白雪姫の姉は辺境で静かに暮らしたい〜毒親魔女とゾンビ妹が騒がしいので、怠け者公爵との激甘スイーツ生活を死守します!〜

けんゆう

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15 白雪姫の姉ですが妹が山賊になりました

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 魔の森の夜明け。

 薄明かりの中、スノーホワイトはハンターの背後に立ち、両手で彼の肩につかまりながら、ため息を吐いた。

「本当に、目を閉じたまま歩くの?」

「私の言うとおりにすれば大丈夫だ」

 ハンターが淡々と答える。

「感知能力で、私が魔力の流れを読む。他の者も同じようにして、後ろへ一列に並ぶんだ」

「では拙者が、姫様のお肩へ手を。失礼するでござるよ」

「我ら、運命の鎖に導かれし連環の魂。足並みを乱せば、たちまち均衡は崩れ去る……秘技、幻影突破一列縦隊ファントムブレイカーッ!」

「そんな魔法はないんだけど……」

 七人のサムライたちが、わちゃわちゃとムカデ競走のように一団となる。

「順番ッ! 隊列を整えるでござるッ!」

 一文字ナイトの怒号で、ようやく整列を終え、革命軍出陣!

「みんな、目を閉じて……行くわよ!」

「「「おー!」」」

 ハンターを先頭に、スノーホワイト、七人のサムライたちが一列に固まりながら、行進を開始した。

「こ、これは、地味に怖い……」

「うお、ぬかるんでる! 靴下が濡れて気持ち悪い! 」

「ちょ、ホーチキの足踏んだの誰⁉  今すぐ名乗り出ろ! 叩っ斬るぜ!」

「ミョウガよ、列を乱すな……さっきから誰の肩に手を置いてるんだ? そっちはムサシの分身だぞ!」

「ええっ⁉」

 大騒ぎしながら、魔の森を進む革命軍。だが、誰ひとりとして、幻覚に惑わされて列から脱落する者は、出なかった。 

 数時間後、革命軍はついに森を抜け、街道に出た。その時、ハンターがピタリと足を止めた。

「前方、約千五百メートル。軍の接近を感知した。王妃が軽い強化魔法バフをかけているから、私にも分かる。恐らく、物資と財宝を運ぶ輸送部隊だな」

「吾輩が思うに、これは千載一遇のチャンスです。姫様、ここはぜひ闇討ち、不意討ちを……」

「よし、採用! 奇襲をかけるわよ!」

「判断が早い!」

「突撃ぃぃぃ! あ、カタナ持ってかなきゃ」

 美少年サムライたちが、一斉に跳ねた!

 ナイトの号令で隊列を整え、ムサシは分身して混乱を誘い、ゲンシュウは謎ポエムを詠唱しながら斬りまくる。

「貴様ら、何者だ⁉」

「ぐわっ⁉ こ、子供⁉  軍が子供にやられてる――」

「甘く見たらアカンで!  ワイら、維新の志士や!」

 スノーホワイトは華麗に攻撃魔法を放ち、輸送車の車輪を凍らせて停止させた。

 数分後、王妃軍の兵士たちが遁走して、戦闘終了。

 奪った物資と財宝を運んで、最寄りの村へ向かう。スノーホワイトは深く息を吸い込むと、凛とした大声で、村人たちに告げた。

「革命軍軍報ーっ! ごきげんよう、皆様の『白雪姫』スノーホワイトです。サニー王妃が不正に集めた物資と財宝を、取り戻して参りました。ゴミはゴミ箱へ、民衆のものは、民衆へ!」

「うおおおお、生きておられたのか、スノーホワイト王女殿下!」

「お姫様が、義賊になってる……」

「あのショタ軍団のサイン欲しい!」

 革命軍は農村地帯で、人気を爆上げしていった。その知らせは、たちまち公爵領にも届いた。

「スノーホワイトが、魔の森から出てきたようだな。山賊どもを率いて街道に現れ、軍の物資を奪って、民にバラまいてるらしい。さっき、王宮から討伐命令書が届いた」

 ジョン・モンストラン公爵が朝のコーヒーをすすりながら、苦虫を噛み潰したような顔でアップルに告げた。

「本当に⁉ さすが、スノーホワイト。無事で良かった。完全に、主人公ムーブね」

 パンにリンゴジャムを塗りながら、アップルはジョンに問いかける。

「それで、ジョン。どっちの側につくんですか?」

「いや、それはまだ……」

「スノーホワイトを、助けてあげて」

 アップルの優しい声が、どこか寂しげに響く。

「それが、あなたの運命なのよ。もうすぐ、この国は二つに割れる。そしてあなたには、戦いの行方を左右する力がある」

 アップルはジョンの目を見ながら、真剣に語りかけた。

「私は、あなたに白馬の王子様であってほしいの」

 ジョンは黙ってアップルの話を聞いていたが、やがて、小さな声でつぶやいた。

「……可愛いお前の願いなら、仕方ないなぁ」

「えっ……」

 アップルは固まった。

「い、今なんて……?」

「出陣の準備だ。リンゴジャム十瓶、用意はいいか?」

「えっ、本当にそれがあれば軍を動かしてくれるの?」

「戦争は、兵站が命だからな。俺、お前のスイーツが供給途絶えたら、すぐ死ぬタイプだから」

「ジャムが兵站って……三十瓶、作り置きしてあります」

「よし、それじゃお前も、早く旅支度しろ」

「えっ、本気で私も連れて行く気なんですか⁉」

「そう言ったじゃないか。お前のいない遠征なんて、ジャムのないジャムパンみたいなもんだ」

「それ、ただのパンでしょ」

 ジョンとアップルは、いつものように掛け合いをしながら、戦の準備を進めていく。

 王国を二分する決戦の幕は、すでに上がっていた。
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