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1章 あるところに白雪という男の子がいました
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ガッコン!と音を立てて、自動販売機が炭酸飲料を吐き出した。隆平が長い腕を伸ばしてペットボトルを取り出し、由起也に差し出す。
「あ、ありがとうございます。けど、ホントにいいんですか?」
「うん、再会できたお祝いと思って受け取って」
「すみません、ホントはオレがお礼しないといけないのに」
「いいのいいの。バイト、クビになった人に奢ってもらう訳にはいかないよ」
授業があるという狩山と別れ、隆平と由起也は空き教室を後にして、校舎のちょっと裏手にある自動販売機コーナーに来ていた。人通りが少なめなちょっぴり穴場のそこで、隆平が紹介してくれるというバイトについて詳しく聞くためだ。
ちなみに、狩山は、
「うっわ~、マジでイケメン」
と何度もつぶやくほど、隆平の顔にビビり散らかしていたが、去り際に、
「コイツ、ホントにイイヤツなんで! よろしくお願いします!!!」
と由起也のことを頼むのを忘れなかった。
由起也の友人もイイヤツのようだ。
梅雨の初めの空気はじっとりと重いが、今日は少し晴れ間がのぞき、キャンパスの緑を鮮やかに照らしていた。
二人は近くにあったベンチに腰掛け、ペットボトルの蓋を捻る。ぷしゅーと間抜けな音と共に、隆平がおもむろに由起也に尋ねた。
「さっきの、バラの王子様って何?」
「ブッフォ」
由起也は口に含んだばかりの炭酸飲料を吹き出した。
「大丈夫?」
「ゲホ、すみません……。あの、えっと、先輩が店に来た時、めちゃくちゃデカいバラの花束持ってたじゃないですか」
「ああ、そうだったね」
そんな会話から、由起也は自分のアレルギー体質のこと、その体質のせいで何度も倒れたこと、それが白雪というあだ名につながったことなどを説明した。その流れで、バラの香りがあの日倒れた原因だったことも。
「白石くんが倒れたのって、俺のせいだったんだ……」
しまった!と、由起也は余計なことまで言ってしまったことに気づく。
「いえ! 二日連続でワンオペ夜勤だったので! オレもかなり疲れてたから! バラの香りはアレルギーに関係ないって頭では分かってるんですけど、その、疲れてたので……」
「そっか……。それはこちらこそ申し訳ない」
由起也は、隆平のせいではないことを必死になって訴えた。しかし、隆平は眉間に皺を寄せて、心から申し訳なさそうな顔をした後、深々と頭を下げて由起也に謝った。
由起也は、言わなくてもいいことを言ってしまい、隆平にとても申し訳ない気持ちになった。と同時に、真摯に謝ってくれる様子を見て、この人は信用しても良さそうだという安堵も覚えた。
「これは、本当にきちんとバイト先を紹介しないといけないね」
「すみません。紹介してもらえたら助かります!」
「うん、まかない付きのブラックじゃないバイト、でしょ」
「もしかして……ホストクラブですか?」
「ああ、ごめんね。あんな格好で花束抱えてたら、そう思うよね。確かにホストクラブで働いてました。けど、2ヶ月だけの臨時。頼まれて助っ人として」
ああ、これだけイケメンだったら、ホストクラブの助っ人、しかも2ヶ月限定っていう条件で働けるんだ。と由起也は納得した。
「あの日はその最終日で、花束は姫……お客様からもらったヤツで。それから、えーっと」
突然なぜか歯切れが悪くなる隆平に、由起也は小首を傾げた。
「えーっと、女の子からめっちゃ抱きつかれた時に、香水の匂いが移った……んだと思う」
「あー、なるほどー」
確かにあのバラの香りは、フローラルでフェミニンすぎる香りだ。今、目の前にいるこの人には、もっと大人っぽい、男らしい香りが似合う気がする。香水にはこれまで興味がなかったし、買えるような経済状況でもないので、どんな香りだと言われてもわからないけど。由起也は香水の知識がないことを、ほんのちょっぴり後悔した。
「そんなわけでホストクラブではないので、ご安心ください」
「あはは、何で敬語なんですか」
「いろいろ候補はあるんだけど、イチオシから聞く?」
「はい! ぜひ」
「俺ん家」
「はい?」
「あ、ありがとうございます。けど、ホントにいいんですか?」
「うん、再会できたお祝いと思って受け取って」
「すみません、ホントはオレがお礼しないといけないのに」
「いいのいいの。バイト、クビになった人に奢ってもらう訳にはいかないよ」
授業があるという狩山と別れ、隆平と由起也は空き教室を後にして、校舎のちょっと裏手にある自動販売機コーナーに来ていた。人通りが少なめなちょっぴり穴場のそこで、隆平が紹介してくれるというバイトについて詳しく聞くためだ。
ちなみに、狩山は、
「うっわ~、マジでイケメン」
と何度もつぶやくほど、隆平の顔にビビり散らかしていたが、去り際に、
「コイツ、ホントにイイヤツなんで! よろしくお願いします!!!」
と由起也のことを頼むのを忘れなかった。
由起也の友人もイイヤツのようだ。
梅雨の初めの空気はじっとりと重いが、今日は少し晴れ間がのぞき、キャンパスの緑を鮮やかに照らしていた。
二人は近くにあったベンチに腰掛け、ペットボトルの蓋を捻る。ぷしゅーと間抜けな音と共に、隆平がおもむろに由起也に尋ねた。
「さっきの、バラの王子様って何?」
「ブッフォ」
由起也は口に含んだばかりの炭酸飲料を吹き出した。
「大丈夫?」
「ゲホ、すみません……。あの、えっと、先輩が店に来た時、めちゃくちゃデカいバラの花束持ってたじゃないですか」
「ああ、そうだったね」
そんな会話から、由起也は自分のアレルギー体質のこと、その体質のせいで何度も倒れたこと、それが白雪というあだ名につながったことなどを説明した。その流れで、バラの香りがあの日倒れた原因だったことも。
「白石くんが倒れたのって、俺のせいだったんだ……」
しまった!と、由起也は余計なことまで言ってしまったことに気づく。
「いえ! 二日連続でワンオペ夜勤だったので! オレもかなり疲れてたから! バラの香りはアレルギーに関係ないって頭では分かってるんですけど、その、疲れてたので……」
「そっか……。それはこちらこそ申し訳ない」
由起也は、隆平のせいではないことを必死になって訴えた。しかし、隆平は眉間に皺を寄せて、心から申し訳なさそうな顔をした後、深々と頭を下げて由起也に謝った。
由起也は、言わなくてもいいことを言ってしまい、隆平にとても申し訳ない気持ちになった。と同時に、真摯に謝ってくれる様子を見て、この人は信用しても良さそうだという安堵も覚えた。
「これは、本当にきちんとバイト先を紹介しないといけないね」
「すみません。紹介してもらえたら助かります!」
「うん、まかない付きのブラックじゃないバイト、でしょ」
「もしかして……ホストクラブですか?」
「ああ、ごめんね。あんな格好で花束抱えてたら、そう思うよね。確かにホストクラブで働いてました。けど、2ヶ月だけの臨時。頼まれて助っ人として」
ああ、これだけイケメンだったら、ホストクラブの助っ人、しかも2ヶ月限定っていう条件で働けるんだ。と由起也は納得した。
「あの日はその最終日で、花束は姫……お客様からもらったヤツで。それから、えーっと」
突然なぜか歯切れが悪くなる隆平に、由起也は小首を傾げた。
「えーっと、女の子からめっちゃ抱きつかれた時に、香水の匂いが移った……んだと思う」
「あー、なるほどー」
確かにあのバラの香りは、フローラルでフェミニンすぎる香りだ。今、目の前にいるこの人には、もっと大人っぽい、男らしい香りが似合う気がする。香水にはこれまで興味がなかったし、買えるような経済状況でもないので、どんな香りだと言われてもわからないけど。由起也は香水の知識がないことを、ほんのちょっぴり後悔した。
「そんなわけでホストクラブではないので、ご安心ください」
「あはは、何で敬語なんですか」
「いろいろ候補はあるんだけど、イチオシから聞く?」
「はい! ぜひ」
「俺ん家」
「はい?」
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