【完結】白雪くんはりんごアレルギー〜家政夫だと思っていたら嫁入りでした!

墨済

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3章 白雪くんは森へと迷い込み

3-(6)

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由起也の父の痕跡を探す作業は難航した。
何せ、何年入学で、何部に所属してたのかも分からないから、しらみつぶしに資料をめくるしかない。
冬が来る頃には、由起也はほとんど諦めかけていた。けれど、思い込んだら一直線の隆平が頑張って探し続けるので、由起也もかろうじて続けられていた。
優芽花に出くわさないよう図書館に行くのも、隆平と落ち合うのもコソコソしなければいけないのも、地味にストレスだった。

もうすぐクリスマス、まもなく冬休みに突入するという時、それはようやく見つかった。

「由起也! あった! あったよ!」
隆平が突然声を上げた。広げているのは、昔存在したという新聞部の発行していた学内新聞だ。
「ほら! ここに!」
隆平が指し示しているのは、剣道部が学生選手権の全国大会に出場したという記事だ。剣道部の選手たちが面を小脇に抱えて整列している。

――櫛田 由信。

「くしだ……」
「はは。子供では読めない漢字、っていう由起也の記憶通りだな。なるほど、これは小学校低学年では読めないわ」
「でも、この人が本当に父さんかどうかは……」
「何言ってるんだよ! 見て、この写真。由起也に、似てる」

確かに似てる気がする。集合写真なので一人一人は小さくしか写っておらず、細かいところまでは判別が難しいが、確かに雰囲気は似てる。
「他の選手よりもちょっと背が低いところとかも、ね」
と、隆平が弾む声で言うのとは対照的に、由起也は心が絞られるように感じた。喜ぶどころか、ひりつくような痛みすらあった。

記事では、それぞれの選手の学部と学年、出身高校の名前まで書いてある。隆平が素早くその高校の名前をスマホで検索すると、隣県の高校がヒットした。

「あのあたりなら、電車でも車でも1時間弱で行ける。由起也、いつ行く?」
「え……」
隆平の期待に満ちた眼差しが、由起也には逆に苦しく感じられた。
由起也は父のフルネームが知れたことも、まだ受け止めきれていない。父は実在した。本当にこの大学の卒業生だったと、喜びの感情すらまだ湧いてこない。ただただ驚きと戸惑いしか、今は感じられない。

「先輩……、これから年末年始でいろいろ忙しいので、また落ち着いたら、行くかどうか考えましょう」
そんな消極的な意見しか、由起也は言えなかった。
すると隆平が、悲しそうに眉を下げながらも、どこか苛立ちを含んだ声で言った。
「由起也。お前は自分のことになると、なんでそんなに諦めるの?」
「諦めてなんかないです。最近、万里子さんの調子も悪くなってきてるし」
「だから! うちのことを大事にしてくれるのはありがたいけど……お前はもっと自分のことを大事にしろよ」
自分を大事にするって何?――オレが自分を大事にしたから、母さんが死んでしまったのに。そんな気持ちが由起也の頭の中を駆け巡る。

「もしかして、怖いの?」
隆平が由起也をいたわるような辛そうな顔をして言う。そんな隆平のやさしさが、由起也の癪に触る。
「怖いに決まってるじゃないですか!」
口から飛び出した言葉は、自分で驚くほど震えていた。これ以上言い返す言葉を探しても、何一つ形にならない。感情がはち切れそうになった由起也は、リュックサックを引っ掴んで、その場から駆け出した。
「由起也!」
すぐ後ろから隆平の足音が追いかけてくる。
由起也は図書館から出たところで、隆平に右腕を強く引かれた。
「ごめん! 言いすぎた」
「オレは! 隆平先輩みたいにまっすぐ突っ走れません!」
「由起也……」
「そんな簡単に、行けるわけないじゃないですか!」

由起也は隆平の手を振り解き、そのまま無我夢中で校門のところまで走った。そこで息が切れて立ち止まった由起也は、振り返って大学構内を見渡した。
――父さんの名前は、櫛田由信。そして、確かにこの大学の学生だった。

諦めていたことがいくつも明らかになり、それを整理しきれない戸惑いと、隆平とケンカしてしまった後悔とで、由起也の心はぐちゃぐちゃだった。
冬の木立の向こうに見える学舎の輪郭が涙に滲んだ。


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