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第一部21・勇者とは勇敢な者であり強いかどうかは関係がない。【全10節】

10私はこの時初めて。

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 魔法融解…………、ああそういえばポピーとブラキスが公都近くで消し飛ばしたデカいカラスみたいな魔物が消滅を掻き消したって話があったっけ。

 人間が使うとは想像してなかったが、怪物が使って来ることは想定しておくべきだった。

「本当に凄いよメリッサ、一人前だ。君は『勇者』なんか無くっても立派に生きていける。よく頑張ったね」

 クロウさんは瓦礫の山に埋まり、隙間から覗くことしか出来ない私にそんな言葉を向け。

 振り返って立ち去ろうとした。

 私はそれを聞いて、見て。

「…………‼」

 鼻血と吐血を撒き散らしながら、瓦礫を弾き飛ばして立ち上がりながら叫んだ。

 ふざけんな。
 ああ、頭きた腹が立つ目が燃える。

「……散々ガキ、扱いして! セツナと付き合ってたんなら言えよ馬鹿がぁ‼ ガキだから傷つけたくなかったってか、若い子に慕われて気分良かったってか! 調子乗ってんじゃねえぞ馬鹿垂れ目ジジイ‼ 私は子供じゃあねえぇぇんだよ馬鹿野郎おおおおおおおおおお‼」

 私は勢いのままに、胸中をぶちまける。

 トドメも刺さずに去ろうとしてんのが腹立つ。
 戦い中も大して似合ってないコートを脱がなかったのが腹立つ。
 何ヶ月も鍛えてきたのが無駄にされたのが腹立つ。
 垂れ目が腹立つ。
 一撃も当たらなかったのが腹立つ。

 優しく褒められてちょっと嬉しくなった自分が腹立つ。

 格好つけて去ろうとしていたクロウさんは驚いて垂れた目を丸くして振り返りこちらを見ていた。

 ははっ、気分が良いね。

 私はトーンの町一番の悪童で、トーンの町で最もイカれた対人戦パーティ所属の元冒険者。

 そして今は。

「はっ……、知らなかったのかい?」

 私は精一杯、毅然な態度で。

「勇者はここで立ち上がる。ここで立ち上がれるから、勇者なんだ。舐めんじゃねーぞ馬鹿垂れ目馬鹿」

 そう宣って、ニヤリと笑ってみせる。

 ああ、本当はここでバリィの考えた秘策を使うべきなんだ。

 対クロウ・クロス最強の策。

 

 泣いて謝って、甘えて擦り寄って、優しさを見せたところを刺すという。
 クロウさんが病的に優しいことと、私がクロウさんからいつまでも子供として見られていて、私がクロウさんに好意を持って接しているからこそ成立する策だ。

 卑劣だし卑怯だけど確かに有効だし、そのくらいしなきゃこの怪物を討つことはできない。

 でももう、この策を使うこと自体が私にとっちゃあ負けだ。

 もう、私には、この人の優しさは必要ない。

「…………そうか、それはすまなかった」

 クロウさんは冷たく、平らな声でそう言って。

「その勇者ってのは単なるスキル名称でしかない、勇気もただの言葉でしかない」

 真っ黒な目で冷静に続け。

「在るのは、徹底した遂行のみだ」

 凍てつくような圧力を放って。



 そう言いながら、クロウさんは構える。

 私はそれを見て、背筋が凍りつきそうになりながら瓦礫の山から下りて構える。

 クロウさんの構えと全く同じ構えで、対峙する。

 私はこの時初めて、クロウさんの優しさ以外に触れたのだった。
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