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25 白雪姫の姉ですが母が軍師を狙ってます
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王妃軍が、王都に帰還した。
サニー王妃は、王都の防備を固めるよう手短に将軍たちへ指示すると、王宮の「鏡の間」へ直行した。そこには、大理石の壁に収まったあの「魔法の鏡」が、鎮座していた。
「やいコラ鏡、どないなっとんねん……あらいやだ、敵のサムライっ子の言葉がうつっちゃったわ。ねえちょっと鏡、聞いてる? あんた、言ったわよね? 戦力差で押すだけで、必ず勝てるって」
サニーは、すねたような声色で鏡に話しかけた。
「なのに、何なのよあれは。大金をはたいて動員した兵隊は半分になるし、火あぶり寸前になるし、おまけに、せっかく雨上がり美人ママになったのに、スノーホワイトちゃんには会えなかった……最ッ低の気分なんだけど?」
鏡は、しばしの沈黙の後、答えた。
「『公爵軍の動きにさえ気をつければ』って、言ったでしょ。公爵軍を深追いなんかするから。その間に、勝機を逃したんですよ」
「何よそれ。仮に、深追いせずに砦を守って負けてても、後付けで同じこと言えるじゃないのよ。『公爵軍の動きにさえ気をつければ』って、どう気をつけるかを言わなきゃ意味ないでしょ」
「それを聞かなかった、あなたが悪い。それにしても、あの腐ったリンゴみたいな玉、まだ持ってたんですか? 私の地位が脅かされるから、さっさと捨ててほしい」
「バカ言わないで。あの宝玉のおかげで、雨が降って火が消えて助かったのよ」
「ということは、めぐりめぐって、やっばりアップルのおかげなんじゃないですか?」
「それ以上言うと……燃やすわよ? 次の手を教えなさい」
サニーは指先から小さな炎を出すと、鏡の木枠に近づけた。鏡の表面が一瞬、ビリリと震える。
「軍師のハンターを何とかしないと。今回も、見事な包囲作戦でした」
「ハンター? ほめ過ぎよ。私は、あいつを昔から知ってるの。魔の森の外では、大したことないわ。弱点があるのよね?」
「『第三の眼』ですね。あれは、一つしかない。そして、あまりにも深くを見通してしまう……」
「そうよね。まだ目が見えてた時から、あいつの視線は、いつも一点だけしか向いてなかったのよね?」
サニー王妃は遠い目をしながら、過去を回想した。
◆◇◆◇
スノーホワイトの母親で、亡き前王妃のブルームーンが、まだ伯爵令嬢だった頃。
「ブルームーン様、なんてお美しいんでしょう。道行く人、誰もが振り返る。まさに絶世の美女」
「学校でも、みんなから女神のように慕われてるよね」
王立魔法学園に通う彼女には、護衛として、同年代の若き騎士が付き従っていた。それが、騎士ハンター・ブラッドストンだった。ハンターは彼女に仕えながら、ひそかに身分違いの恋心を募らせていた。
しかしブルームーンは、彼には全く振り向くことはなかった。彼女はやがて学園主催の舞踏会で、当時の王太子、すなわち現在の国王から一目惚れされ、結婚して妃となる。
傷心のハンターは護衛騎士を辞め、遍歴の旅に出た。各地を冒険しながら渡り歩き、さまざまな剣術の奥義と魔法の呪文を習得した彼は、ついに「第三の眼」を開眼した。
第三の眼。それは、究極の魔力探知スキルだった。
「この力を活用して、冒険者として功成り名を遂げ、人生を逆転してやる。世の中を見返してやる」
その一心から彼は、危険な「魔の森」へと足を踏み入れた。
霧深く、目に映るもの全てが幻覚となって、立ち入る者の精神を歪ませる、魔の森。しかしハンターは目を閉じ、魔力探知を駆使しながら魔の森を踏破して、南方へ抜けた。そして、竜の血を引く半竜半人の伝説の民「竜族」の里へとたどり着いた。
竜族の長・竜王は、人間から貢がせた財宝を隠し持ち、生贄の女性を囲っていた。
「なんということだ……許せん」
ハンターは義憤と野心に燃えて剣を抜き、囚われの生贄を解放すると、竜王に戦いを挑んだ。竜王は人間形態から巨大な竜へと姿を変え、ハンターを迎え撃った。
竜王との激戦の真っただ中、突如、ハンターの第三の眼が、背後に立つ別の何者かの、強力な魔力を察知した。
「なに……?」
注意がそれた一瞬の隙を突いて、竜王の尾が彼をしたたかに打ち据えた。
記憶は、そこで途切れた。気がついた時、ハンターは両目の視力を失い、魔の森の入口へと放り出されていた。
それ以降、彼は竜族の里には二度と近づくことなく、魔の森で罠を仕掛け、獲物を捕って細々と暮らすようになったという……。
◆◇◆◇
鏡は語る。
「彼の第三の眼は、魔力を鋭く探知します。ですが、一度に注意を集中できるのは、一点だけです」
サニーは、フンと鼻を鳴らす。
「つまり、彼は見えすぎちゃうのよ。愛も、痛みも、何もかもが」
サニーは笑った。しかし、その表情はどこか、哀しげにも見えた。
「そう。いつだって、彼が見てたのはブルームーン。私は、その横にある影にすらなれなかった……」
鏡は、黙して何も語らない。サニーは言葉を続ける。
「そんなハンターを葬り去る策は、ちゃんと打ってあるわ。反逆者どもは、今どこなの?」
鏡は、使い魔カラスの映像を映し出した。
字幕「王女殿下、まもなく王都へご帰還」
鏡の中では革命軍が、スノーホワイトとハンターを乗せた戦闘用馬車を先頭に、王都の手前を流れる川岸へ、今まさに到達しようとしていた。
サニー王妃は、王都の防備を固めるよう手短に将軍たちへ指示すると、王宮の「鏡の間」へ直行した。そこには、大理石の壁に収まったあの「魔法の鏡」が、鎮座していた。
「やいコラ鏡、どないなっとんねん……あらいやだ、敵のサムライっ子の言葉がうつっちゃったわ。ねえちょっと鏡、聞いてる? あんた、言ったわよね? 戦力差で押すだけで、必ず勝てるって」
サニーは、すねたような声色で鏡に話しかけた。
「なのに、何なのよあれは。大金をはたいて動員した兵隊は半分になるし、火あぶり寸前になるし、おまけに、せっかく雨上がり美人ママになったのに、スノーホワイトちゃんには会えなかった……最ッ低の気分なんだけど?」
鏡は、しばしの沈黙の後、答えた。
「『公爵軍の動きにさえ気をつければ』って、言ったでしょ。公爵軍を深追いなんかするから。その間に、勝機を逃したんですよ」
「何よそれ。仮に、深追いせずに砦を守って負けてても、後付けで同じこと言えるじゃないのよ。『公爵軍の動きにさえ気をつければ』って、どう気をつけるかを言わなきゃ意味ないでしょ」
「それを聞かなかった、あなたが悪い。それにしても、あの腐ったリンゴみたいな玉、まだ持ってたんですか? 私の地位が脅かされるから、さっさと捨ててほしい」
「バカ言わないで。あの宝玉のおかげで、雨が降って火が消えて助かったのよ」
「ということは、めぐりめぐって、やっばりアップルのおかげなんじゃないですか?」
「それ以上言うと……燃やすわよ? 次の手を教えなさい」
サニーは指先から小さな炎を出すと、鏡の木枠に近づけた。鏡の表面が一瞬、ビリリと震える。
「軍師のハンターを何とかしないと。今回も、見事な包囲作戦でした」
「ハンター? ほめ過ぎよ。私は、あいつを昔から知ってるの。魔の森の外では、大したことないわ。弱点があるのよね?」
「『第三の眼』ですね。あれは、一つしかない。そして、あまりにも深くを見通してしまう……」
「そうよね。まだ目が見えてた時から、あいつの視線は、いつも一点だけしか向いてなかったのよね?」
サニー王妃は遠い目をしながら、過去を回想した。
◆◇◆◇
スノーホワイトの母親で、亡き前王妃のブルームーンが、まだ伯爵令嬢だった頃。
「ブルームーン様、なんてお美しいんでしょう。道行く人、誰もが振り返る。まさに絶世の美女」
「学校でも、みんなから女神のように慕われてるよね」
王立魔法学園に通う彼女には、護衛として、同年代の若き騎士が付き従っていた。それが、騎士ハンター・ブラッドストンだった。ハンターは彼女に仕えながら、ひそかに身分違いの恋心を募らせていた。
しかしブルームーンは、彼には全く振り向くことはなかった。彼女はやがて学園主催の舞踏会で、当時の王太子、すなわち現在の国王から一目惚れされ、結婚して妃となる。
傷心のハンターは護衛騎士を辞め、遍歴の旅に出た。各地を冒険しながら渡り歩き、さまざまな剣術の奥義と魔法の呪文を習得した彼は、ついに「第三の眼」を開眼した。
第三の眼。それは、究極の魔力探知スキルだった。
「この力を活用して、冒険者として功成り名を遂げ、人生を逆転してやる。世の中を見返してやる」
その一心から彼は、危険な「魔の森」へと足を踏み入れた。
霧深く、目に映るもの全てが幻覚となって、立ち入る者の精神を歪ませる、魔の森。しかしハンターは目を閉じ、魔力探知を駆使しながら魔の森を踏破して、南方へ抜けた。そして、竜の血を引く半竜半人の伝説の民「竜族」の里へとたどり着いた。
竜族の長・竜王は、人間から貢がせた財宝を隠し持ち、生贄の女性を囲っていた。
「なんということだ……許せん」
ハンターは義憤と野心に燃えて剣を抜き、囚われの生贄を解放すると、竜王に戦いを挑んだ。竜王は人間形態から巨大な竜へと姿を変え、ハンターを迎え撃った。
竜王との激戦の真っただ中、突如、ハンターの第三の眼が、背後に立つ別の何者かの、強力な魔力を察知した。
「なに……?」
注意がそれた一瞬の隙を突いて、竜王の尾が彼をしたたかに打ち据えた。
記憶は、そこで途切れた。気がついた時、ハンターは両目の視力を失い、魔の森の入口へと放り出されていた。
それ以降、彼は竜族の里には二度と近づくことなく、魔の森で罠を仕掛け、獲物を捕って細々と暮らすようになったという……。
◆◇◆◇
鏡は語る。
「彼の第三の眼は、魔力を鋭く探知します。ですが、一度に注意を集中できるのは、一点だけです」
サニーは、フンと鼻を鳴らす。
「つまり、彼は見えすぎちゃうのよ。愛も、痛みも、何もかもが」
サニーは笑った。しかし、その表情はどこか、哀しげにも見えた。
「そう。いつだって、彼が見てたのはブルームーン。私は、その横にある影にすらなれなかった……」
鏡は、黙して何も語らない。サニーは言葉を続ける。
「そんなハンターを葬り去る策は、ちゃんと打ってあるわ。反逆者どもは、今どこなの?」
鏡は、使い魔カラスの映像を映し出した。
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