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3章 白雪くんは森へと迷い込み
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その次の日から、隆平と由起也の大学での待ち合わせ場所が、図書館に変わった。
由起也の父親の痕跡を探すため、大学の広報誌をひたすら確認していくことにしたのだ。おおよその年代――25年ほど前と当たりをつけ、その前後の年の発行分へと範囲を広げていく作戦だ。それで見つからなかったら、また別の手を考えようぜ、と隆平が明るく笑ってくれるので、由起也はその笑顔に励まされながら、作業に取り組んだ。
そしてその笑顔は、由起也のもう一つの悩みの種になっていた。
図書館前で由起也を見つけて笑顔で手を振ってくれる姿を見るとドキリとするし、隣に座った隆平が真剣にページをめくる横顔を見ると心臓が踊り出す。
なんでオレ、隆平先輩に対してこんな気持ちになってんの?
花城邸に帰ってからも、つまみぐいする隆平がかわいく見えてしょうがなかったり。
オレ、ホントに最近おかしい……。
そんな気持ちを誤魔化すために、つい口うるさくなってしまう。
「約束しましたよね? 調べるのは空いた時間だけ、講義はサボらないって!」
「ご、ごめん」
「尻に敷かれてるなぁ、隆平」
「ち、違っ……そんなつもりじゃ……!」
珍しく早く帰ってきたパパさんが、ニコニコしながらそうからかって来るので、由起也は真っ赤になってしまった。その横で隆平が、なぜか満足げに笑っている。
「……なんで先輩が嬉しそうなんですか?」
由起也は真っ赤になっている顔をごまかすように、わざと呆れた声を出して、キッチンへと避難した。
「ところで、今日は随分と早いお帰りだね」
「今日はちょっと会社でゴタゴタがあってね。戻ると面倒になりそうだったから、逃げてきた」
寛治が鷹揚な態度を崩さずに言う。
「隆平も、すまんがしばらく気をつけておきなさい」
「父さんの会社にクレーマー? 珍しいね」
「うちはクリーンなんだけどねぇ。土地には昔からのしがらみや恨みがくっついてくる時もある。しょうがないね」
キッチンにいた由起也はそんな会話を耳にして、パパさんの仕事大変なんだな、という程度にこの時は思っていた。
***
こうと決めたら一直線に突っ走ってしまう隆平に、これ以上学業を疎かにさせてはならないと、由起也は空き時間はとにかく図書館に通った。隆平と時間が合わせられない時も、一人で。
ある日、由起也が一人で広報誌を丹念に調べている時、誌面に人影が降りた。
誰だろう、と由起也が顔を上げると、見たことのある女の人が側に立っていた。こちらを睨みつけているその人が誰か思い出そうと由起也が首を傾げた瞬間、その女の人が口を開いた。
「あんた、リュウと付き合ってんの?」
リュウ――
そう言われた瞬間、由起也は数ヶ月前の出来事を思い出した。
隆平先輩に迫ってた人だ。確か、優芽花さん……。
「付き合ってません」
「じゃあ、なんでいっつも一緒にいるの? ねぇ、あんたもゲイなの?」
「いえ、オレは……」
「あんたのせいでしょ。リュウが私ともう会わないって言ったの、あんたのせいなんでしょ?」
優芽花の声がだんだん大きくなってくる。由起也は慌てて声を抑えるよう言うが、ますます優芽花の声が大きくなってしまう。
「なんであんたみたいな貧乏くさいヤツがリュウの家にいるわけ? 何か弱みでも握ってんの!?」
「ちょ、ここ図書館……」
「よぉ! 白雪」
そこにおおらかな声で割って入ってきたのは、狩山だった。
「お前、今日もこんなところにいたのかよ。教授のところに一緒に行く約束してただろ?」
狩山とはもちろんそんな約束はしていない。由起也をここから穏便に連れ出そうとしてくれているようだ。
「か、狩山ぁ」
「ほら、それ片付けて。行くぞ」
由起也は狩山の助け舟に乗り、鼻白んだ優芽花を置いて、そこを離れた。
図書館の外に出たところで、由起也は歩みを止めないまま、狩山に礼を言った。
「助かったよ、狩山。ありがとう」
「なんでお前、日野さんに目をつけられてんの? もしかしてあの子、今、王子先輩狙ってんのか?」
「なんで分かるの?」
「だって、あの子、有名だぜ。男をとっかえひっかえって」
狩山の話によれば、日野優芽花はちょっとした有名人らしい。かなりの美人なので、恋愛の噂が絶えない。彼氏を略奪されたと言う女子もいて、あちこちでトラブルを起こしているそうだ。
「とりあえず、気をつけた方がいいぞ、白雪。今日はたまたま俺が近くにいたから良かったけどさ」
「ありがと、狩山。どう気をつけたらいいのか分からないけど、気をつける」
そこまで話したところで、図書館から十分に離れたので、狩山にもう一度礼を言って別れた。
今日はもう、図書館には行けそうにないので、由起也は花城邸に帰ることにした。
電車に揺られている最中に、由起也はふと優芽花の発言を思い出した。
そういえば、オレが隆平先輩の家に居候してるのを、なんで知ってたんだろう。
そう思って、由起也は少しゾッとした。
由起也の父親の痕跡を探すため、大学の広報誌をひたすら確認していくことにしたのだ。おおよその年代――25年ほど前と当たりをつけ、その前後の年の発行分へと範囲を広げていく作戦だ。それで見つからなかったら、また別の手を考えようぜ、と隆平が明るく笑ってくれるので、由起也はその笑顔に励まされながら、作業に取り組んだ。
そしてその笑顔は、由起也のもう一つの悩みの種になっていた。
図書館前で由起也を見つけて笑顔で手を振ってくれる姿を見るとドキリとするし、隣に座った隆平が真剣にページをめくる横顔を見ると心臓が踊り出す。
なんでオレ、隆平先輩に対してこんな気持ちになってんの?
花城邸に帰ってからも、つまみぐいする隆平がかわいく見えてしょうがなかったり。
オレ、ホントに最近おかしい……。
そんな気持ちを誤魔化すために、つい口うるさくなってしまう。
「約束しましたよね? 調べるのは空いた時間だけ、講義はサボらないって!」
「ご、ごめん」
「尻に敷かれてるなぁ、隆平」
「ち、違っ……そんなつもりじゃ……!」
珍しく早く帰ってきたパパさんが、ニコニコしながらそうからかって来るので、由起也は真っ赤になってしまった。その横で隆平が、なぜか満足げに笑っている。
「……なんで先輩が嬉しそうなんですか?」
由起也は真っ赤になっている顔をごまかすように、わざと呆れた声を出して、キッチンへと避難した。
「ところで、今日は随分と早いお帰りだね」
「今日はちょっと会社でゴタゴタがあってね。戻ると面倒になりそうだったから、逃げてきた」
寛治が鷹揚な態度を崩さずに言う。
「隆平も、すまんがしばらく気をつけておきなさい」
「父さんの会社にクレーマー? 珍しいね」
「うちはクリーンなんだけどねぇ。土地には昔からのしがらみや恨みがくっついてくる時もある。しょうがないね」
キッチンにいた由起也はそんな会話を耳にして、パパさんの仕事大変なんだな、という程度にこの時は思っていた。
***
こうと決めたら一直線に突っ走ってしまう隆平に、これ以上学業を疎かにさせてはならないと、由起也は空き時間はとにかく図書館に通った。隆平と時間が合わせられない時も、一人で。
ある日、由起也が一人で広報誌を丹念に調べている時、誌面に人影が降りた。
誰だろう、と由起也が顔を上げると、見たことのある女の人が側に立っていた。こちらを睨みつけているその人が誰か思い出そうと由起也が首を傾げた瞬間、その女の人が口を開いた。
「あんた、リュウと付き合ってんの?」
リュウ――
そう言われた瞬間、由起也は数ヶ月前の出来事を思い出した。
隆平先輩に迫ってた人だ。確か、優芽花さん……。
「付き合ってません」
「じゃあ、なんでいっつも一緒にいるの? ねぇ、あんたもゲイなの?」
「いえ、オレは……」
「あんたのせいでしょ。リュウが私ともう会わないって言ったの、あんたのせいなんでしょ?」
優芽花の声がだんだん大きくなってくる。由起也は慌てて声を抑えるよう言うが、ますます優芽花の声が大きくなってしまう。
「なんであんたみたいな貧乏くさいヤツがリュウの家にいるわけ? 何か弱みでも握ってんの!?」
「ちょ、ここ図書館……」
「よぉ! 白雪」
そこにおおらかな声で割って入ってきたのは、狩山だった。
「お前、今日もこんなところにいたのかよ。教授のところに一緒に行く約束してただろ?」
狩山とはもちろんそんな約束はしていない。由起也をここから穏便に連れ出そうとしてくれているようだ。
「か、狩山ぁ」
「ほら、それ片付けて。行くぞ」
由起也は狩山の助け舟に乗り、鼻白んだ優芽花を置いて、そこを離れた。
図書館の外に出たところで、由起也は歩みを止めないまま、狩山に礼を言った。
「助かったよ、狩山。ありがとう」
「なんでお前、日野さんに目をつけられてんの? もしかしてあの子、今、王子先輩狙ってんのか?」
「なんで分かるの?」
「だって、あの子、有名だぜ。男をとっかえひっかえって」
狩山の話によれば、日野優芽花はちょっとした有名人らしい。かなりの美人なので、恋愛の噂が絶えない。彼氏を略奪されたと言う女子もいて、あちこちでトラブルを起こしているそうだ。
「とりあえず、気をつけた方がいいぞ、白雪。今日はたまたま俺が近くにいたから良かったけどさ」
「ありがと、狩山。どう気をつけたらいいのか分からないけど、気をつける」
そこまで話したところで、図書館から十分に離れたので、狩山にもう一度礼を言って別れた。
今日はもう、図書館には行けそうにないので、由起也は花城邸に帰ることにした。
電車に揺られている最中に、由起也はふと優芽花の発言を思い出した。
そういえば、オレが隆平先輩の家に居候してるのを、なんで知ってたんだろう。
そう思って、由起也は少しゾッとした。
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