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第二部11・世界は顧みないが家族は顧みる。【全9節】
04鶏肉と大根の炊いたやつ。
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「僕はこうなるまでに『加速』というスキルを用いて体感時間で何百年も鍛えた。何度も死にかけたし、何人も畳んだし…………人も殺めている」
父は悲しそうに、自身について語った。
何百年……そういえば父が自身について語るのを初めて見た。
具体的なことは言わないけど恐らく、父には父で激闘の物語があるんだと思った。
「弱けりゃ死ぬ世界で生きるということは、そういうことなんだ。強くあり続けなくてはならない……でも僕に、シロウを鍛えることは出来ない……」
少し苦しそうに、父は言う。
「僕は君に死んで欲しくない、親のエゴかもしれないけど幸せに平穏な日々を送って欲しいんだ。それを、軍人として実現するだけの強さをシロウに求めれば……鍛錬は苛烈を極める。トーンの冒険者たちや帝国軍人たちの時とは比にならないくらい厳しくしなくてはならない……」
感情的に、しかして声を荒げないように努めて穏やかに語る。
「でも僕は厳しくは出来ない……我が子を痛めつけるような……そんなことは僕には出来ない……、だいぶ変わったけどこれは僕の病いのようなものだと思ってくれて構わない。でも、出来ないものは出来ないんだ」
言葉を選ぶように、本質だけが伝わるように語る。
確かに俺は親父に一度たりとも叩かれたことはない。
単純に俺の聞き分けが良かったということもあるが何か至らぬ点があっても言葉で指摘や改善と反省を促した。
「だけど、君はもう大人になる。君の人生だから僕が君の進路を止めるのは筋違いだ。だから……士官学校に進むことをこれ以上止めはしない……でも、お願いがある」
父は穏やかに、しかして決意のみなぎる眼差しと口調で。
「強くなってくれ。僕やセツナが心配しなくても良いくらいに、軍人として平穏な日々を送れるくらいに。強くなってほしい」
力強く、そう言った。
「……はい」
俺は父の願いに対して、返事をする。
具体的に父の物語に何があったのかはしらない。
誰だってなんかある、俺にもあるし父にもあった。それだけの話だ。
強くなりゃあいい、父に心配かけないほど圧倒的に。
競技者としてではなく、軍人として、一人の人間として。
俺の返事を聞いた父は、にこりと笑って。
「もしシロウが、軍務の中で命を落とすようなことがあったら――」
穏やかに。
「――僕は迷いなく、争いを生むこの世界を滅ぼすよ」
冗談じゃ済まないことを、言った。
そこから帝国軍医のクリア・クラックさんとパンドラ・クラックさんが招集されて、ブライさんと師匠の治療を行い。
「ブライ、おまえを畳むのは次会った時にする、あと三回は畳むからな。それとジャンポールは怠けすぎだ。何回天井に埋まれば気が済むんだ馬鹿、照明器具にでもなりてぇのか? まあ今日のところは晩ご飯の支度があるから帰るよ、鶏肉と大根炊いたやつだから鍋を見る時間に感謝しろ」
そう言って父は長距離転移魔法で帰った。
今日は鶏肉と大根の炊いたやつか……、あれ正式にはなんて料理名なんだろうか。
そんなことより、二人が気を失っていた間のことを師匠とブライさんに伝える。
「ブライ貴様……っ、クロウさんのことは軍事機密中の軍事機密だというのに……、シロウにも言ってはダメだと多分この十八年で累計で三日は説明したはずだぞ」
「ああ残念、三日じゃちょっと足んなかったな。つまりおまえの怠慢だ馬鹿、反省しろ」
「いつか必ず貴様の首を跳ねる」
「首だけになってもてめぇくらいなら噛み殺せるけどな」
師匠とブライさんはそんな会話をした後。
「……シロウ、こうなったらマジで強くなるしかないぞ。クロウさんはやると言ったらやる、世界を敵に回しても勝てるから世界最強なんだ。今までのような競技にフォーカスした鍛え方とか我々を基準にした強さではなく……クロウさん基準における強さだ……、かなり厳しくやることになるぞ」
「……覚悟しています」
戦慄する師匠の言葉に、俺はゆらりと目から炎を揺らして答える。
その日から地獄の訓練が始まった。
父は悲しそうに、自身について語った。
何百年……そういえば父が自身について語るのを初めて見た。
具体的なことは言わないけど恐らく、父には父で激闘の物語があるんだと思った。
「弱けりゃ死ぬ世界で生きるということは、そういうことなんだ。強くあり続けなくてはならない……でも僕に、シロウを鍛えることは出来ない……」
少し苦しそうに、父は言う。
「僕は君に死んで欲しくない、親のエゴかもしれないけど幸せに平穏な日々を送って欲しいんだ。それを、軍人として実現するだけの強さをシロウに求めれば……鍛錬は苛烈を極める。トーンの冒険者たちや帝国軍人たちの時とは比にならないくらい厳しくしなくてはならない……」
感情的に、しかして声を荒げないように努めて穏やかに語る。
「でも僕は厳しくは出来ない……我が子を痛めつけるような……そんなことは僕には出来ない……、だいぶ変わったけどこれは僕の病いのようなものだと思ってくれて構わない。でも、出来ないものは出来ないんだ」
言葉を選ぶように、本質だけが伝わるように語る。
確かに俺は親父に一度たりとも叩かれたことはない。
単純に俺の聞き分けが良かったということもあるが何か至らぬ点があっても言葉で指摘や改善と反省を促した。
「だけど、君はもう大人になる。君の人生だから僕が君の進路を止めるのは筋違いだ。だから……士官学校に進むことをこれ以上止めはしない……でも、お願いがある」
父は穏やかに、しかして決意のみなぎる眼差しと口調で。
「強くなってくれ。僕やセツナが心配しなくても良いくらいに、軍人として平穏な日々を送れるくらいに。強くなってほしい」
力強く、そう言った。
「……はい」
俺は父の願いに対して、返事をする。
具体的に父の物語に何があったのかはしらない。
誰だってなんかある、俺にもあるし父にもあった。それだけの話だ。
強くなりゃあいい、父に心配かけないほど圧倒的に。
競技者としてではなく、軍人として、一人の人間として。
俺の返事を聞いた父は、にこりと笑って。
「もしシロウが、軍務の中で命を落とすようなことがあったら――」
穏やかに。
「――僕は迷いなく、争いを生むこの世界を滅ぼすよ」
冗談じゃ済まないことを、言った。
そこから帝国軍医のクリア・クラックさんとパンドラ・クラックさんが招集されて、ブライさんと師匠の治療を行い。
「ブライ、おまえを畳むのは次会った時にする、あと三回は畳むからな。それとジャンポールは怠けすぎだ。何回天井に埋まれば気が済むんだ馬鹿、照明器具にでもなりてぇのか? まあ今日のところは晩ご飯の支度があるから帰るよ、鶏肉と大根炊いたやつだから鍋を見る時間に感謝しろ」
そう言って父は長距離転移魔法で帰った。
今日は鶏肉と大根の炊いたやつか……、あれ正式にはなんて料理名なんだろうか。
そんなことより、二人が気を失っていた間のことを師匠とブライさんに伝える。
「ブライ貴様……っ、クロウさんのことは軍事機密中の軍事機密だというのに……、シロウにも言ってはダメだと多分この十八年で累計で三日は説明したはずだぞ」
「ああ残念、三日じゃちょっと足んなかったな。つまりおまえの怠慢だ馬鹿、反省しろ」
「いつか必ず貴様の首を跳ねる」
「首だけになってもてめぇくらいなら噛み殺せるけどな」
師匠とブライさんはそんな会話をした後。
「……シロウ、こうなったらマジで強くなるしかないぞ。クロウさんはやると言ったらやる、世界を敵に回しても勝てるから世界最強なんだ。今までのような競技にフォーカスした鍛え方とか我々を基準にした強さではなく……クロウさん基準における強さだ……、かなり厳しくやることになるぞ」
「……覚悟しています」
戦慄する師匠の言葉に、俺はゆらりと目から炎を揺らして答える。
その日から地獄の訓練が始まった。
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