、私とあなたの間には身分の差があります。でも、それが何ですか? 私は王女である前に、一人の人間です。一人の女性として、私はあなたのそばにいたい」
ロイドは戸惑い、視線をそらした。
「アストリア殿下、それは……私にはもったいない言葉です。私は、そんな立場では――」
「立場なんて関係ありません」
アストリアは彼の言葉を遮った。
「大切なのは、私たちがこれからどう生きるかでしょう」
彼女の真摯な言葉に、ロイドはしばらく沈黙していた。そして、ようやく口を開いた。
「それでも、私には覚悟が足りないようです。この先、何が待っているかも分からない。あなたを幸せにできるかどうか……」
「一緒に考えれば、いいじゃないですか」
アストリアは穏やかに微笑んだ。
「一人で全部抱え込む必要なんて、ありません。私は、ロイドさんと二人で歩いていきたいんです」
ロイドは彼女の言葉を聞き、目を閉じた。星空の下で、二人の間をしばらく静寂が包んだ。
「アストリア殿下……」
彼はゆっくりと目を開け、身の上を語る。
「こんな時に妙な話題ですが、少しだけ、私の亡き母について、お話しすることをお許し下さい。母は、身分の低い女性でした。先代クライン卿の愛人となり、周囲の非難を受けながら私を産みました。娼館に沈んでいた殿下を見た時、助けたいと思ったのは、母を思い出したからです」
ロイドは、アストリアの目を見つめながら続けた。
「そして、私がいま、殿下のお心を前にしてためらうのも、母の不遇な晩年を思い出すからです。身分違いの恋は、父と母を無残に引き裂いた。私たちが父と母のようになることを、私は恐れています……だが、殿下がそこまでおっしゃるなら、私もここで覚悟を決めましょう」
アストリアの顔がパッと明るくなった。
「本当ですか?」
「ええ」
ロイドは、頼もしい顔でうなづく。
「ただし、簡単な道ではありません。王女と一介の騎士が結ばれるには、多くの反対と苦難があるでしょう」
「その時は、私が支えますよ」
アストリアの力強い言葉に、ロイドは驚きの表情を見せた。
「お互いに支え合いましょう。きっと乗り越えられます」
ロイドは少し微笑んで言った。
「あなたは本当に強い方だ。あはたがそう言うなら、私も信じましょう」
アストリアは、彼の両手を取った。
「ありがとう、ロイドさん」
そしてアストリアはロイドの胸に顔を寄せ、強くしがみついた。
「これからも、ずっと私と一緒にいると誓って」
「ええ、誓いましょう、アストリア殿下」
ロイドは、アストリアをしっかりと抱き寄せる。
「アストリアって呼んで」
「ずっと一緒にいよう、アストリア。愛してる……」
静かな夜風の中、二人は熱いキスを交わしてお互いの想いを確認し、決意を新たにした。
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