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1章 あるところに白雪という男の子がいました
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花城隆平が、その教室の前を通ったのは、まったくの偶然だった。
最近やたら付き纏ってくる女子学生を見かけたので遠回りして図書館に向かっていた最中、たまたま通りがかった廊下に面した空き教室の中から、でっかいため息が聞こえて来た。そのため息がなぜか気になって教室を覗き込んでみると、そこには最近ずっと気にかかっていた人物がいた。
明け方に近い深夜に訪れた牛丼屋。そこで目の前で呼吸困難を起こして倒れた青年だ。
救急車に乗せた後どうなったかは、後日もう一度牛丼屋を訪れた時に確認できた。死んではいないが、バイトはクビになったと聞いて、とても心配していた。
染めたことがなさそうなサラサラの黒髪で、くりんとしたアーモンドアイ、ちょっぴり背が小さくてかわいい。疲れた顔をしていたのが、また放っておけない感じだった。多分、大学生バイトくんかな。いや、クビになっちゃったんだった。またどこかで会えないかなぁ。
そんなふうにここ数日、頭から離れない青年が、お昼の空き教室で大きなため息をついていた。
まさか同じ大学だったなんて。
ああ、やっぱりかわいいな。
そう思いながら、隆平は青年とその友人らしき人物との会話に耳を傾けた。
どうやら例の牛丼屋をクビになり、困っているらしい。
手には、手作りっぽい弁当を持っている。弁当箱が、食品保存用の密閉容器というそっけなさなので、彼女的な誰かが作ったものではなさそうで、ホッとした。
――ん? 俺、今、ホッとした?
ああ、どうやら自分はすでに恋をしてしまったらしい、と隆平は気づいてしまった。となれば、彼のことをもっと知る方法はないだろうか? とりあえず「やぁ、身体はもう平気?」と話しかけよう、そうしよう。
隆平がそう考えていると、こんなセリフが聞こえてきた。
「はぁ……、まかない付きでブラックじゃないバイト、どっかにないかなぁ」
「あるよ」
「へ?」
隆平は、思わずそう声をかけていた。
驚いて振り向いたそのちょっぴり間抜けな顔が、やっぱりかわいかった。
「まさか、同じ大学とは思わなかったよ。もう身体は大丈夫なの?」
「は、はいっ。おかげさまで……」
「そう。良かった」
そう言って隆平が微笑むと、青年は顔を赤らめた。
お? 良かった、俺、顔が良くて。父さん母さんありがとう、イケメンに産んでくれて。
隆平は、渾身の笑顔攻撃が成功したことを、心の中で両親に感謝した。
すると、「そ、そうだ!」と突然我に返った青年が、椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がって、深々と頭を下げた。
「あの時は本当にありがとうございました!! 救急車呼んで、店番もしてくださったそうで、本当に命の恩人です!」
青年は、身体を折る勢いで頭を下げながら、礼を述べた。
「え? マジ? この人が例のバラの人? うっわ~、マジで超絶イケメン」
と、同じくポカンと隆平の顔を見ていた友人らしき人物が驚く。
「うん……、そう。救急車呼んでくれた人」
「うっわ~! 白雪姫をバラの王子様が助けてくれるとか、マジ、メルヘンじゃん!」
「おい! バカ、やめろ!」
友人が騒ぎ出したのを、ちょっと怒った顔で止めるのもかわいい。
「オレ、白石由起也って言います。良かったら、お名前教えてもらっていいですか?」
「いいよ。俺は、花城隆平。経営学研究科の修士一年です」
「はなしろ…先輩。院生なんですね」
「はいはいはい! 俺は狩山って言います! 白雪と同じ法学部3年でっす」
「白雪?」
「コイツ、白石由起也なので、略して白雪ってみんな呼んでます」
「ふふ、かわいいあだ名だね。俺もそう呼んでいい?」
「え。いやです」
「……ぶは! ははは、ははははは!」
ああ、かわいい。ちょっとムッとした顔もかわいい。
隆平は、この偶然の再会を全世界に感謝したいような、浮かれた気持ちになった。
最近やたら付き纏ってくる女子学生を見かけたので遠回りして図書館に向かっていた最中、たまたま通りがかった廊下に面した空き教室の中から、でっかいため息が聞こえて来た。そのため息がなぜか気になって教室を覗き込んでみると、そこには最近ずっと気にかかっていた人物がいた。
明け方に近い深夜に訪れた牛丼屋。そこで目の前で呼吸困難を起こして倒れた青年だ。
救急車に乗せた後どうなったかは、後日もう一度牛丼屋を訪れた時に確認できた。死んではいないが、バイトはクビになったと聞いて、とても心配していた。
染めたことがなさそうなサラサラの黒髪で、くりんとしたアーモンドアイ、ちょっぴり背が小さくてかわいい。疲れた顔をしていたのが、また放っておけない感じだった。多分、大学生バイトくんかな。いや、クビになっちゃったんだった。またどこかで会えないかなぁ。
そんなふうにここ数日、頭から離れない青年が、お昼の空き教室で大きなため息をついていた。
まさか同じ大学だったなんて。
ああ、やっぱりかわいいな。
そう思いながら、隆平は青年とその友人らしき人物との会話に耳を傾けた。
どうやら例の牛丼屋をクビになり、困っているらしい。
手には、手作りっぽい弁当を持っている。弁当箱が、食品保存用の密閉容器というそっけなさなので、彼女的な誰かが作ったものではなさそうで、ホッとした。
――ん? 俺、今、ホッとした?
ああ、どうやら自分はすでに恋をしてしまったらしい、と隆平は気づいてしまった。となれば、彼のことをもっと知る方法はないだろうか? とりあえず「やぁ、身体はもう平気?」と話しかけよう、そうしよう。
隆平がそう考えていると、こんなセリフが聞こえてきた。
「はぁ……、まかない付きでブラックじゃないバイト、どっかにないかなぁ」
「あるよ」
「へ?」
隆平は、思わずそう声をかけていた。
驚いて振り向いたそのちょっぴり間抜けな顔が、やっぱりかわいかった。
「まさか、同じ大学とは思わなかったよ。もう身体は大丈夫なの?」
「は、はいっ。おかげさまで……」
「そう。良かった」
そう言って隆平が微笑むと、青年は顔を赤らめた。
お? 良かった、俺、顔が良くて。父さん母さんありがとう、イケメンに産んでくれて。
隆平は、渾身の笑顔攻撃が成功したことを、心の中で両親に感謝した。
すると、「そ、そうだ!」と突然我に返った青年が、椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がって、深々と頭を下げた。
「あの時は本当にありがとうございました!! 救急車呼んで、店番もしてくださったそうで、本当に命の恩人です!」
青年は、身体を折る勢いで頭を下げながら、礼を述べた。
「え? マジ? この人が例のバラの人? うっわ~、マジで超絶イケメン」
と、同じくポカンと隆平の顔を見ていた友人らしき人物が驚く。
「うん……、そう。救急車呼んでくれた人」
「うっわ~! 白雪姫をバラの王子様が助けてくれるとか、マジ、メルヘンじゃん!」
「おい! バカ、やめろ!」
友人が騒ぎ出したのを、ちょっと怒った顔で止めるのもかわいい。
「オレ、白石由起也って言います。良かったら、お名前教えてもらっていいですか?」
「いいよ。俺は、花城隆平。経営学研究科の修士一年です」
「はなしろ…先輩。院生なんですね」
「はいはいはい! 俺は狩山って言います! 白雪と同じ法学部3年でっす」
「白雪?」
「コイツ、白石由起也なので、略して白雪ってみんな呼んでます」
「ふふ、かわいいあだ名だね。俺もそう呼んでいい?」
「え。いやです」
「……ぶは! ははは、ははははは!」
ああ、かわいい。ちょっとムッとした顔もかわいい。
隆平は、この偶然の再会を全世界に感謝したいような、浮かれた気持ちになった。
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