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2.敗北
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バスルームから出ると、東藤がさっきと同じ格好で煙草を吸っていた。違うのは灰皿に入れられた吸殻の数だけ。普段、東藤はほとんど煙草を吸わないはずなのに、この数十分で七、八本の吸殻が捨てられていた。
今吸っているものを灰皿で揉み消すと、部屋の入り口に立ち尽くしていた那智のもとへやってくる。
腕を引かれ、二つあるうちの壁側のベッドに座らせられた。ネクタイを解きながら東藤が独り言のように呟く。
「けっこう時間がかかったな」
「え…?」
那智はちらりと部屋に置かれている時計に目をやった。それほど長湯をしたつもりはなかったのだが。
しかしどうやら、東藤は風呂の時間のことを言っているわけではないようだ。
「もっと早く、堕ちると思ってたのに」
「っ!」
言いながらバスローブの紐を解かれる。那智の身体が小さく震えた。
軽く肩を押されてベッドに押し倒された。
東藤の身体がその上に覆いかぶさり、顔を覗き込んでくる。那智は大人しく目を閉じた。
唇が触れ合う。
一旦離れ、何度か触れるだけのキスを繰り返してから、深く唇を重ねられる。
大事にされているかのようなその扱いに、那智は戸惑いを覚えた。
灰皿にあった吸殻の数は、苛ついた心の度合いを示している。無意識なのかもしれないが、東藤は那智が風呂を使っていた間、落ち着いて待っていたわけではないだろう。だから、もっと乱暴に扱われると思っていたのに。
「ん…っ」
口内に侵入してきた舌が、上顎をくすぐるように舐め、奥に引っ込めていた舌を絡めとられる。
初めてのキスは、この間居酒屋でもらった煙草と同じ味がした。
東藤は、負ける方がメリットがあると言った。
勝つことに意味はない。今は負ける方がいいと。大金を払ってでも、那智とのこの行為にメリットがある。どうして東藤は、そんな風に思っているのだろう。
ぼうっとした頭でそんなことを考えていたけれど、那智の思考が働いていたのはそこまでだった。
「ぁ…」
はだけられた胸元に手のひらが置かれ、小さく声が漏れる。冷たい指先が肌を滑る感触に、思わず身体が震えた。
感触を確かめるように、手のひらで肌を辿られる。那智が身じろいだり息を詰める度に、東藤はその場所を執拗に撫で上げてきた。
次第に息が上がっていく。初めて対局をした時に、那智に気付かれないように牌の積み替えが出来たくらいだから、手先はかなり器用なのだろうと、どうでもいいことを考えてしまう。
「ん…あっ!」
指先が胸の突起に触れた。指の腹で何度も擦り上げられ、柔らかかったそこが硬くしこっていく。
那智は顔を背けて強く唇を噛み締めた。男の自分が乳首なんて触られても何も感じない。その考えは、ただの思い込みだったようだ。
「ぅん…ふ、ぁ…」
「声、出していいよ。その方が楽になる」
「ぁ、でも…」
「恥ずかしい?」
耳許で囁きかけられる問いに、肩を震わせて小さく頷く。すると、東藤は優しい声音とは裏腹に手首を強く掴んできた。驚いて顔を上げると意地の悪い微笑みが視界いっぱいに映る。
「じゃあ、気にならないようにしてやるよ」
「え…なっ、あ、やだっ」
掴まれた両手を頭上で一纏めにされ、バスローブの紐で縛り付けられてしまう。強く引っ張っても固く結ばれた結び目は解ける気配がなく、更に再び愛撫が再開され、那智はそれどころではなくなってしまった。
「あっ、や…やぁあ!」
胸の先に唇が吸い付き、舌で先端を転がされる。もう一方も指先で捏ね回されて、逃げるように身を捩った。けれど、両腕を拘束され身体を押さえ込まれている状態では、ほとんど身動きがとれなかった。顕にされた脇腹や脇の下も撫で回され、明らかな快感が下腹部に集結していく。
東藤の視線が下りていき、膝を掴まれ割り開かれそうになる。
「いやっ! 見、るな…っ」
けれど、必死の抵抗もこの状況では全く通用しない。
「那智、いい子にして」
「やぁっ! あ、っ…んっ」
そっと股間のものを撫で上げられる。初めて触れる他人の手の感触は、強い快楽を生み出していった。けれど、その手はすぐに離れていってしまい、同時に身体を襲ってきた強烈な飢餓感に涙を溢す。
「んぁ、東藤、さ…」
「もっと触ってほしい?」
「っ…!」
瞳に雫を溜めながらも、肯定することは躊躇われる。恥ずかしさに顔を背けると、さらに悪戯するように脚の付け根をくすぐられた。
「いやぁっ」
懇願するように潤んだ目を向けると、東藤はようやく那智の意図を汲んでくれる気になったようだ。
「じゃあ、大人しくしていられるな?」
膝を立てさせられ、内腿を指先が滑る感触に吐息が震えた。
ゆっくりと脚を開かれ、激しい羞恥に強く目を瞑る。
東藤の視線が中心に纏わり付いてきていた。それだけで、そこはかすかに震えて新たな蜜を溢れさせる。
「んっ、ふぁ、ぁああっ!」
愛撫を待っていたそこに、ふっと息を吹きかけられ、次いで手の中に包み込まれる。くちゅくちゅと音を立てて扱かれ、那智は悲鳴のような声を上げた。巧みな動きで弱い部分を的確に刺激され、あっという間に限界付近まで追い上げられる。
「あ、あっ、やっ、そこ…っ」
「ここ、な。感じるだろ」
片手で全体を擦り上げられ、もう片方の手で先端の溝の部分を撫で回される。凶暴なまでの快楽は到底耐えられるものではなかった。けれど、那智がどんなに泣きながら哀願しても、一向にやめてもらえない。それどころか、彼は爪の先で蜜口をくすぐってくるのだ。
「んく…あ、も、やだ」
縋るような瞳で見上げると、目尻に口付けられた。そのまま唇を塞がれ、射精を促すように扱き上げられる。
悲鳴は全部東藤の口の中に吸い込まれた。頭の中が真っ白になるような快感に、一瞬意識が遠のきかける。
「んぅっ、ん…ふぁ」
宥めるように何度も唇を軽く吸われ、ようやく戻って来た後は、ぐったりと身を投げ出してしまった。
すると、無防備に放り出された身体を更に押し開かれ、指先が秘所に触れる。那智は息を呑んだ。
「あっ、やだっ、ま、待って…っ」
入り口を器用に捏ね回され、今にも中に指が入ってきそうだった。
必死に身体を捩って待ったをかけるが、結局大した抵抗にもならずあっさり指を埋め込まれてしまう。
「いっ! っ──」
痛みに顔を顰める。力の抜き方がわからず、呼吸の仕方すら忘れてしまいそうだった。その様子に、東藤が意外そうな顔をする。
「那智、お前もしかして、初めて?」
「うっ、くっ…」
かすかに頷くと、東藤は瞳を見開いて中の指を抜いてくれた。
「麻雀で、ずっと身体賭けて打って来たんじゃなかったのか?」
「だって…負けたことなかったから」
「!」
東藤が驚きに目を丸くする。
那智だって、全く負けたことがないとは言わない。負けて金を払う羽目になったことはある。ただ、身体を賭けた勝負の時は、一度も負けたことはなかった。
「そうか…」
なぜか深刻そうに響いた東藤の声に、那智は首を傾げた。
けれど彼は、すぐに意地の悪い微笑みを浮かべると、唇が触れそうな距離で妖しく囁いた。
「だったら、優しくしてあげないとな」
すぐに唇が塞がれ、強く舌を吸われる。口内を侵略するような、言葉とは正反対の深い口付けに、那智は強く不安を覚えた。
✦✦✦
「はあっ、あ、やっ…んんっ」
硬く屹立したものの裏側をねっとりと舐め上げられ、那智は啜り泣くような声を上げた。後ろに入れられた指も、ゆっくりと、しかし止まることなく出し入れされる。
優しくする、という言葉の通り、痛みを与えられるようなことはなかった。
那智はまず、限界まで拡げられた後孔を舐め回され、唾液を押し込めるようにして中まで濡らされた。それから再び指を入れられる。
散々濡らされ、さらに同時に前も弄られながらの挿入だったので、最初の時のような苦痛はなかった。その代わり、感じたことがないほどの悦楽を与えられ、それだけで達してしまったのだ。
「やぁ、あ、も…はなし、て…」
那智の性器は今、東藤の指で根本を強く縛められ、射精出来ないようにされていた。二本に増やされた指で中の弱い部分を擦られる度に、吐き出せない熱が全身を駆け巡り頭が沸騰する。
「まだだよ。那智はもう二回もイったんだから、もう少し我慢出来るだろう?」
「できな…や、いやああっ!」
縛めた指はそのままに、先端を口に含まれる。蜜口を舌で抉られ、身体の心を引き抜かれるような衝撃が走った。両腕は未だ拘束されたままで、那智はただ喘ぐことしかさせてもらえない。
啜り泣く声も掠れてきた頃、ようやく中の指が抜かれ、性器の拘束が解かれる。すっかり理性が飛んでしまっていた。人形のように従順に男を受け入れ、東藤の望むままに甘い吐息を漏らす。
「はあっ、あ、うっ──…」
何度も奥を突き上げられ濡らし上げられる感触に、那智はいつの間にか意識を手放していた。
✦✦✦
気を失ってそのまま眠ってしまったのか、目を覚ますと豪華なシャンデリアが目に入った。
視線を巡らせると、東藤がバスローブ姿で煙草を燻らせているのが目に入る。ソファに深く腰掛け、携帯電話を弄っている。
那智が目を覚ましたことに気付くと、携帯をテーブルに置き近付いてきた。
「起きた?」
ベッドサイドに腰掛け、頭に手を置かれる。髪を弄ぶように撫でられて、那智は目だけを東藤の顔に向けた。
バスローブに着替えているということは、シャワーを浴びたのだろう。那智の身体も眠っている間に後始末をしてくれたのか、不快感は残っていなかった。
「那智は、どうして賭け麻雀なんかやってるんだ?」
まるで独り言のような、静かな声で東藤は呟いた。
「生活のためなら、もっと着実に稼ぐ方がいいだろう」
那智は右手で、相変わらず頭に置かれている手を払い、半身を起こした。
東藤の目に自分の顔が映るのを確認して、にっこりと笑みを作る。
「お金があれば、九十九パーセントのものが手に入るんだよ」
未成年で中学しか出ていない自分が真面目に働いたところで、どうせ大した稼ぎは得られない。
那智のその言葉に、東藤の目が大きく見開かれる。彼は何か言おうとして口を開くも、結局なんの言葉も見つからなかったのか、小さく溜息を吐いて俯いた。
那智はなぜか、ちょっとした罪悪感を覚える。
けれど、金のほかに何があるというのだろう。ギャンブルに求めるものなんて、金かスリルくらいしかないと思うのに。
彼はいったい、どんな答えを期待していたのか。いっそ、その金の使い道を言えば納得するのだろうか。
しかし口を開こうとする間もなく、肩を押されて再びベッドに横たえさせられた。
「東藤さん…?」
東藤の表情からは、先程までの優しげな様子は消え、最中に見せた意地悪な笑顔に戻っていた。
「じゃあ、その大事なお金の分、しっかり払ってもらわないとな」
「え…や、うそ…っ」
バスローブをはだけさせ、隙間から再び潜り込んでくる手を、那智は慌てて掴んだ。
これ以上なんて無理だ。
そう思って怯えた瞳で見上げるけれど、東藤は相変わらず微笑んで残酷な言葉を投げてくるだけだった。
「まだ、夜は明けてないよ」
「っ!」
那智は少しの間逡巡した末、諦めたように掴んでいた手を放した。
約束は一晩。夜が明けるまで。
那智に拒否権はない。
再び与えられる官能の波に、那智は熱い吐息を溢した。
今吸っているものを灰皿で揉み消すと、部屋の入り口に立ち尽くしていた那智のもとへやってくる。
腕を引かれ、二つあるうちの壁側のベッドに座らせられた。ネクタイを解きながら東藤が独り言のように呟く。
「けっこう時間がかかったな」
「え…?」
那智はちらりと部屋に置かれている時計に目をやった。それほど長湯をしたつもりはなかったのだが。
しかしどうやら、東藤は風呂の時間のことを言っているわけではないようだ。
「もっと早く、堕ちると思ってたのに」
「っ!」
言いながらバスローブの紐を解かれる。那智の身体が小さく震えた。
軽く肩を押されてベッドに押し倒された。
東藤の身体がその上に覆いかぶさり、顔を覗き込んでくる。那智は大人しく目を閉じた。
唇が触れ合う。
一旦離れ、何度か触れるだけのキスを繰り返してから、深く唇を重ねられる。
大事にされているかのようなその扱いに、那智は戸惑いを覚えた。
灰皿にあった吸殻の数は、苛ついた心の度合いを示している。無意識なのかもしれないが、東藤は那智が風呂を使っていた間、落ち着いて待っていたわけではないだろう。だから、もっと乱暴に扱われると思っていたのに。
「ん…っ」
口内に侵入してきた舌が、上顎をくすぐるように舐め、奥に引っ込めていた舌を絡めとられる。
初めてのキスは、この間居酒屋でもらった煙草と同じ味がした。
東藤は、負ける方がメリットがあると言った。
勝つことに意味はない。今は負ける方がいいと。大金を払ってでも、那智とのこの行為にメリットがある。どうして東藤は、そんな風に思っているのだろう。
ぼうっとした頭でそんなことを考えていたけれど、那智の思考が働いていたのはそこまでだった。
「ぁ…」
はだけられた胸元に手のひらが置かれ、小さく声が漏れる。冷たい指先が肌を滑る感触に、思わず身体が震えた。
感触を確かめるように、手のひらで肌を辿られる。那智が身じろいだり息を詰める度に、東藤はその場所を執拗に撫で上げてきた。
次第に息が上がっていく。初めて対局をした時に、那智に気付かれないように牌の積み替えが出来たくらいだから、手先はかなり器用なのだろうと、どうでもいいことを考えてしまう。
「ん…あっ!」
指先が胸の突起に触れた。指の腹で何度も擦り上げられ、柔らかかったそこが硬くしこっていく。
那智は顔を背けて強く唇を噛み締めた。男の自分が乳首なんて触られても何も感じない。その考えは、ただの思い込みだったようだ。
「ぅん…ふ、ぁ…」
「声、出していいよ。その方が楽になる」
「ぁ、でも…」
「恥ずかしい?」
耳許で囁きかけられる問いに、肩を震わせて小さく頷く。すると、東藤は優しい声音とは裏腹に手首を強く掴んできた。驚いて顔を上げると意地の悪い微笑みが視界いっぱいに映る。
「じゃあ、気にならないようにしてやるよ」
「え…なっ、あ、やだっ」
掴まれた両手を頭上で一纏めにされ、バスローブの紐で縛り付けられてしまう。強く引っ張っても固く結ばれた結び目は解ける気配がなく、更に再び愛撫が再開され、那智はそれどころではなくなってしまった。
「あっ、や…やぁあ!」
胸の先に唇が吸い付き、舌で先端を転がされる。もう一方も指先で捏ね回されて、逃げるように身を捩った。けれど、両腕を拘束され身体を押さえ込まれている状態では、ほとんど身動きがとれなかった。顕にされた脇腹や脇の下も撫で回され、明らかな快感が下腹部に集結していく。
東藤の視線が下りていき、膝を掴まれ割り開かれそうになる。
「いやっ! 見、るな…っ」
けれど、必死の抵抗もこの状況では全く通用しない。
「那智、いい子にして」
「やぁっ! あ、っ…んっ」
そっと股間のものを撫で上げられる。初めて触れる他人の手の感触は、強い快楽を生み出していった。けれど、その手はすぐに離れていってしまい、同時に身体を襲ってきた強烈な飢餓感に涙を溢す。
「んぁ、東藤、さ…」
「もっと触ってほしい?」
「っ…!」
瞳に雫を溜めながらも、肯定することは躊躇われる。恥ずかしさに顔を背けると、さらに悪戯するように脚の付け根をくすぐられた。
「いやぁっ」
懇願するように潤んだ目を向けると、東藤はようやく那智の意図を汲んでくれる気になったようだ。
「じゃあ、大人しくしていられるな?」
膝を立てさせられ、内腿を指先が滑る感触に吐息が震えた。
ゆっくりと脚を開かれ、激しい羞恥に強く目を瞑る。
東藤の視線が中心に纏わり付いてきていた。それだけで、そこはかすかに震えて新たな蜜を溢れさせる。
「んっ、ふぁ、ぁああっ!」
愛撫を待っていたそこに、ふっと息を吹きかけられ、次いで手の中に包み込まれる。くちゅくちゅと音を立てて扱かれ、那智は悲鳴のような声を上げた。巧みな動きで弱い部分を的確に刺激され、あっという間に限界付近まで追い上げられる。
「あ、あっ、やっ、そこ…っ」
「ここ、な。感じるだろ」
片手で全体を擦り上げられ、もう片方の手で先端の溝の部分を撫で回される。凶暴なまでの快楽は到底耐えられるものではなかった。けれど、那智がどんなに泣きながら哀願しても、一向にやめてもらえない。それどころか、彼は爪の先で蜜口をくすぐってくるのだ。
「んく…あ、も、やだ」
縋るような瞳で見上げると、目尻に口付けられた。そのまま唇を塞がれ、射精を促すように扱き上げられる。
悲鳴は全部東藤の口の中に吸い込まれた。頭の中が真っ白になるような快感に、一瞬意識が遠のきかける。
「んぅっ、ん…ふぁ」
宥めるように何度も唇を軽く吸われ、ようやく戻って来た後は、ぐったりと身を投げ出してしまった。
すると、無防備に放り出された身体を更に押し開かれ、指先が秘所に触れる。那智は息を呑んだ。
「あっ、やだっ、ま、待って…っ」
入り口を器用に捏ね回され、今にも中に指が入ってきそうだった。
必死に身体を捩って待ったをかけるが、結局大した抵抗にもならずあっさり指を埋め込まれてしまう。
「いっ! っ──」
痛みに顔を顰める。力の抜き方がわからず、呼吸の仕方すら忘れてしまいそうだった。その様子に、東藤が意外そうな顔をする。
「那智、お前もしかして、初めて?」
「うっ、くっ…」
かすかに頷くと、東藤は瞳を見開いて中の指を抜いてくれた。
「麻雀で、ずっと身体賭けて打って来たんじゃなかったのか?」
「だって…負けたことなかったから」
「!」
東藤が驚きに目を丸くする。
那智だって、全く負けたことがないとは言わない。負けて金を払う羽目になったことはある。ただ、身体を賭けた勝負の時は、一度も負けたことはなかった。
「そうか…」
なぜか深刻そうに響いた東藤の声に、那智は首を傾げた。
けれど彼は、すぐに意地の悪い微笑みを浮かべると、唇が触れそうな距離で妖しく囁いた。
「だったら、優しくしてあげないとな」
すぐに唇が塞がれ、強く舌を吸われる。口内を侵略するような、言葉とは正反対の深い口付けに、那智は強く不安を覚えた。
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「はあっ、あ、やっ…んんっ」
硬く屹立したものの裏側をねっとりと舐め上げられ、那智は啜り泣くような声を上げた。後ろに入れられた指も、ゆっくりと、しかし止まることなく出し入れされる。
優しくする、という言葉の通り、痛みを与えられるようなことはなかった。
那智はまず、限界まで拡げられた後孔を舐め回され、唾液を押し込めるようにして中まで濡らされた。それから再び指を入れられる。
散々濡らされ、さらに同時に前も弄られながらの挿入だったので、最初の時のような苦痛はなかった。その代わり、感じたことがないほどの悦楽を与えられ、それだけで達してしまったのだ。
「やぁ、あ、も…はなし、て…」
那智の性器は今、東藤の指で根本を強く縛められ、射精出来ないようにされていた。二本に増やされた指で中の弱い部分を擦られる度に、吐き出せない熱が全身を駆け巡り頭が沸騰する。
「まだだよ。那智はもう二回もイったんだから、もう少し我慢出来るだろう?」
「できな…や、いやああっ!」
縛めた指はそのままに、先端を口に含まれる。蜜口を舌で抉られ、身体の心を引き抜かれるような衝撃が走った。両腕は未だ拘束されたままで、那智はただ喘ぐことしかさせてもらえない。
啜り泣く声も掠れてきた頃、ようやく中の指が抜かれ、性器の拘束が解かれる。すっかり理性が飛んでしまっていた。人形のように従順に男を受け入れ、東藤の望むままに甘い吐息を漏らす。
「はあっ、あ、うっ──…」
何度も奥を突き上げられ濡らし上げられる感触に、那智はいつの間にか意識を手放していた。
✦✦✦
気を失ってそのまま眠ってしまったのか、目を覚ますと豪華なシャンデリアが目に入った。
視線を巡らせると、東藤がバスローブ姿で煙草を燻らせているのが目に入る。ソファに深く腰掛け、携帯電話を弄っている。
那智が目を覚ましたことに気付くと、携帯をテーブルに置き近付いてきた。
「起きた?」
ベッドサイドに腰掛け、頭に手を置かれる。髪を弄ぶように撫でられて、那智は目だけを東藤の顔に向けた。
バスローブに着替えているということは、シャワーを浴びたのだろう。那智の身体も眠っている間に後始末をしてくれたのか、不快感は残っていなかった。
「那智は、どうして賭け麻雀なんかやってるんだ?」
まるで独り言のような、静かな声で東藤は呟いた。
「生活のためなら、もっと着実に稼ぐ方がいいだろう」
那智は右手で、相変わらず頭に置かれている手を払い、半身を起こした。
東藤の目に自分の顔が映るのを確認して、にっこりと笑みを作る。
「お金があれば、九十九パーセントのものが手に入るんだよ」
未成年で中学しか出ていない自分が真面目に働いたところで、どうせ大した稼ぎは得られない。
那智のその言葉に、東藤の目が大きく見開かれる。彼は何か言おうとして口を開くも、結局なんの言葉も見つからなかったのか、小さく溜息を吐いて俯いた。
那智はなぜか、ちょっとした罪悪感を覚える。
けれど、金のほかに何があるというのだろう。ギャンブルに求めるものなんて、金かスリルくらいしかないと思うのに。
彼はいったい、どんな答えを期待していたのか。いっそ、その金の使い道を言えば納得するのだろうか。
しかし口を開こうとする間もなく、肩を押されて再びベッドに横たえさせられた。
「東藤さん…?」
東藤の表情からは、先程までの優しげな様子は消え、最中に見せた意地悪な笑顔に戻っていた。
「じゃあ、その大事なお金の分、しっかり払ってもらわないとな」
「え…や、うそ…っ」
バスローブをはだけさせ、隙間から再び潜り込んでくる手を、那智は慌てて掴んだ。
これ以上なんて無理だ。
そう思って怯えた瞳で見上げるけれど、東藤は相変わらず微笑んで残酷な言葉を投げてくるだけだった。
「まだ、夜は明けてないよ」
「っ!」
那智は少しの間逡巡した末、諦めたように掴んでいた手を放した。
約束は一晩。夜が明けるまで。
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