白雪姫の姉は辺境で静かに暮らしたい〜毒親魔女とゾンビ妹が騒がしいので、怠け者公爵との激甘スイーツ生活を死守します!〜

けんゆう

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外伝3 白雪姫の継母ですが学園追放になりました

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「どうします? このままだと、パーティーで王太子と踊るのは、あの子ですよ」

 取り巻きの一人に問われて、ブルームーンは微笑んだまま、答えた。

「別にいいじゃない。サニーがお妃になるかも」

「そんな……伯爵家のお立場が……」

「私は、たとえ王太子妃に選ばれなくても、自分の幸せは自分で切り開けるし。試験はお互い、ベストを尽くせばいいのよ。あなたたち、サニーの勉強の邪魔したりしたら許さないからね。試験が終わるまで、サニーを呼び出すのは禁止」

 その言葉には、どこか自分に言い聞かせるような響きがあった。

 一方、サニーは図書塔の奥で、分厚い魔導書に目を通していた。

「毒草の見分け方……これも大事。薬と毒は表裏一体。使い方しだいで効果は変わる」

 ページをめくりながら、ふと窓の外に目をやると、中庭でブルームーンが歩いていた。

(ブルームーン……最近、ずっと避けられてる気がする。仲直りしたいのに……)

 ブルームーンのそばには、彼女と談笑するハンターがいた。
 
(……あの距離感。私には、一生届かないんだろうな)

 サニーは視線を落とし、呟いた。

「でも、私だって踊りたいな……パーティーで、一回だけ……」

 心の奥に秘めた小さな願い。それが叶うことはないと、彼女自身が一番知っていた。

 卒業試験まで、あと三日。ブルームーンの取り巻きたちが、密談していた。

「どうする? 本気でやらなきゃ、サニーが王太子と踊っちゃうわよ?」

「ええ……でも、怪しまれない方法があるかしら」

「あの子、魔法薬草学の研究で、カバンに毒を集めて持ち歩いてるでしょ? それを使うの」

「まさか、毒を……?」

「少しだけよ。気絶して眠るくらいの」

「……やる?」

「やりましょ。サニーのカバンから、毒は拝借済みよ」

 その手には、茶色い小瓶があった。

 その夜、サニーはキッチンで小麦粉を練り、オーブンに向かっていた。

「明日、このクッキーを持って行こう。みんな、喜んでくれるかな。これで仲直りできるかな……?」

 彼女はまだ知らなかった。この純粋な気持ちが、破滅の引き金になることを──。

「クッキー? あなたが?」

 試験前日、サニーは貴族棟の入口で、ブルームーンの取り巻きたちに手作りのクッキーを差し出していた。

「勉強の合間に、少しでも甘いものをと思って……みんなのために作ったの」

 取り巻きたちは一瞬たじろいだが、すぐに笑顔を作る。

「ありがとう。でもブルームーン様が、試験が終わるまであなたを貴族棟に呼び出すのは禁止だって」

「あなたの勉強を邪魔したくないんだって。お互いにベストを尽くしましょうっておっしゃってたわ」

「クッキーはブルームーン様にちゃんと渡すから、今日は帰って」

「分かった。じゃあ、ブルームーンによろしくね。みんなも試験頑張って」

 サニーは、取り巻きたちにクッキーを渡して去った。

「手間が省けたわね」

 取り巻きたちが、妖しい笑みを浮かべながら、お互いに顔を見合わせた。毒液の入った小瓶の中身が、クッキーに振りかけられた。

「サニーが、手作りクッキーを⁉ 素敵ね。早速、みんなで頂きましょ」

 取り巻きたちから届けられたクッキーを見て、ブルームーンは喜びの声を上げた。

 だが、誰も手を伸ばそうとはしなかった。気まずい沈黙の中、ブルームーンがニコリと微笑んだ。

「せっかくだから、まず私が頂こうかしら」

 ブルームーンはそう言って、一口かじった。

 その瞬間――。

「うっ……あ……!」

 彼女の顔が青ざめた。両手で腹を押さえながら、床に崩れ落ちる。

「ブルームーン様!?」

「誰かっ! 先生を呼んで!」

 学園の保健棟。ベッドでうなされるブルームーンを囲み、ブルームーンの取り巻きたちと教員が集まっていた。

「毒が検出された。非常に微量だが、意図的な混入と見て間違いない」

 教員の一人が言うと、取り巻きたちが声を上げた。

「サニー・ブラックモアのクッキーを食べた途端に、倒れたんです。サニーを調べて下さい!」

 サニーは職員室に呼び出され、教師たちに厳しく尋問された。

「ブルームーン・アイスベルグ伯爵令嬢が、君のクッキーを食べて倒れた」
 
「うそ……なんで……?」

「君は、カバンに毒草を入れて持ち歩いていたそうだね。同じ毒が、令嬢の体から検出された」
 
「違います! あれは……勉強のために、研究用に持っていただけで!」

 サニーは叫んだが、教師たちの反応は冷ややかだった。

「そんな言い訳、誰が信じるんだ?」

「そもそも、庶民が成績トップなんておかしいと思ってたんだ。卒業試験でトップから引きずり降ろされることを恐れて、2位の令嬢の身を狙ったんだろう!」

 教師たちが、糾弾の声を浴びせた。

「私じゃありません。私とブルームーンは、親友なんです。そんなこと、するわけがない……」

 ブルームーンの警護担当として、ハンターも意見を聞くためその場に呼ばれた。教師はサニーを指差しながら、ハンターに尋ねる。

「彼女を、知っているかね?」

「名前は知りませんが、ブルームーンお嬢様のご学友の一人かと」

「二人は、親友だったのかね?」

「以前は伯爵邸に来たこともありましたが、最近は疎遠でした」

「なるほど、良く分かった」

 校長がサニーに宣告する。

「親友だと言ったな。だが、最近はそうでもなかったと、ハンター君が証言した。もはや言い逃れはできんぞ。最終決定だ。君を退学とし、身柄は官憲に引き渡す」

「っ……!」

 心が、音を立てて崩れていくようだった。

 サニーは荷車に揺られ、王都の郊外にある監獄に連行された。外は静かな夕暮れで、空は茜色に染まっていた。

「何も……何もしてないのに」

 ポツリとつぶやいたサニーの手は、まだ震えていた。

「私、ただ……彼と踊りたかっただけなのに……」

 涙が、ポトリと落ちる。

「ハンターさん、どうして……私の名前、覚えてないんですか……」

 闇が深くなるほどに、彼女の心も沈んでいった。

 すべての希望は、裏切りとともに閉ざされた――。

 一方、ブルームーンは数時間後、ようやく目を覚ました。

「……私、寝てたの?」
 
 そばにいた取り巻きが答えた。

「サニーのクッキーに、毒が入ってたようです。微量だったので、お体には全く心配ありません」

「そんな……サニーはどうなったの?」

「学園を去りました。毒を盛った罪で……」

 ブルームーンはゆっくりとベッドから起き上がり、苦しげに顔を歪めた。

「あの子が、そんなこと……するわけないのに」

「でも、証拠がありますから」

「証拠があっても、真実とは限らないじゃない……」

 ブルームーンは、サニーの無実を信じた。だが、事件は既に司法の手へと移されていた。彼女の嘆きが、法廷に届くことはなかった。

 収監されたサニー・ブラックモアは、裁判を経て、悪質魔女として魔の森に投げ込まれるという追放刑を受けた。王都の外れに広がるその森は、濃い霧に包まれ、迷い込んだ者を二度と返さないことで恐れられていた。

「こんな……こんな形で終わるなんてっ……」

 足元はぬかるみ、夜の冷気が骨に染みる。誰もいない森の中、サニーは声を上げて泣いた。けれど、泣き声さえも霧に吸われ、何ひとつ響かない。

「ねえ、あなたたち、本当に存在してるの?」

 サニーは、森に問いかける。目に映るものすべてが恐ろしい魔物の姿となって、彼女に襲いかかってきた。

 木々がブルームーンの姿で彼女を罵倒し、取り巻きたちの姿でしつこく嘲笑する。幻覚・幻聴に苦しめられ、精神が少しずつ侵されていく。

 やがて、サニーは絶叫しながら倒れた。もう、立ち上がる力さえ、残っていなかった。

 そのときだった。

「見つけたぞ」

 低く響く声が、彼女を包んだ。

 目を開けた時、サニーは見知らぬ洞窟の中にいた。身体は温かい布に包まれ、薬草の匂いが、かすかに漂っていた。だが、手足は鎖でつながれていた。

「ここは……どこ?」

「竜族の里だ。私は竜族の族長、竜王。人間の女よ、お前は選ばれた」

 現れたのは、金の瞳を持つ青年だった。その黒髪の間からは、二本の角が生えている。

「お前には、私の子を産んでもらう。そうすれば、我らの血は残る。それがお前の役目だ」
 
「嫌よ。そんなことのために、私は生きてきたんじゃない!」

「今は嫌でも、時が経てば、心も変わるだろう。ここでは、希望も絶望も、すべてが溶けてゆく。私の愛を受け入れ、竜王の妃となるのだ」

「竜王の、妃ですって……?」
 
 恐怖と絶望で、サニーの表情が引きつった。竜王は不敵な笑みを浮かべながら、囚われのサニーを見下ろした。
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みんなの感想(2件)

ゆんゆん
2025.04.20 ゆんゆん

アップルちゃんのアップルパイの影響を受けて、私もアップルパイ作ってみましたよ!ウマー!!😋✨️💗🥧

2025.04.26 けんゆう

けんゆうアップルパイがすきっ

解除
猫枕
2025.04.17 猫枕

なにこれメッチャ面白い〜。

2025.04.18 けんゆう

ありがとうございます、光栄です!

解除

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