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23・お嬢様、墓前に花を添える。

03リンゴ。

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「いやアーチさん、大丈夫だ! 暴力マスクはグロリアには手を出さないし、私がランニングライガーボムで畳む!」

「いやルーシィそんな大技決まらないって」

 私はアーチさんに助け舟を渡す意味も込めて、前のめりなルーシィをなだめる。

「んーでもあの人ってなんなんでしょうね、グロリア心当たりないの? 多分あれクーロフォード家かリングストン家の護衛でしょ」

 モーラがお茶をのおかわりをそそがれながらさらりとグロリアに問う。

「え! そうなのですか! うちには怪人さんなんて怖いものはいないのです! アーチは知っているのですか、怪人さんの正体を」

 驚きながら振り返ってケーキを切り分けるアーチさんに話を振る。

「……さあ? ただの善良な執事の僕にはわかりかねますね」

 アーチさんは白々しく、堂々としらばっくれる。

「まあ階段が苦手で良く転げ落ちてしまうほど運動神経の悪いアーチが、怪人さんなんて怖い人と知り合いなわけありませんわよね!」

 グロリアはアーチさんの返答に笑顔で納得する。

 いやしかし、よくバレないよね。

 灯台もと暗しすぎるのだろうか、みんな本当にアーチさんを普段クールで出来る風なのにちょいちょい階段から落ちて大怪我するマヌケな執事だと思っているのだろうか……、不憫ふびんで仕方ない。せめて私たちだけはその苦労を労いたい。

 そんなこんなで。

「じゃあまた学園でねアビィ!」

 楽しい楽しいガールズトークはお開きとなり、グロリアたちと別れた。

 私はそこから買い物に行くことにした。

 これからはナインに頼らなくても、ナインに心配をかけなくても、一人で生きていけるようにならなくてはならない。

 一人で食事を作って、洗濯や掃除をして、お風呂に入れるようにならなくてはならない。

 ひかえめにいって、私の生活力はとぼしい。

 でも、あんなことがあったのだから私は変わらなくてはならないのだ。

 市場を回って野菜やお肉を選ぶ。
 うーん、何が良いものでどれが美味しいもので、何を何に使うのかが全然わからない。

 幸い、バセット家から資金は潤沢じゅんたくに巻き上げているのでお金には困ってはない。
 とりあえずよく分からないけど片っ端から買ってしまおう。

 洗剤とかは大丈夫だろうか、せっかくだから買っておこう。もしダブってしまっても消耗品なら困らない。買い溜めと考えよう。

 ついでに洋服とか買ってしまおうかしら。
 それは今日じゃなくていいか。

 様々なものが並ぶ市場で、青果店を見つける。
 みずみずしいリンゴがキラキラと並ぶ。

 リンゴか。

 私が前世の高田まりえの記憶を取り戻しナインと初めて会ったあの日、かじりついた果実だ。

 ナインをだましてバセット伯爵をらしめて、二人でかじった、花言葉を運命とする禁断の果実。

 そういえば高田まりえのいた世界でもこちらの世界でも全く同じ形だ。まあ高田まりえはリンゴを食べたことがないから味が同じなのかはわからないけど。

 …………ああ、いけない物思ものおもいにふけすぎていた。

 切り替えないと。

「これください」

 私はリンゴも買うことにした。

 二つ買えば十分だったのだが店主の厚意こういで袋いっぱいにサービスしてくれた。

 これはありがたい、リンゴは好きなのでご厚意こういに甘えよう。

 その後もあれもこれもと買い物を続けたが、ここにきて私は重大な失敗に気づく。

 荷物が重いのだ。
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